第9話 蒸し暑い森
昼頃にまた休憩する。
離れた配置のまま、立ち止まった場所で座り、体を休める。
リージュは、当然さっきより辛そうだ。巻くように丸めて縛ってあった彼女の毛布を彼女の鞄から外し、代わりに運ぶために俺の毛布とまとめて俺の鞄に縛る。
水筒もひとつを残して俺が持つ。随分軽くなっただろう。しかし、何か食べる元気は無いようだ。
夏の森の暑さは体力を奪う。湖の周りが少し涼しいとしたら、敵がそこに潜んでいる理由になるかもしれない。街を追われ、行く宛の無い盗賊は今、何を考えているのか? 俺には分からない。
濡らした布を彼女の額と首筋に押し当てて冷やす。彼女はもう限界かもしれない。
わたしは、心の中で何度も叫ぶ。
苦しい。苦しい。苦しい。殆ど止まらず、朝から進む隊列に付いて歩いて来た。探知魔法を継続しているが、意識を失いそうで、役に立っていないだろう。
時折感じるのは、荷物を下ろすのを手伝ってくれる手。背負うのを手伝ってくれる手。支えてくれる手。「水を飲め」と掛けられる声。「大丈夫か?」と掛けられる声。
朦朧として誰か分からない。
たった今は休憩の最中か、わたしは座り込んでいる。立てないかもしれない。もう限界だ。
ワタシは、傭兵の男の働く様子を見ている。
献身的な処置をしているな。倒れられたら、自身が困るのもあるだろうけれど。それにしても、まだ疑っているけれど、少し見直したわ。
経験の浅い彼女に助言をした事。簡単な仕事だと侮らず、重いのを承知で十分な薬を持って来ている事。この日中の働き。これらを見る限り、本来ならば人柄に不審な点は無い。優しい態度だと言っていい。
森に入る前に、人柄を試すような事をしてしまったのを思い返すと少しだけ後悔があった。
オレは、少し考えを変えないといけない。
傭兵の男は、後方を警戒しながら、風の魔法で周囲を探知し、手当てもする、か…。思った程、悪い奴じゃないのかもしれない。
治療魔法と医療技術の飛躍的な発達。
このおかげでオレ達のような剣士が怪我をしても、傷跡も残らず治ってしまう。
この恩恵は大きく、防具は軽いものでよくなって、移動の時の負担は大きく減った。戦闘が始まっても、余力を持って走り回る事が出来る。
この事の代償がどこに行ったかは明白で、治療魔法兵士に隊員の生命を守る責任がのしかかる事になった。そのうえで風の魔法使いの代わりもしている傭兵の男は、この捜索隊を陰で支えている。
それにしても具合が悪そうだ。あの娘はもう進めないだろう。今日は、ここで泊まりかもしれない。
日没までに時間があるが、夜までに一人で偵察に出るならオレが行こう。危険な仕事だが仕方無い。そう心を決めた後、なんとなくクローの顔を見る。
自分は、ずっと気になっていた。
雇った四人の冒険者の事は、今は意識の外に置いていた。周囲の様子には気を配っていたが、少し俯いていたかもしれない。
フクロウ、フクロウ、フクロウ…。
心の中で呟く。ふと気付き、指示を出す。
「警戒を解くな。襲撃のおそれがある」
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