1-9 情報

プリンアラモードを食べ終えて、私たちは情報の整理することにした。


 七草くんが久能さんにお願いしてコピー用紙とシャーペンを用意して貰っている。


「じゃあ、整理を始めよう。まずは関わっている人物達だ」


「被害者が長谷川恵、大手ニュース番組に出ていて、容疑者である原田茜とは先輩後輩の関係、安井秀明とは恋人関係にあります。被害者は虐めなどの行為によって多方面に恨みをかっています」


「安井秀明は俳優で、過去には原田茜と交際していた。原田茜から被害者に乗り換えた」


「原田茜は被害者の先輩で安井秀明とは元々恋人関係にありました。今は退職を考えているようですね」


「それから謎の人物のU。復讐という言葉から察するに、過去の恨みから被害者にたいして強迫紛いの行動をとる。後にネット掲示板にて被害者の過去の行いを暴露し、犯行現場に呼び出した。正体は不明」


 紙に書き込まれていく。


「次は事件の時系列。UがDMで被害者を呼び出す。それで犯行現場に向かう被害者が監視カメラに写っている。呼び出したUがなかなか来なくて、怖くなった被害者は安井秀明に連絡をする」


「けれど、その時は安井秀明は眠っていて電話に気がつかなかった。しかも電池がきれてしまっていたことから電話が来ていたことにすら気がつかなかった」


「痺れをきらした被害者が連絡をしたが返信もなく、原田茜がUではないかと考えた被害者が原田茜を呼び出す」


「原田茜は嫌がったけど、執拗な呼び出しにおれて犯行現場に向かう。原田茜が人影を目撃、現場であった二人は口論の末、被害者が先に手をだし、原田茜のピアスが現場に残る」


「原田茜は被害者に平手打ちをした後、持っていた水を被害者にかけて、置いて帰る。……それか、殺害した。安井秀明が犯人だとしても、殺害のタイミングはこの辺りでしょうか?」


 でも、七草くんは安井秀明は犯人ではないと言っていた。


 となれば、必然的に原田茜が犯人がということになる。


「この先を説明するのは倉敷の情報が来てからになるかな」


「え?この先の説明って、もしかしてUの正体とか殺害方法とか、真犯人とか、分かってるんですか!?」


「うん。まぁ、Uの正体や真犯人は倉敷の情報が着てからじゃないと断言できないんだけどね」


 私の疑問の声にあっさりと頷かれ、口を開けたままポカーンとしてしまう。

 いや、いやいやいや。


 新米の私はともかく、ベテランといって差し支えのない横溝先輩達が殺害方法や犯人が分かっていないというのに七草くんは全て見破ってるの?


「え……。いつ?」


「原田茜の話し聞き終えたあと」


「そ、それじゃあ情報の整理ってしなくてもよかったんじゃ……」


「うん」


「いや、うんって……」


「横溝刑事じゃない人からのお願いで今みたいに刑事さんと協力することがあるんだけどさ、刑事さん達の中に俺が先に事件を解決するの嫌な人がいるんだよね」


 え、私が新人だからかな?


 そんなの聞いたことないんだけど……。


「その人に色々と詰められてめんどくさくて、しかも詰めより方が堅気向けじゃなくて怖い……。それで刑事さんがいるときは必ず情報の整理から初めていくようにしたら、癖になっちゃったんだよね」


「そう言うことですか……」


「そんなことがあったの?」


「うん。まぁ、とくに気にしてないんだけどね」


 七草くんに突っかかる刑事の図が想像できちゃうのなんか嫌だな……。


 確かに、探偵に先に事件を解決されて刑事としてのプライドや自信に傷が付く。


 そう言うのは理解できる。


 けれど、それは自分達が協力してほしいと言った者に対して行って良い行為だろうか?


 しかも、堅気向けじゃない方法で詰め寄るって、絶対に犯罪者に対するようなのと同じようにやってるよね?


 あまりにも大人げない……。


 後輩としても、同じ刑事としても情けないことこのうえない。


「なるほど……。今からちょっと横溝に電話してきますね」


「ひぇっ……」


「わぁ……」


 笑顔ではあった、笑顔ではあったけど、どこか圧のある笑みをした久能さんは私たちに一言断ってから横溝先輩と連絡を取るために店の奥に引っ込んでいった。


「……怒ってたね」


「怒ってましたね……」


 久能さん、知らなかったんだろうな……。


 多分、横溝先輩も知らないし、なんだったら横溝先輩が紹介した人がやってるわけでもないっぽいよね?


 ……横溝先輩となに話すつもりなんだろう?


「えっと……倉敷さんの情報っていつになりますか?」


「連絡来てないし明日、かな?」


「……どうします?倉敷さんの情報次第なんでしょ?今日来ないのならば解散になると思うんですけど、今お話に言っちゃってますし……」


「とりあえず、お茶飲んで待ってようか。お金払わなきゃいけないし」


「そうですね」


 そうして、お話をしている久能さんを待つこと十分程度たった頃、来店を知らせるドアベルが鳴った。


 入ってきたのはリュックサックを背負って、フードを目深に被った、猫背の男性だった。


 フードを被っているから顔は分からないが、年齢は七草くんと同じくらいだろうか。


 店の中を見回したかと思えば、七草くんの方を見て、こちらに駆け寄ってきた。


「ひ、雛密氏~」


「お?あ!倉敷だ!」


 どうやらフードを目深に被った青年が警察もお世話になっているホワイトハッカーの海月こと、フリーのエンジニアである倉敷港のようだ。


「なんで連絡したのに反応してくださらんのですか〜!」


「え?きてたっけ?」


 七草くんはそう言ってスマホを確認すると、どうやら情報整理を強いている最中に倉敷さんからの連絡が来ていたようだ。


 私も七草くんも、久能さんも誰も気がつかなかった。


「酷い、酷いですぞ。雛密氏……」


「ごめん、本当に気がつかなかったわ。とりあえず座れば?」


「そうしま……。そちらの方は?」


 あれ?さっきまで私のこと気がついてなかったの?


 倉敷さんが私に気づいていなかったことに若干のショックを受けつつ、自己紹介をした。


「刑事の日乃屋真子です。事件の捜査を七草くんに

手伝って貰っていて……」


「そ、そう言うことでしたか。通りで流行りに疎い方である雛密氏が若手アナウンサーについて調べろと言うわけで……。ぼ、ボクは倉敷港。えっと……」


「海月さんで〜す」


「ちょっ、雛密氏!?」


「あ、ちょっと前に教えられてますね」


「雛密氏!なんで言うの!」


「ごめん。警察だったら海月の方が分かりやすいかなって」


「くっそ、この傍若無人が……」


 二人のやり取りからして、とても仲が良いように思える。


 いや、仲が良いって言うよりは倉敷さんが七草くんに振り回されてるって言う感じだけど……。


「まったく、次からは秘密でよろしくお願いしますぞ。あと、ひ、日乃屋刑事も、その……口外無用で……お願いします」


「はい、分かりました」


 倉敷さんは人見知りなのか、それとも女性が苦手なのか、私と話すときは吃り気味で、視線が全く合わない。


 倉敷さんが七草くんの隣に座ったタイミングで横溝先輩と電話していた久能さんが帰ってきた。


「あら、倉敷くん来てたんですね」


「ど、ども……。あの、フルーツサンドイッチとブラックコーヒー、おねしゃす」


「はい。コーヒーは一緒に持ってきますか?」


「あ、はい」


「それでは用意してくるので少々お待ちください」


 久能さんは倉敷さんの注文を聞いて。また奥に引っ込んでいった。


「あの、言われてたもの探ってきたけどさ。これなんの役に立つの?」


「犯人の所在明らかにしないと捕まえらんないでしょ?」


「は〜、そういう?なるほどね。ならこれ警察の分の資料作っとかないといけないじゃん」


「そうなるね」


「追加料金取っても良い?パフェ食べてやる」


「え〜……。まあ、いいや。食べて良いよ」


「一番高いやつ……は食べきれないわ。抹茶パフェ頼も」


 一番高いパフェ、それに興味が引かれてメニュー表をチラ見してみると通常のパフェの倍の大きさはあるだろう“DXパフェ”なるものがあった。


 ……これ、食べきれる人いるんだろうか。


「お高めのやつじゃん。遠慮しろよ」


「いきなり仕事投げてくるクライアントに遠慮する必要あります?無いでしょ」


「ちぇ……。で、仕事の成果は?」


「あぁ、はい。これね」


 そういって倉敷さんが取り出したのは一つのノートパソコンであり、開かれたパソコンの画面にはある人物が写っていた。


「この人って……」


「事件の犯人だよ。容疑者に上がらなかった、加害者であり被害者でもあり、Uの正体でもある人さ」


 七草くんが真剣な表情で、けれどもどこか冷たい目でパソコンの画面を見ていた。

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