1-7 白で黒
安井秀明さんのお宅をあとにした七草くんは不機嫌……というかプンプンと可愛らしい感じで怒っていた。
「な、七草くん?どうしたの?」
「不愉快だから怒ってるの!」
赤ちゃんかな?
っと、本人に言ったら怒られちゃうか。
「黒だよ!黒!俺、アイツ大ッ嫌い!」
「いや、本当にどうしたんですか……」
アイツって安井秀明の事だよね?
話を聞いてる最中に特に変なこともなかったし、部屋の様子とか、帰るときの態度とかも特段違和感はなかったしな……。
マンションの前にいたマスコミに絡まれたと言うわけでもないし……。
っていうか__
「黒って、犯人ってことですか?」
「違うよ。そっちじゃなくて略奪!アイツが犯人な訳ないだろ!」
略奪?
それって安井秀明が原田茜を捨てて被害者である長谷川恵と恋人関係になっていたって言う話のこと?
「なぜ、そう思ったんです?」
「黒だと確信したのか教えてやる。君がスマホを確認している間に安井秀明と原田茜について軽く調べたんだ」
「あんな短時間でですか?」
「この情報化社会、有名人の私生活とか表になってる人物像なんかは検索一発でわかるからね」
あぁ、うん。
まあ、確かに簡単にわかっちゃうよね。
あーいう人、特に俳優の安井秀明とかプライベートなんて無いに等しいだろうし。
「それでSNSとか、流しで見てたんだけど原田茜と安井秀明が付き合ってたのは確定。これ見てみ?」
七草くんが差し出したのは原田茜のSNSに投稿された、ある写真だった。
お昼ご飯を食べに行ったようで、感想を綴っている。
晴天で白いワンピースと黒髪がよく映えていた。
特に気になることはないが、強いて言うのなら食器からして二人で来ていることと写真にチラッと写っている腕時計は男性用のゴツイものだ。
日替わりメニューとか、メニューが書かれている看板が見える。
「次こっち」
今度は安井秀明だ。
日付はこっちのほうが先で、原田茜の写真と同じところでお昼ご飯を食べているようだ。
しかもこっちも二人で来ているようだし、天気は晴天、写真の隅には長い黒髪が写っている。
あとはこっちも日替わりメニューとかが書かれた看板が見える。
「共通点は?」
「え?えぇ……」
いきなり振られて困りながらも思考を巡らせてみる。
まずは場所、それから天気と人数でしょ?
あとは……。
「あれ?原田茜さんの写真に写っているゴツイ時計って安井秀明さんの家にあった時計と同じ?」
「そうだよ。しかも、投稿の日付は三日程ずらされてるけど日替わりメニューが一緒なんだ。あとは、原田茜は黒髪ロング、安井秀明の写真に写っている髪と色と長さが一致するんだよ」
「なるほど……。でも、単に一緒に出掛けただけでは?」
「ないね。スキャンダルになれば仕事が減るかもしれないのに、臆病者がそんなことするわけないじゃん。ていうかさ、この時計ってマイナーなブランドのペア物なんだよね。こっちの写真見てみ?原田茜が、もう片方のつけてるから」
確かに女性が使うものだがか華奢になっているけど時計の作りが似てる?と思ったら二人がつけている時計が写っている商品紹介のページを見せてくれた。
ホントにペア物だ。
臆病者って、一体どう言うことなんだろう?
「しかも、匂わせって言うの?これだけじゃないからね?」
ツイツイっとスクロールしてみると原田茜のSNSも、安井秀明のSNSも似たような投稿が散見される。
なるほど、たった一つ程度なら偶然だとも思えたが、こうも似たようなのがたくさんあると疑惑が確信に変わるのも頷ける。
「あとはこれだね」
次に見せられたのは事件が起きる一ヶ月程前の安井秀明の投稿だった。
それは夕食をお洒落なレストランで食べているといった感じの投稿なのだが、この写真に写っている安井秀明の腕にはゴツイ時計はついてなかった。
ゴツイ時計の変わりに、ブレスレットがはまっており、今度は隅っこに黒髪ではなく短めの茶髪が写りこんでいる。
「で、これ」
今度は同じ時期の長谷川恵のSNSだ。
こっちは日付をずらしていないらしい。
同じ場所、写りこむ安井秀明のブレスレットと同じデザインのブレスレット、二人分の食器。
「役満では?」
「極めつけはこれ、数ヵ月前に乗り換えたって言う話だったよね?これ、短期間だけどゴツイ時計とシンプルなブレスレットが混在してるんだよ」
「うわあ……」
なるほど、これは黒だ。
「わかった?」
「わかりました。でも、犯人じゃないってどう言うことですか?」
「簡単なことだよ。金属バットさ」
「金属バット?あぁ、玄関に置いてありましたね。そういえば、前にいったときはなかったな」
金属バットなんて目立つものだからビックリした。
「あれ、護身用だよ。自分も殺されると思ってビクビクしてるんだ」
え、なぜ?
ん?いや、待てよ?
しきりに“事件はいつ解決する?”と聞いていたな。
「アイツは原田茜の報復だと思ってるんだよ」
「恋人を略奪された恨みを募らせ……ですか?」
「そう。それで、矛先が自分に向くんじゃないかって怯えてる。現に原田茜を疑っていたし、凶器と疑われてしまいそうなのに鉄バットなんか玄関に置いてたからね。外も警戒してたし」
なるほど、マスコミではなく原田茜を警戒していたのか。
「略奪うんぬんのところをつついたら過剰なほどに反応してたから間違いないでしょ。なんで疑ってるんだって聞いたら言葉を詰まらせてた。つまり、自分の浮気を棚にあげて他人の過去の所業を罵るやつってこと」
「なるほど。流石、警察が頼る探偵ですね」
「ふふーん!俺は静さんに育てられた天才探偵だからね!」
あ、一瞬で調子がいつものに戻った。
でも、確かに金属バットなんか凶器だと疑われそうなものを犯人が玄関に置くとは思えないよね。
自分から犯人ですって名乗ってるようなものだもん。
となると、やっぱり原田茜が犯人なんだろうか?
ていうか、久能さんと七草くんの関係性ってなにかなと思ってたけど育ての親か、何かなのかな?
「そうだ。あのマンションの監視カメラってどうなの?」
「稼働しているのはしているんですけど、監視カメラがあるところ以外からも出入りできるので宛にはならないかと」
「ふ〜ん。次は色んな人に疑われてる原田茜のところだよね?もう一回ミスド行こう。今度はゴールデンチョコレート!」
「え、まだ食べるんですか?」
この人、胃袋どうなってるの?
また、ミスドによって手土産を購入して原田茜の家に向かった。
原田茜の家は安井秀明と同じく、マンションだったのだが安井秀明ほどの高級マンションではなく、セキュリティはきちんとしているものの庶民に手が届くようなところだ。
「いらっしゃい」
出迎えてくれた原田茜は安井秀明とは違い、随分と落ち着いているようだった。
外を警戒している様子はないし、怯えている様子もない。
それどころか堂々としているようすから、殺人事件の容疑者として上げられているようには見えなかった。
相変わらず肝の座った人だな……。
家に上がったときの印象は前よりも部屋の荷物が片付いており、生活感が薄いように思えた。
ドーナツを渡すと喜ばれた。
やっぱり、ミスドって万人受けしやすいよね。
紅茶を優雅に飲む様は、どこかのお嬢様のようで本当に職業がアナウンサーなのかと疑いそうになる。
「それで、警察さん。私はキチンとお話ししたと思うのだけど、一体何を聞きに来たのかしら?見ない顔を引き連れているし」
一瞬私のほうを見たかと思えば、視線は七草くんの方に向かった。
「俺は探偵の七草雛密、この事件の謎を解くために警察に協力してるんだ」
「探偵?警察も忙しいのね」
「う……すみません。今は別の事件があって……」
山の中から白骨死体が二人分見つかった事件で、場所が山なだけに他に埋まってないか調べたりと大がかりなことをしなければいけないので必然と人員を裂かれてしまうのだ。
「え?まさか同一犯なの?」
「え、いえ。これに関しては全く関わりのない別件ですので、安心してください」
「そう、ならいいわ」
さすがに連続殺人となれば怖いのか、原田茜は動揺したようだった。
「で、探偵の……七草くんでいいかしら?は何を聞きたいのかしら?」
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