第7話 エルフ達の本意
ワタシは、今日一日を過ごし、彼と二人きりで相談したい事があった。
深夜、他の人に見つからないように彼を連れ出した。見張りに支障の無い所で、尚且つ話し声を聞かれない距離まで離れて密談する。
「やはり、この仕事は引っ掛かるわ。目的がよく分からない。こんな森まで追い掛けるなんて、どんな犯人で、どんな宝石なの?」
「前科の多い人物が犯人として考えられているのかもしれないな。どうしても捕まえたいのかな。でも、それにしたってオレ達に依頼するのは変だ。軍が動いていい」
「宝石については、どう思うの?」
「一個の価値が高いのか、数が多いのか。想像がつかない」
「盗賊が一人っていうのは、あの男の勘は当たるかしら?」
「オレが思うに、最初から一人というのもあり得るけれど…。それならその一人は、貴族の家の衛兵に見つかって戦っても勝てる自信があった」
「それとも、こうも考えられるわ。仲間と盗みを働いた後、盗賊の頭領あたりが金に目が眩み、仲間を殺して一人になった。どちらにせよ、剣か魔法、それなりの実力が必要ね」
「危ないな。オレ達を殺すにしたって躊躇わない」
「そうね。ありえるわ」
昼の事を思い返し、ひと呼吸する。
「元々、軍とはあまり関わりが無かったし、この先も無くても構わないわ。この仕事をこなす利点もあるのだけれど…」
「昼に言っていた引っ越しの話か?」
「そう。移動自体にお金が必要だし…。隣の街だって遠いから。その街で馴染むまでの生活費も必要だし…」
「ここまで来ても、あの怪しい男は詳しい情報を話さないしな。この仕事、危険の方が大きいか? 無事に帰る事が最優先なのは、ずっと変わらないが…」
「後の二人の事だけれど…」
「リージュって言ったか? ダークエルフは素人だ。オレもお前も魔法はそれほど得意じゃないが、魔力くらいはちゃんと測れる。探知魔法は不安定だった。まあ、緊張しているだけで慣れれば違うのだろうが…」
「そうね。そう思うわ。それで、素人の演技をするのは難しいから…」
「ダークエルフは、悪意が無い只の素人。そう言いたいんだろ。分かるよ」
「陣形の事も分かってなかったでしょ?」
「そうだな」
「仕事のうえでは困ったものだし、色々教える時間も無いけれど…」
「分かってる。分かってる。オレ達が引き返す時は、説得して連れて帰ろう」
「よかったわ」
「初仕事でこの仕事は、オレだったら受けるかどうか。誰かに相談出来ないとして…。考えたくもないな。あいつの立場で、もし、ここに居たら…」
言葉を選んでいる様子が見て取れる。
「明日くらいに、この仕事で死んでるな。多分」
誤魔化す言葉は選ばなかったようだ。黙って見つめ合う。
「あなたが居てくれて、よかったわ」
「オレもだ」
「あと、あの傭兵の男だけれど…」
「うん。今のところ悪い印象は無いな。実力は標準くらいか。探知魔法も使ってて、安定していただろ。安全を考えて判断している」
「だけれど、昼間に、ワタシ達が入る前からあの部屋に居たでしょう?」
「それは、疑ってなかった。注意が足りなかった」
「いいの。ワタシが思っただけだから」
「オレ達が来る前に、何か取引でもしていたと?」
「そもそも雇われたのではなくて、仲間がふりをしているのかも」
剣士の溜め息が聞こえる。
「困ったな。疑い出すと止まらない」
「そうでしょう。風の魔法が使える事は黙っていた。確かに、言う必要は無かったけれど」
「隠し事は嫌われるな」
「しないでね」
「分かってる。それで、他の魔法も使えるかもって事か?」
「隊列で、後ろに居るのが怖いの」
「二番目と変わってもいいが、先頭のあの野郎と近いのも嫌だろ?」
「注意しておいて。そのままでいいから」
「分かった。話しておいてよかったよ。あの傭兵は、おかしな行動を取ったら斬る。いざとなれば見捨てていく」
「酷いようだけれど、心構えはしておいてね」
「分かった。任せておけ」
彼は、先に戻って見張りを続ける。ワタシは遅れて戻って、眠りについた。
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