第54話 悔しさを叫ぶ

 教団関係者達とセーレの戦いは終わった。しかし、セーレは神器の槍と洗脳の力を酷使し、限界を迎えていた。倒れゆく体を支えたのは、仲間達ではなく、教団関係者の「ナーブ」であった。


「サーメスからの依頼は完了だな。まずは、1人目。セーレ様の確保完了っと。サーメスは、首を切って教団に飾るみたいなこと言ってたけど。こんな美人、俺なら嫁にするけどな」


 ナーブは、セーレの両手を背中に回し、肘を曲げて腕を揃えた。そこへロープをかけ、両手首に2、3回巻き付け、巻いたロープの内側を通して拘束した。そして、体の動きだけでなく視界も奪うため、黒の目隠しを装着させた。


「これで良し! サーメス、マーガルとの戦いで予習しておいて良かったぜ」


 そこへ、9m超えの巨大な虎の牙がナーブの体を襲う。


「セーレから離れてください!!」


 虎の背中に乗るビィシャアの表情は「切羽詰まって」おり、余裕が感じられない。虎の牙がナーブの四肢を噛み砕くも、血が出ることもなく「スッと姿が消えて」しまった。


「そうか、鉱石使いの馬女か。そういえば、そんな奴いたな」

「え!?」


 ビィシャアは、背後に「気配」を感じた。振り返ると、細長い体で「高身長の男」がこちらを睨みつけていた。男は左足の前蹴りをビィシャアの腹部に喰らわせた。


「あ、悪い。ヒステリックそうな女、苦手なんだわ」

「がは」


 虎の錬成は、砕け散った。ビィシャアの体は真っ直ぐ、湖の中へ吸い込まれていく。その様子を見た別の男は「救出を試みる」ため、湖へ飛び込んだ。


「ビィシャア、大丈夫か?」


 ずぶ濡れのマークがビィシャアを抱えて湖から上がるも、ビィシャアの顔色が土色で内臓に「深いダメージ」を負っているようだ。


「おい! 女性に手を挙げ……」


 マークが目視した瞬間だった。ヒョロ長い右拳がマークの顔面に近づいていた。持っていた左手のトンファーで「ガードした」が、後方に大きく吹き飛ばされてしまった。


「…(何だ、コイツ。ヒョロ長い、軟弱そうな体の奴なのに、力が強過ぎる。しかも一撃でクライさんのトンファーが折られてしまうなんて)」

「お前も前にテマ様との戦いのとき、いたな」

「誰なんだ、お前は?」

「俺か? ナーブ、ミエ、ヘイ、教団関係者に成りすまし。分身能力を持つ、教団内の最高戦力。オラクレだよ。宜しくな」

「ヘイ? どういうことだ?」


 オラクレは、聞いていないことを「ベラベラ自慢げ」に話始めた。テマを分身させて手助けをしながら、セーレの能力を「分析していた」こと。ヘイという分身体で、マークの「実力を見定めていた」り、ナーブとミエという名で、セーレの「心を掻き乱したりした」という。


「ヘイがお前だと? あり得ない。遺体を焼いて骨を埋葬したんだ。何かの冗談だろう」

「あぁ、俺はな、2つの分身を作れるんだよ。実体がある分身とない分身。まぁ、実体のある分身は教団関係者を生贄にしてるからよ。俺は痛くも痒くもなかったぜ」

「クソヤローだな」

「何だって、今何つった?」


 オラクレの目はガンくれた鋭さで、マークを見つめていた。


「何回でも言ってやるよ。女性に手を挙げる、人の命を大切にしない。そんな奴はクソヤローだって言ったんだよ」


 マークは右腕に抱えたビィシャアの体を優しく、地面に下ろし、正面のオラクレに叫びながら突進する。オラクレに接近しトンファーの電撃を浴びせた。


「悪いな、その攻撃は学習済みなんだわ。しかも、そんな弱い攻撃じゃあ、俺に傷1つ付けられないぜ」

「ぶ…ぐ……」


 素手の拳は、トンファーを突き破った。その衝撃はマークの「右腕の骨を骨折させる」程の勢いだった。右腕があらぬ方向に曲がり、悲痛な「叫びを上げる」が、オラクレの迷いのない足蹴りが続く。


「うわぁぁぁ――――――――。いてぇ、が……」


 マークは足の攻撃を受けて、うつ伏せとなった。右腕、左足は骨折し、オラクレが近づいてくるが、全く体が動かなかった。


「…(痛い、怖い、こんな所で俺は死ぬのか、誰か助けてくれ)」

「ん……何か、お前の顔、誰かに似てるような。誰だったかな、うーん、わからん。まぁ、いいや」


 オラクレは、地面に放置していたセーレの腹部付近を「自身の左肩」に乗せて持ち上げた。そして、マークに「とどめを刺す」ため、近寄ってきた。

 

「待て、セーレは連れて行かせない! 返せよ!」

「はぁ、お前、雑魚過ぎんだろ。お前なんか相手にもならねぇよ。叫ぶだけなら、誰でもできんだよ!」

「お前だけは絶対にこの手で……」

「バーカ、次はねぇーよ。お前はここで終わりだ」


 マークの顔面付近を狙いオラクレは、右膝を高く上げたときだった。

 

「動き…を止めよ……」

「な、まさか、動けない。目隠ししてるんだぞ。まだこんな拘束力があるなんて」

「セーレ!」

「言ったでしょう。足手纏いなら、その場に捨て置くって。ここは任せて。逃げて、今こそ……」

「そんな」

「ぐ、足が勝手に動く」


 セーレを抱えたまま、オラクレは林の中へと向かう。その姿を見たマークは悔しさを叫ぶしかなかった。

 

「ちくしょう――――――――――!!」

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