第2話 帰り道

いつも一緒に帰っているのに今日だけは夕日がいつもより赤かった。手のぬくもりのせいか、顔を見合わすことができない。先輩はずっとこちらを覗きこむように見つめている。表情は何も映してはいない。感情の乗せ方を彼女はたまに忘れるらしい。家は隣同士だった。学校から700メートルしかないこの道がいつまでも続くような気がする。


先輩はおかわりないですね。


そういう君はあの夕日みたいだね。


そりゃね。


でもなんか安心したよ。ちゃんと人間味あるじゃない。


何味だと思ってたんですか、ブルーハワイですか?僕は血の通った人間ですよ。先輩は殺しても死ななそうですね


ん、いちご。私、死なないよ。試しに橋から飛び降りるね。


長い黒髪を揺らし、無い乳を揺らす、美人なのに突拍子のないことをするし、何を考えているかわからなすぎる。なんて考えている間に先輩は水浸しになっていた。

おーい、後輩。生きてるぞー!!と言う。

僕は太ももにできた大きな虹色のあざを見逃さなかった。僕はまた興奮していた。飛び降りるとき一瞬見せた恐怖の色、濡れて透ける白い肌。先輩は下着をつけていなかった。肌には今できたもの以外にも様々な跡が軒を連ねていた。小さい体に大量に。バチカン市国、頭に浮かんだのはそれだった。


太もも、触りますね。


うん。


いたいですか?


まあまあかな。


歩けますか。


歩けないね。


僕は先輩を抱える。お姫様抱っこで。軽い。先輩の身長を考えると妥当な体重ではあった。さすがに林檎3つよりは重かったけど。ちょっと重い大型犬くらいの重さだった。動けない先輩には正直欲が抑えを失いそうになる。だけども僕はプラトニックのつもりだ。

家まではあと800メートルだった。心配なのは僕の腕だけだった。


もう夏休みですね、と僕は抱えた先輩に向かい言う。


冬が待ち遠しいなと先輩は笑った。


夏は嫌いですか、と尋ねる。


いや、うん嫌い、暑いし虫がいるし。


僕は心臓がきゅうっと熱くなる、急須で入れたお茶を飲み口から直接喉に流し込んだくらいには熱くて命の危険を感じる。だから思わず腕から力が抜けて先輩を地面に落としてしまった。コンクリートの上で鯛みたいにもがいている。


先輩にも可愛らしいとこあるんですね。


だろ、としたり顔で頭をさすりながら立ち上がると、心配はいらないよと言って笑った。


立てるじゃないですか。


はっ、とした顔で座り込むと。足、痛い。といって顔を歪ませ涙を瞼に塗る。


先輩って無表情って感じなのにめちゃくちゃ表情豊かですよね、人間に化けた異星人みたいな。


私、そんなに変か。


僕の中の普通なら変寄りですね。


私の普通じゃ普通だけどね。2人自分がいればきっと普通って言ってくれるよ。


先輩、海行きませんか。


いいよ。でもなんで。


ラーメン食べたくないですか。


別に。食べたいけど。


よし、決定ですよ。


明日行こう。


明日学校ですよ。終業式でしょ。


嫌、明日。決定。


はいはい。


はいは一回でお願いします。2回目からは手数料がかかり3度目からは死刑となります。4度目は食肉として皆様にお届けとなり、5度目からは定期便として皆様にお届けになります。


はい。


じゃあ、また明日。


はい。


僕は自転車に乗り、スーパーへ行くとカバンいっぱいに生麺を買った。チャーシューも買った。レジの女は4580円ですと言い僕は生麺を2袋にしてくださいチャーシューは要らないですとだけ言いたった1人の野口英夫にお別れのキスをしてレジスターを喜ばせ、女を嫌がらせた。スーパーではメリクリが流れていた。夏なのに。

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