第四章 龍の戦士達
十年ぶりに帰った故郷の村は、彼にとって懐かしい記憶の中にぼんやりと残る風景だった。診療所は村の西端にあり、幼い頃母に連れられて訪れた場所だ。熱に苦しむ幼い彼を治療してくれたのが楓蘭の母親だった。
「診療所は確か...あっちか!?」
齋煇は診療所の方向を見定め、駆け出した。
この村に帰郷する道中、齋煇は微かな記憶を手繰り寄せるように楓蘭のことを思い出していた。楓蘭は母親譲りの美しい白髪を持つ優しい少女で、彼女の母親と齋煇の母親は親しい友人だった。あの時の診療所の温かい雰囲気が齋煇の心に深く刻まれていた。
「!、あれか!」
齋煇は診療所を見つけ、足を速めた。
その瞬間、突然の暴風が彼を襲った。後ろにまとめられた髪が舞い上がり、齋煇は思わず腕で顔を覆った。
「突風!?」
彼は驚きの声を上げた。これは先程の龍戦士の少女と同じく龍術だ。
その刹那、銀髪を髪先で留めた端正な顔立ちの青年が、齋煇の頭上の空中から得物の鐵扇によって風の刃を叩きつけた。
「銀龍・鐵扇風牙!」
齋煇はとっさに腰に佩いた得物の剣を抜いた。その刃には紅龍の術が宿り炎を纏った。
(紅龍の術!?)
颯純は驚愕したが、空中で体勢を直しそのまま地面に着地した。
齋煇の鐵扇から巻き起こされた風の刃はそのまま齋煇に向けて放たれたが、齋煇は炎の剣で風の刃を一刀両断した。
(間違いない、あれは紅龍の術。ということはコイツは煌家の一族の生まれなのか?)
颯純の心中に疑念が湧いた。
しかし考える間もなく、齋煇の背後から息を切らした流瑋が現れた。
「颯純!そいつは煌家の人間だが無断で村に侵入した!そいつの目的は楓蘭だ!ひとまず捕らえるぞ!」
「流瑋か、」
颯純は流瑋に視線を動かした。流瑋の焦りは自身の持ち場を守りきれず、門を突破されたことによるものだろう。
「青龍水鎖!」
青龍の術を発動し流瑋は水の鎖を繰り出した。細くのびた水の鎖は真っ直ぐ齋煇の剣に絡み付き、動きを留めた。齋煇の剣は流瑋の水の効果で、刃に纏う炎はかき消された。
「また水かよ、勘弁してくれ!」
齋煇は叫んだが、流瑋は怒りを露に反論する。
「だったら、大人しく捕まれ!この侵入者!」
「...無断で村に侵入したのであれば、やむ得ないな。拘束する。」
瞬きする間に颯純は自分の考えをまとめ、行動に移した。
「銀龍・薬効の風。」
颯純はひどく落ち着いた声で、そう呟くと齋煇に向けて得物の鐵扇で齋煇に風を送った。
先程の突風と比べれば、ずいぶん弱々しい風であったが、効果はすぐ現れた。
齋煇は突然の体の痺れで体勢を崩した。得物の剣を地面に突き刺し、片膝を地面についた。
「なんだ、体が痺れて...この粉のせいか...?」
流瑋は粉が届かない位置から齋煇が動けなくなっている状態を見て満足げに頷いた。
「良し、このまま拘束する!」
流瑋は剣に絡み付いた水の鎖を解除し、今度は齋煇自身に向けて水の鎖を放った。
「くそっ!」
流瑋が発動させた水の鎖が齋煇の体を拘束しようとした。
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