第5話 クソオタク談義

うぅ全身が痛いよ。


いやぁほんとよく頑張りましたね。


本当に最低だよお前。


ありがとうございます。それじゃ僕海に行きますね。さようなら。


何回置いてくんだよ。


手でも繋ぎますか?


まあ。


しゃあないですね。


あ、そうだ罰金。後輩、さっきはいを2回使った分と昨日の分払って。


もう払いましたよ。切符代2人合わせて2,000円でした。僕の2000円札返してくださいよ。沖縄産だったのに。


ごめんね。私のせいで、私が遅いせいで始発乗れなくて。ごめんなさい。


泣かないでくださいよ。これから海で濡れるんですから。


嘘泣きだよバーカ。でもちょっと悲しかったのは本当だよ。本気で苦しくて死にそうだったからね。


そりゃよかったです。

じゃ乗りましょ、電車きましたし。


次あんなことしたら私と一緒に心中してもらうからね。


と呪詛のように吐き捨て僕は、それもいいですねと言って、先輩の手を引いて電車に乗り込んだ。


人が全然いない朝の列車、息の音や鼓動すら聞こえるくらいだ。2人きりだからか声も響く。


世界で私たちだけになっちゃったみたいだね。


嫌ですか?


嫌だね。お前と2人きりは嫌だ。あとカイジの続きと刃牙の読めない世界はクソだ。


それもそうですね。僕は先輩と2人きりなら嬉しいですけどね。


エッチだね。


そうですか?


そうだよ、だって私で性欲を満たして時間を潰せればそれでいいってことでしょ。


ぐぅ。


困ったからってぐうの音を出すんじゃないよ。


好きだからですよ。


私はちょっと嫌いになったけどね。


ちょっとなんですね。


カイジのが好きなくらいには嫌いだよ。


ハンチョウよりは。


お前、ハンチョウ舐めてるだろ。ハンチョウは優しいしおおらかだし励ましてくれるしお前よりはマシだぞ。お前。


そうですか。ハンチョウ推しの人初めて見ました。


結構いるでしょ。


知る限り、先輩だけですよ。


駅名のアナウンスも聞こえない、完全に誰も立ち入ることのできない、2人だけの世界。には入り込む藤原竜也似の男がいた。男は、電車に乗り込んで12秒、と少し悩んだあと僕らの座る4人席の窓側、僕の隣へと座る。本を広げたそれはまさにトネガワのスピンオフだった。藤原竜也、トネガワ。圧倒的存在感。ブックカバーに巻かれるトネガワも窮屈そうに僕も窮屈だ。


先輩は目を輝かせ、指を刺して今にも話しかけそうな感じだ。話しかけた。


あの、藤原竜也さんですよね。


いや、僕はキラです。


やっぱり!!藤原竜也さん!!あれやってくださいよ。床のやつ。


僕は電車内だしめんどくせぇファンみたいだしで止めたかったが先輩も藤原竜也によく似た男も止まらなかった。おい、公共施設だぞ、と言いたかった。


あ゛あ゛ど゛う゛し゛て゛だ゛よ゛ぉ゛床がキンキンに冷えてやがる゛ッ゛


よく似た男は満足したのか後ろの号者へと最後まで右手を押さえ足を引き摺りながら去っていった。


ありがとうございます!はぁあ藤原竜也さんに会えるなんて幸先がいいね。


そうですね。先輩。多分偽物ですけどね。


それでも!!


あれ、先輩、先輩、あれ阿部寛じゃないですか?


え、山田孝之だよ。


ムロツヨシですよね。


それは君のが似てる、調子めっちゃ悪い時のムロツヨシ。


いや、ウッディじゃないですか?


君のこと?いや君はムロツヨシ、あいつはアベヒロシ。


You


ほらやっぱり阿部寛だよ。でれれんれんれんれんれんれんれん


BGMはいいですから。わかんないですよ僕。母の泉の回しか知らないですもん。


まだ知ってる方でしょ。


あ、降りる駅ですよ。


阿部寛置いてくの?


置いていきますよ。知らない人ですし、迷惑ですよ。


ちょっと待ってて。


ちょっとだけですよ。


サインもらってきた。

これ

      YOU

って書いてあるよ

絶対偽物ですよ。


それでも!!


ユニコーン!!

じゃないんですよ。いきますよ。先輩。


といいつつ乗る後輩であった。


海が見える。なのに僕は海よりも先輩を見ていた。見ていないとどこか遠くに行ってしまいそうな気がして。波の音のせいか、知らない駅で降りたせいか駅が死ぬほどボロかったせいか、僕らは非日常に降り立った。歩道橋を歩いて切符を回収箱に入れて駅を出る。駅員もいない駅だ。帰る駅もそうだけど。

海を背中に僕らは踏切を探す。だけど踏切なんて全然なくて、先輩は駅に戻って有刺鉄線をこえようと言った。ああ、それもいいな、先輩が傷つく姿が見れる、きっと電流も走ってる。だけど走って駅に向かおうとする先輩を悔し顔で僕は止めた。

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