第3章: パラレルワールド

 美紗が目を覚ましたのは、見知らぬ部屋のベッドの上だった。

 

「ここは……?」

 

 周囲を見回すと、そこは典型的な大学の寮室のようだった。しかし、どこか違和感がある。

 ドアが開き、見知らぬ女性が入ってきた。

 

「あら、美紗。やっと起きたの?」

 

 美紗は困惑する。


「あの、貴女は……?」

 

 女性は不思議そうな顔をする。


「私よ、ルームメイトの桃子だけど。大丈夫? 昨日の実験で頭でも打った?」

 

 美紗の頭の中で、警報が鳴り響く。これは明らかに、彼女の知る世界ではない。

 

「ねえ、美紗」


 桃子が話を続ける。


「今日の量子力学の講義、教授が休講だって。代わりに特別講師が来るんだって。確か……高橋隆二っていう若手の天才数学者らしいわよ」

 

 美紗の心臓が高鳴る。隆二の名前を聞いて、一瞬にして全てを理解した。

 彼女たちの実験は成功したのだ。しかも、予期せぬ形で。

 美紗は別の世界線に飛ばされてしまったのである。

 そして、この世界の隆二は、彼女のことを知らない。

 美紗は決意する。どうにかして元の世界に戻る方法を見つけなければならない。そして、そのためには……

 

「桃子さん、その講義、私も出席するわ」

 

 美紗の瞳に、強い意志の光が宿る。

 これは、量子の糸で紡がれた、前代未聞の愛の物語の始まりに過ぎなかった。

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