第6話 一日目の夜
一日目の野営までの間、歩きながら考える。
風の魔法は、ダークエルフ族が得意としている。 傭兵として軍の仕事を受ける時、俺が風の魔法を使えると知られているから、ダークエルフ族の魔法使いと同行した事が無い。
俺の使える風の魔法と何か違うのだろうか?
興味がある。当然、風の動きは見る事が出来ないし、探知魔法を使っている本人が何を感知しているかも分からない。
俺と比べて少ない集中力で魔法が使えているかもしれないが、初仕事で緊張している様子の彼女からは想像出来ない。直接聞いてみてもいいかもしれない。
数人が横になれる広場が見つかると、クローが野営の指示をする。
「夏だから、暖を取る必要は全く無い。煮炊きもしないから火は焚かない。食事は、渡した保存食で済ませよう」
昼間から薄暗かった森は、日没の前から一層暗くなり、程なく真っ暗になった。
オイルランプを小さく灯すと、遠くまで明かりが漏れないように木の枝や葉で覆う。盗賊に見つかる事を警戒しないといけない。辺りには、虫や蛙の鳴く声が響いている。人が近づいてくれば、虫が鳴き止んで知らせてくれるだろう。
薪を拾いに行かなくていいのは楽だが、温かいスープくらいあれば疲れも取れやすいのに…。
そう思うが指示に従う。まあ、俺はスープの食材は持って来ていないが…。
ランプの周りを囲んで座り、食事を摂る。クローからもっと情報を引き出せないかと話し掛ける。この男が何か隠している事は十分あり得る。
「まずは湖に向かうのか?」
「そうだな。盗賊がどこに潜んでいたって不思議は無いが、闇雲に探すわけにはいかない」
「俺はこの森に初めて来たんだが、明日には着きそうか?」
「そのつもりだが…」
クローも、この森は初めてのようだ。
エルフの男と目が合ったので、今度はそちらと話す。
「オレは何度か来た事がある。この道は覚えが無いが、感じから言って明日には着くと思う」
「途中に、崖や谷なんかの障害は無いのかな?」
「記憶にある限り、殆ど平坦な森だと思う」
エルフが嘘を言っていても分からないが、参考にしよう。
もう一度、クローに目線を向ける。
「盗賊は、どんな奴なんだ?」
「分からない」
「剣士なのか? 魔法使いなのか?」
「盗みに入った屋敷の扉は、剣や鈍器で抉じ開けられた様子は無かったそうだ」
「魔法使いの方がありそうだな。どんな魔法か分からないけど…。一人っていうのは、どんな根拠で予想してるんだ?」
「はっきりと根拠は無い」
状況証拠を元にした勘か…。
はっきりとしないのは納得出来ないが、人数が分からなくても不自然ではない。寧ろ、決めつけない方が自然だ。
人数の事もそうだが、俺達を騙す必要は無いと思いたい。例えば、盗賊とクローが仲間で、俺達を森に誘い込んだとして、その利点が思いつかない。
クローが話を変え、俺達四人に声を掛ける。
「夜間の見張りだが、自分が先に見張るから眠ってくれ。夜半に起こすから、エルフの剣士君に朝まで頼もう」
砂時計を鞄から取り出すと、地面に置いた。なかなかに几帳面な奴だ。月も星も見えないし、割り当ての時間が公平に解り易い。
新しい情報は、森が平坦な事だけか…。
休んで明日に備えよう。火が無いと肉食動物の襲撃が心配だが、見張りの二人は経験豊富そうだから大丈夫だろう。雨が降るのは勘弁して欲しい。その時は、どうしようも無いが…。
深夜に目が覚めると、エルフの二人が居ない。
だからといって騒がない。木立を挟んで見えない所、少し離れた所で、クローが信頼出来るかといった密談でもしているんだろう。向こうの立場なら俺だってそうする。
クローとリージュに異常は無い。密談は、盗み聞きしないでも想像がつくから、もう少し眠ろう。
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