1-2 捜査概要
若干困惑しつつ、上に了承を取ったという横溝先輩の言葉を信じて二人を頼ることにする。
久能さんの気遣いにより、突然来店があってもお客さんには捜査資料などが見えない、お店の奥にあるボックス席に移動して、事件の説明が始まった。
「では、事件の内容から説明します」
鞄から資料を取り出し、見えやすいように広げる。
「事件は先日起きました。お二人とも、
被害者の写真を前に出す。
写真には今時の、綺麗で可愛らしい写真に写り慣れした女性が写されていた。
「毎日やっている大手ニュースで見た覚えがありますね」
「俺知らな〜い」
「朝の六時から八時までやってる番組なんですけど……」
「その時間寝てる」
……ちょっと、なんか不安になってきた。
まぁ、いいや、そもそも生活サイクルが違うんだろう。
「いい加減、規則正しい生活をしたらどう?」
「やだよ。一杯寝ないと力でないんだもん」
……やっぱり不安になってきた。
横溝先輩は優秀だといってたけれど、本当に優秀なんだろうか……。
七草くんが子供っぽすぎて警察に協力している探偵とは思えなくなってきたし、なんだったら未成年なんじゃないかとも思いだした。
「えっと、それで長谷川恵と言うアナウンサーが死体で発見されたんです」
被害者の遺体を発見したのは日課のジョギングしていた男性。
人が倒れているのが見えたので駆け寄ってみたら頭から血を流しており驚きながらも警察と救急に連絡をいれた。
男性が連絡をいれてから八分ほどしたあと、警察が現場に到着。
その少しあとに救急車が到着したが、被害者の死亡が確認された。
そこから捜査が始まり、容疑者として上がったのは二名。
「二人とも見たことがあるかもしれませんね。男性の方が
世間一般で言うところのイケメンであり、デビューから三年たっている。
様々なドラマに出演しており、主役までとはいかずともメインキャラクターを勤めたこともある演技派だ。
「女性の方は
ニュース番組の顔といっても過言ではなく、可愛いと言うよりはキツめの美人と言った感じの顔立ちをしている。
ニュース番組で活動している歴は長く、ベテランといっても遜色ないだろう。
「なぜ二人が容疑者としてあげられたのか。それは現場に二人の私物が残っていたこと、それから被害者の電話に履歴が残っていたことの二つが理由です」
安井秀明さんの私物である口紅は被害者の鞄の中から発見され、原田茜さんの私物である片方だけのピアスは被害者が倒れていた近くに設置されているベンチの下にありました。
「ふ~ん。裏は取れてるの?」
「はい。安井秀明さんからは数日前に失くした物だとはっきりと証言しました。原田茜さんの方はいつ失くしたかわかっていなかったようで、心当たりがないかと見せたときに驚かれていましたね」
鑑識にまわし、調べて貰った結果。
双方、本人のものであるとの結果も出ましたので間違いないだろう。
「動機は?」
「安井秀明さんの方は被害者の浮気を疑って、勢い余って……といった感じではないかと考えています。安井秀明さんは容疑を否定していますし、浮気を疑ったこともないと言っていますけどね」
“浮気”といった単語が出た瞬間、七草くんの眉間のシワが凄いことになった。
こう言う話、嫌いなんだほうなと言うのは一目でわかった。
「長谷川さんは浮気をしていたんですか?」
「明確な証拠はありませんけど、原田茜さん曰くやりかねないとおっしゃっていました。それで原田茜さんなのですが……」
「が?何?」
「……恋人を寝取られた報復ではないかと」
あ、七草くんの眉間のシワが更に深くなった。
「本人からとれた証言なのですが、元々原田茜さんと安井秀明さんは恋人関係にあったようなんです」
安井秀明さんは否定していたのですが証拠にといって、交際中にとった写真を見せて貰いましたので間違いないでしょう。
二年ほど交際していて結婚も視野にいれていたそうなんですが、数ヵ月前からいきなり様子がおかしくなって別れを切り出されたんだそうです。
そして、その数日後、二人が交際していると言う噂を聞いた原田茜さんは安井秀明さんに直接聞きに行ったそうで、帰ってきたのは返事は肯定だったそうです。
「……はぁ〜」
私が話し終わると深いため息を吐きながら、ズリスリと背もたれに沿いながら沈んでいく。
あからさまなやる気の低下、さっきまでのドヤ顔はどこに消えたんだろうか……。
「こぉら!雛くん、ちゃんと座って、最後まで話を聞きなさい」
「だって!オレこう言うはなし大ッッッッ嫌いなの!静さん知ってるでしょ!胸の辺りがムカムカする!聞いてるだけで耳が気持ち悪い!」
その様子はまさしく子供の癇癪のそれだが、言っていることは頷けた。
私は悪趣味ではないから、人が浮気している云々の話を聞くのは苦痛になってしまうので好きではない。
私は純愛が好きなのでね。
七草くんほどではないが嫌悪感もあるので彼の態度は理解できるが、些か過剰反応なきもする。
何かしら、その手のトラウマがあるのかもしれないから触れることはしない。
「雛くん、自分がやるって言った仕事でしょう?日乃屋刑事を困らせていないで、早く解決しなさい」
「うぐぐぐぐ……」
「日乃屋刑事、すみません」
「いえ、大丈夫です」
そういって席を移る際におかわりをいれて貰った紅茶を飲む。
うん、美味しい。
紅茶を飲んでいる間に七草くんは座り直し、紅茶と同じようにおかわりをいれて貰った緑茶を飲んで落ち着いたようだ。
「はぁ……。遮ってごめん。それで、続きは?二人とも容疑を否定してるの?監視カメラとかはうつってたりした?」
「二人とも容疑は否認していますね。監視カメラは設置されていなかったようでして、少し離れたところに被害者と原田さんの姿がうつった記録がありますね」
被害者がうつったのは犯行時刻の二十六分前、原田茜さんがうつったのは犯行時刻の十六分前になり、他に人の姿もうつっていなかったことから原田茜さんの嫌疑は強まりました。
「ただ、監視カメラがあったのは大通り方面。反対側の細道方面には監視カメラがなく、そちらから犯人が着ている場合は姿がうつりません」
「ふむふむ、凶器は?」
とうとう来たか、凶器に関しての質問……。
「それが問題なのです」
「凶器が問題?もしかして見つかってないの?」
「はい、我々刑事が雑木林からゴミの中、いろんな所を探しましたが見つからず……。捜査の進展もここで止まり、原田茜さんが犯人だと確信している人もいますけど、凶器と言う決定的な証拠がない状態ではどうにも……」
これのせいで雑木林に頭から突っ込んであちこち怪我をしてしまった。
「容疑者の家とか調べたの?」
「えぇ、ですがどちらからも発見できず……。傷から鈍器だと断定され、何度も何度も殴られていることから相当恨みが強いのは伺えるんですけど……」
今あるのは動機だけ、疑いはかかっているものの決定的な犯人を指し示す証拠は何一つ無いから逮捕なんて出来やしない。
「被害者の電話履歴はほとんどが原田茜さんにかけるもので埋められていて、そうとう呼び出したかったことが伺えるんですけど原田茜さんは意地でも会いたくなかったのか十数分ほど放置してたり、犯人らしからぬ行動をしているのが気になるんですけど……」
何度も頭を殴って殺すほど恨みを持っており、入念に凶器も隠しているのだから計画犯だと判断できるのだ。
被害者から呼び出されるなんて犯人からすれば絶好の機会が出来たようなものなのに、原田茜さんは数十件と電話が掛かってきたのに無視していることに違和感が感じられる。
本人曰く、着拒しようか迷っていたぐらいらしいし……。
「飛び出しに応じたあとは?」
「口論になったそうです。平手打ちをされたそうでほほに爪で引っ掛かれただろう傷がありました。その時にかっとなって持っていた水をかけたとも」
「強かな人ですね」
「被害者の爪から原田茜さんのDNAが発見されたので、口論になったのは事実のようですね」
「う〜ん、話を聞く限り確かに原田茜さんが怪しいと思うけど、これだけじゃなんとも言えないね。もっと何か無い?なんでもいいよ」
「そうですね……。あぁ、二つ話忘れていたことがありました」
資料に埋もれていた紙を取り出す。
それはインターネットの掲示板と、被害者と謎の人物のインターネット上でのやり取りを印刷したものだった。
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