第6話 クラムチャウダーではなくチゲ鍋

流石になんかダメじゃないですか?風情がないって言うか、なんかだめです。


なんかってなんだよ。まあやらないけどね。

誰かいないのかなぁ。


誰もいなかった、田舎すぎたのだ。それと朝すぎた。僕らは自販機でしじみ汁とクラムチャウダーを買い僕は振らずにしじみ汁を先輩に渡した。僕はクラムチャウダーを死ぬほど振り一気に飲み干す、死ぬほど熱い口からはクラムチャウダーがこぼれ、涙が出る。クラムチャウダーではなかった。チゲ鍋だった。先輩が隣から押していたのに僕は気が付かなかった。


仕返しだ。と先輩が言った。


一気飲みするとは思わなかった。と先輩は余裕の笑みで言った。


本気で引いてる。と先輩が言った。


先輩が缶に手をかけプルタブを引き飲み干す。それも、一気に。咳き込むのが先か僕は勝利の笑みで口角を上げ狂喜乱舞しそうなのを抑え、ゲロを吐きながら小さくガッツポーズをする。


ビタミンレモン黒酢だったのだ。先輩は子供みたいに泣きだす、と僕は嬉しくなり、これでも飲んでくださいと手に持っていた缶を渡した。


ゔゔ、これチゲ鍋じゃん、と涙ながらに先輩は言った。


鼻水やら涙やらよだれやらでぐしゃぐしゃになった先輩の顔を持っていたタオルで拭き、背中をさする。僕の勝ちだ、と小さく呟く。


先輩は僕のタオルに仕込まれていた遅効性のハッカ油に悶え苦しんでいる。僕は転がる先輩を横目に席を立ち自販機でコーヒーを買い、おにぎりを食べた。今までで1番美味しいおにぎりだった。勝利の味がした。


オ゛ッボゥエ?!ン゛ン゛(胸板を叩く音)


すごい胸板の音がしますね、心配です。


オ゛マエ゛!!


目が真っ赤ですよ、心配です。


た゛す゛けて、苦し゛い。


じゃあ、海に行きましょうか。ほら立ってください。


歩道橋を歩き、海が見えるホームに立つ電車なんか来ない、電車なんて待っていない。僕らは今から柵を越えて本当の非日常を手にするのだ。先輩早く登ってくださいと、急かす。咳き込みながらも登り切る。下から絶景を眺め終わると、僕はホームの休憩室と一緒になっている海へのトンネルを通って海へと出た。


先輩、大丈夫でした?心配です。


大丈夫な訳あるかバカタレ。


でしょうね。心中お察しします。


先輩は傷だらけで綺麗な白い太ももには火傷と切り傷が痛々しく見えた。僕はそれにハッカを塗った消毒液を振りかけ、ハッカを染み込ませた包帯を巻いた。先輩は何にも知らないでありがとうと言って僕の手を取り涙を浮かべる。手の切り傷に染みたのだろうか、僕の優しさに沁みたのだろうか。


あーあ、こんな事されてるのに、腹が立つのになんでだろう。君が好きだよ。


ありがとうございます。僕もです。


知ってるよクソバカチンカスドブ人間。


お、スワンプマンからきた罵倒かなと思案しながら怒った顔もかわいいなと頭を撫でようと手を伸ばす。


私は小動物じゃないよ。と先輩は手を振り払いずんずんと砂浜に小さな足跡を力強い足取りでつけて歩く。音のなる靴を履かせたいな、きっとその音を鳴らす大会があれば優勝候補だろう足取りだ。


疲れたよ。後輩。


お疲れ様です。ミユさん。


ちょ、え、うん。びっくりするじゃん。えっとま、マサトシくん。


ミユさん。


マサトシくん。


なんか疲れるし小っ恥ずかしいので先輩でいいですか?


まあいいよ。バカヘタレ根性なし後輩。


ブチギレてます?キレ度体温計で測るなら何度ですか?仮装大賞の点数で表すなら?スタンドのパラメータで表すなら何点ですか?


38.5度、89点、パワーA、持続性A、精密動作性Sってもう、めんどくさいしむずいよ。お前。


(強いですね。


大体スタープラチナだから。)


優勝候補ですね。


あの司会のジジイも心臓麻痺で死にかけてるよ。良すぎて


デスノートの仮装ですか??


人間って、面白。


そうですか。そんじゃ着替えも終わりましたしご飯にでもしましょうか。


ちょっと待って今カニ捕まえてるからな。


デンマークの首都ってスェーデンですよね。


カニ逃げた〜。


残念ですね。


別に、お前のせいだな。


そうですか。


生麺鉢に入れてどうしたんだ?


ラーメンです。


海水入れてどうしたんだよ。


塩ラーメンです。


そういう事か。楽しみにしてたのに。


あからさまにがっかりしないでくださいよー。ご飯なんて誰と食べるかでしょ。


お前と食べる飯はさぞかし中途半端なんだろうな。


僕は絶品抱腹絶倒舌パンチですけどね。


意味がわかんないよ。


つまり先輩と一緒なら海水も天一のこってりってことです。


海水がこってりスープになったらきっと人間も何もかも絶滅するしそれはもう人間ラーメンだね。


美味しそうですね。


濃いけどそれなりにいけるな。喉も乾くけど。


水ならそこら中にありますよ。


余計乾かそうとするな。


濾過装置持ってきてますよ。これで僕のションベンでも飲みます?先輩のなら僕大歓迎ですよ。


激キショだな。最低、そんなやつだとは思わなかった、ちょっと好きだったのに。


ありがとうございます、ちょっとなんですか?


とても好きだ。でもやっぱり嫌い。


嫌いならこうやって海まで来てないですよね。


そりゃね。


へへへへへへ

へへへへへへ


オードリーじゃないですか。


好きだろ。


まあ、好きですよ。


ならキスしよう。


しますか。


さんさんと砂を焼く太陽が見守る中、秘密の入江で僕らはキスをした。塩を含んだ唾を口の中で舌を使って混ぜ合わす、ここは人のこない入江だ。僕は複雑な人形みたいな服を着た先輩の服の脱がし方もわからずに服の上から胸を撫でた。


わざわざ脱がすほどの膨らみもないつまらない胸。


そんな躰に興奮して息にノイズの混じる後輩を愛しく私は思い抱きしめたくなる。


抱きしめてくださいよ。


私は小さな胸に先輩らしく抱きしめようとする。


抱きしめてくださいってば。


抱きしめてみたい。


あっ。


僕はバランスを崩して先輩に覆い被さる。

苦しそうな先輩の口からはさっき食べた生麺たちが溢れ出してきてぶくぶくと泡を立てている。

僕は先輩の唇を奪うと溢れ出てきそうな胃液の混ぜ物を啜り、すっぱさを感じた後いたずらに唾液と混ぜた吐瀉物を先輩の口に流し込んだ。仕返しだ。えずいている先輩もかわいい。


そこまで、おぇぇぇげぇぇえ。ナレーション、しなくていいから。


大丈夫ですか?ちゃんとエッチでしたよ。


大丈夫じゃないから。

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