1-3 死後も炎上中
「これは……」
「まぁ、随分な内容ですね……」
印刷された謎の人物__Uと原田茜のやり取りは、脅迫しているものと断言できるものだった。
原田茜は最初こそ謎の人物の言っていることなど気にせず、強気に振る舞っていて全く取り合う気がないのは見てとれる。
それが、ある日を境に怯えたような、Uに対して媚びるような文面になっていた。
「インターネットで強迫とはまた陰湿な……」
「最初は全然取り合っていないのに、ある日を境に態度が真逆になってる……?」
「こちらを見れば理由はわかります」
私が指差したのはネット掲示板を写している画面をプリントアウトしたものだ。
「えぇっと?“長谷川恵の本性をお伝えします”?」
ネット掲示板のタイトル、そこに書かれた文面を七草くんが読み上げる。
以下の内容は見ているだけで気分が悪くなるようなものだった。
掲示板を使っている人物、スレッドを立てた張本人である、これまたUと名乗る人物の言葉から始まっていた。
“タイトル通り、今人気絶頂の新人アナウンサー、長谷川恵の本性をお伝えします”と書かれており、その言葉にスレッドを見ている人たちは見事に食いついている。
その後に綴られていく文章は、Uという書き手の怒りを滲ませているものだった。
被害者は高校時代に気に入らない相手や自分に従わない相手を虐め、何人も不登校に追い込んだことがある。
被害者は気に入った男性がいれば、恋人がいてもお構いなしにモーションをかけて、略奪して、満足したら捨てる。
親が金持ちで学校に寄付していることもあってか、教師は見て見ぬふりとなり、教室は__いや、学校は彼女の城になっていた。
つらつらと書かれていく凄惨な虐めの話しと共に上げられた写真には、虐めの決定的な証拠となる場面が納められており、虐められている人物の顔は隠されているが虐めているが話の人物の顔は無修正のままだった。
写真に写る、顔が加工されていない人物のうち一人の中に、今回の事件の被害者である長谷川恵が写っていた。
これを見た掲示板の人たちは無論のこと騒ぎ立てた。
まさしく人の不幸は蜜の味、我々は正義である、そう言った様子で嬉々としてあちこちのSNSに拡散していき、波風を広げていく。
ファンだったものは落胆し、失望し、怒り、軽蔑し、一部に関しては宗教の教祖にでも向けているかのような盲目的な言葉を並べ立てて“長谷川恵がこんなことをするはずがない。画像は合成かなにかだ”と騒ぎ立てている。
人の不幸は蜜の味だと思うもの、独善的な正義を掲げるものが情報を蒔くためにあちこちで動くが、宗教めいた者達は阻止のためにあちこちで発言する。
これだけならば、アナウンサーのファン達が情報に踊らされているというだけで、外野は静観して終わるだろう。
ここまでが一日で起こった話であり、この掲示板の内容を見た常識の無いファンが長谷川恵のSNSのDMに突撃、掲示板の画像を送られたことにより本人に事態が知られることになった。
長谷川恵は話術でその場を凌ぎ、ファン達には事務所から生命を出すので待ってほしいと告げた。
そして掲示板の投稿者である者の名前がUであることから、少し前にDMをしてきたUが原因だと考えたらしく、態度を急変させた、というのが経緯だ。
Uは一言、“復讐”と送り付け、それ以来なんの音沙汰もなく、被害者が死ぬ当日、また連絡が取れたかと思えば住所を残して、また連絡が取れなくなっている。
残している住所は、例の犯行現場だった。
そこで終われば、もう死んでしまっているけど長谷川恵や放送局からすれば不幸中の幸いとして傷は浅かっただろうが、不幸中の幸いにならない事態が発生した。
私はノートパソコンを取り出すと、掲示板と大手SNSを表示させ、二人に見えるようにした。
「これも見てください。死んだあとに、もう怖いものはない見たいに投稿が増えているんです」
「おぉ……怖」
「燃え上がりすぎて焦土になってない?ペンペン草も残ってないでしょ」
「油まかれてるので燃えるものがなくても当分火は消えないかと……」
長谷川恵が死んだという情報が世に出回った後の事だ。
Uの証言は学校での虐めや恋人の略奪等で終わっているが、他のものが発言しないわけもなく、Uに触発されて続々と証言を上げるものが出てきたのだ。
出てきたのは学生時代虐められた者だったり、見ていることしかできなかったのを悔いる者だったり、恋人を略奪されたことで恨みを抱いている者だったり。
なんだったら高校を卒業したあとのこと、高校生時代よりは少ないが色々とやらかしていることを暴露されてしまっている。
本当に興味もない人間は知っていなくても仕方がないが、ネットやファン達の間では炎上騒動が落ち着く兆しも見えず、アンチや長谷川恵の被害者達がこれ幸いと火に油を注ぐ行為を行い火が消えない状態になっている。
なんだったら“死んで当然”や“殺した奴は英雄”なんていう、品性疑うような投稿まで散見される始末……。
もはや、放送局も匙を投げそうな状態だ。
「なるほど、だから最近ネットで名前を見る機会が多かったんですね」
「知らなかったんですね……」
「名前を知っているだけで、微塵も興味ありませんでしたからね。出ているニュース番組を見ているわけでもなかったので」
まぁ、本当に興味ないタイプの人はこんな感じになるのも当然か。
「あ〜、なんで来たのかわかった。容疑者は二人とか行ってたけど、顔が割れてる容疑者になりそうな人物から絞り混んだだけで匿名の人たちからは絞れてないんでしょ。あと、あんまり捜査が進んでないってばれたら大変だもんね」
「はい、開示請求は行っていますが、如何せん個人情報ですので手間取っていまして……。これだけ恨みを買っていたら、容疑者の二人でなく別の誰かに殺されている可能性もあって……。なのに、原田茜さんを疑っている人が多いですし……」
「そりゃ当然でしょ。あからさまに怪しくて、疑ってくださいって言ってるようなもんだよ。怪しすぎて逆に怪しくないって奴」
まあ、上の考えることもわかる。
窓口に、事件に関するいたずら電話とかが増えているから早く沈静化したいと思ってのこれなんだろう。
「今回の被害者は有名人だから、言えとか探ろうと思えば探れるよね。SNSなんて名前と顔を売っているんだから、当然一瞬でばれる。容疑者の二人でなくても出きる犯行でしょ」
七草くんはネット掲示板を吟味し、顔をしかめた。
わかる、結構酷い内容の虐めが書かれているから見ていて気分が悪くなるし、虫嫌いや潔癖性な人間には特効入りかねないような内容だ。
「見つからない凶器、あちこちで恨みを買っている被害者、次々と現れる被害者に恨みを持つ人間……。ここに来た理由はわかったよ。無論、協力しよう」
「ありがとうございます」
横溝先輩曰く、カフェ・ド・クリシェの人たちが手伝ってくれるなら百人力だって言っていたから、事件解決の方向に進んでいけばいいけど……。
「さてと……」
七草くんはコップの中の緑茶を飲みきったと思ったら、立ち上がって荷物をまとめて、財布から飲み食いしたぶんのお金を取り出す。
「外行くから準備しな」
「へ?」
「俺は安楽椅子探偵の婆さんじゃないから、現場行くんだよ」
「え、あ、今から行くんですか!?」
「そうそう。あ、許可とかとってる?取ってないんだったら横溝さんに言えば行けると思うんだけど……」
「あ、は、はい。連絡してみます」
慌てて横溝先輩に電話する。
「おう、横溝」
出てくれるか不安だったが、連絡が来ることがわかっていたのか、あっさりと電話に出てくれた。
「あ、先輩、忙しいところすみません。あの、七草くんが現場を見たいと行ってまして……」
行けるのかな、これ。
「おう、良いぞ」
「え、良いんですか?」
「お前が出ていった時点で許可取ってたし」
「ま、まじですか」
あ~……。
先輩、こうなることわかってたのか。
いや、現場見ないとわかんないこともあるし当然ではあるけど……。
こんなに、一介の探偵を捜査に食い込ませて良いのだろうか……。
「じゃあ、俺はやることあっからきるぞ」
「え?あ、キレた」
ブツリと音がしたあと、プー、プーと言う音が鳴って電話がきられたことを知らせる。
こんなあっさりといくとは……。
そう、驚きから唖然としていると七草くんに肩を叩かれる。
「オーケー出たんでしょ?行くよ」
「あ、ちょっと待ってください。お会計してません!久能さん」
「はーい。お会計、千八百二十円になります」
準備をすませた七草くんが出入り口で待っているから慌ててしまい、代金を支払おうと小銭を取り出したときに取り落としそうになった。
「はい、丁度です」
にっこりと綺麗な笑顔を向けられ、一瞬ドキッとする。
久能さん、美人だな……。
って、そんなこと考えてる場合じゃなかった。
資料を片付けて、七草くんのもとに駆け寄る。
「それじゃあ、行ってくるから倉敷に頼んで掲示板の事とUのこと調べるのお願いしといてくれる?今度おごるからって」
「わかったよ。二人とも気を付けてね。……日乃屋刑事、頑張ってください。なにかあったら電話して良いですから」
そう言って久能さんのものだろう連絡先が書かれた紙を差し出された。
連絡先が書かれた紙を受け取って、私達は久能さんに見送られる形でカフェ・ド・クリシェをあとにし、今回の事件の被害者である長谷川恵が殺害された事件現場に向かう。
事件、ちゃんと解決できると良いな。
というか、私だけ頑張れって言われたのは何でだろう?
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