第五章 再会

「-相殺ソウサイ


その場に響いたのは、少女の可憐でありながらも落ち着いた声音だった。その声に呼応するように、流瑋の操る水の鎖と颯純の薬が一瞬にして消え去った。


「この術は...」


「楓蘭か?」


颯純と流瑋は術を放った楓蘭を凝視した。


齋煇がふっと視線を上げるとそこには、齋煇の幼い頃の記憶が少女の面影を残した楓蘭の姿があった。


「もう、二人ともやり過ぎよ。齋煇が私たちの敵なわけないでしょ?」


楓蘭は宥めるように二人を咎めた。


「お前、楓蘭なのか?」


齋煇の問いかけに楓蘭に表情を緩めた。


「ふふ、久しぶりね。齋煇。」


齋煇を擁護する楓蘭に颯純は釘を刺した。


「お前は相変わらずお人好しだな。コイツは無断で村に侵入したんだぞ?」


「侵入って、自分の故郷の村でしょ?」


楓蘭が反論する。


「楓蘭、颯純の言うとおりだ。いくら煌家の人間であっても、コイツは外部の人間だ。外部の人間を村に入れる訳にはいかない。」


間髪入れずに流瑋も颯純に同意した。


その時、静寂を破るように威厳ある声が響いた。


「いったい何の騒ぎだ。」


四人の視線が声の主に向けられる。


そこにはこの村の長・煌周䂹コウシュウサクが立っていた。


周䂹は威厳のある落ち着きを持った、村長に相応しい貫禄を持った男だ。炎を操る煌家を象徴する赤い髪を結い上げ、身にまとっている衣は袖のゆったりした貴人のものであったが、その身のこなしは無駄がなく、洗練されていた。


その場にいる全員が片膝を着き、頭を垂れた。


「颯純、状況を説明しろ。」


周䂹は眉ひとつ動かさず颯純に状況説明を求めた。


「...ご子息が村に戻られましたが、外部の者は村に入れてはならぬという長の厳命を守ろうとして、私と流瑋でご子息を捕縛しようとしております。」


颯純の端的な回答を流瑋は微動だにせず聞いていた。


「...齋煇、なぜお前がここにいる?」


周䂹が厳しい視線を齋煇に向ける。


暫くの沈黙の内、齋煇は重い口を開いた。


「...内密の命で、楓蘭を訪ねてきました。」


(え?私?)


楓蘭が驚き心の中で声を漏らした。


「無断で帰郷したことはお詫びします。私の帰郷の目的についてお話を聞いていただけますでしょうか。父上。」


齋煇が真剣な眼差しで周䂹に訴える。


周䂹はしばし沈黙し、やがて楓蘭に目を向けた。


「...楓蘭。」


「は、はい、」


楓蘭は動揺しながらも齋煇に近づき、手の平を齋煇に向けた。すっと目を閉じ、しばらく沈黙する。


「....長、ご子息から病の気は感じられません。このまま村に滞在されても問題ないかと思われます。」


楓蘭は静かに報告した。


「そうか。颯純、齋煇を屋敷に連れて来い。流瑋、お前は持ち場に戻れ。」


周䂹が淡々と命じ、踵を返して屋敷に向かった。

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