第55話 三人文珠

「はーい、貴方♡。起きてください」

「何だ? あぁ、セーレか。おはよう」

「おはよう、昨日も素敵な夜だったわ」

「何を言うんだ。君の白い肌、銀色の髪、真紅の瞳、整った顔立ち。文句なしだよ」

「嬉しい♡」

「セーレ♡、うーん……」

「ちょっと! ブツブツと訳のわからない独り言しないでよ! 迷惑なんだけど!」


 セーレは「目隠しで何も見えない」が、オラクレと思われる男の独り言が多く、迷惑していた。マーク、ビィシャアが惨敗し、セーレはオラクレに連れられ、荷馬車は砂利道を「ガタゴト」通る。馬はときどき尻尾を上げて、鈍い鞭の音が重々しい雰囲気を醸し出す。


「あらら、まだ寝てていいのに♪」

「今の独り言した人に比べて、声が高いわね」

「あぁ、よくわかったね。今は、コールっていう若造の分身体なんだよ♪」

「そぅ……」


 セーレは心を沈めながら、じっとした。頭の中にある「相手を操りたい」という意識を深く集中する。目の前にいる男が「私だけの指示に従うようにする」っと強く願った。しかし、反応が鈍い。意識を縛る感覚が伝わってこなかった。


「え、操れない。どうしてなの」

「残念。君の能力はこの赤石を付けていれば、無効にできるんだ。さっきは油断して付けてなかったけど、今度は対策済みさ♪」


 コールの首は、赤い石をぶら下げていた。その石は、紐をネット状に編んで石を包む方法で、ネット越しから石が「チラチラ」っと光輝いていた。

 

「赤石とは何なの?」

「それは教えられないな。セーレ様はこれから教団へ連行されるんだ! 余計な詮索はしないことだな」


 若い声から、少しドスが効いた声へと変化した。恐らく、「コールからオラクレに戻った」と思われる。


「私を連行して何をするつもりなの?」

「余計な詮索は…そうだな……。貴方様を欲しがっているのは、サーメスだ! 奴は貴方の首に用があるみたいだ。まぁ、体も別の使い方をするようだが」

「理解できないわ。そんなことに何の意味があるの?」

「そうだろ! そこでだ」


 セーレの顎を右手で鷲掴みし、オラクレの顔が急接近した。目隠し状態のセーレの空気もこもりがち。それに好きでもない相手との至近距離での「会話はあまり良い出来事」ではない。


「目隠ししても、やっぱり可愛いな」

「…」

「いいか、良く聞いてください。助かりたかったら、貴方様にできることは、1つしかないです」

「何よ」

「俺と結婚してください」

「嫌!! あなたみたいな人はタイプでもないし、ルーサーと同じで生理的に受け付けないわ」


 オラクレは怒り、セーレに覆いかぶさった状態で、「壁ドンならぬ、床ドン」をした。


「状況理解していますよね? もう後少しで、教団に到着します。貴方様には選ぶ権利なんてないんだ! 死にたくなければ、大人しく男の言うことを聞け!」

「絶対に嫌! 男だから偉いって何様よ。皆平等に扱われるべきだし、女性が弱い立場なんて間違ってる!」

「強情ですね。しかし、俺の施しを拒否して後悔しても知りませんよ」

「後悔? 面白いことを言うわね。後悔なら何度もしてるし、脅しにもならないわ」


 セーレの視線は、オラクレが居るであろう物体に瞳を開き、真っ直ぐ凝視するように訴えかけようとした。


「戦争に行く道を拒否し、家族4人で幸せに暮らせたかもしれない。就職先だったバイヤーの仕事が順調で、素敵な男性に巡り会えて、家族を安心させられたかもしれない。私に強い意志と圧倒的な力があれば、お兄ちゃんを救えたかもしれない」

「何の話だ?」

「要するに、私は後悔だらけの人生を歩んでいるの! もう一度進んだ道を止まることは許されない。私には選択した責任がある。それでも…責任を負った今でも自由に生きたい……それが私の願い。だから、後悔なんて脅しにもならない!」


 セーレの主張を聴き終わると、オラクレの手が近づいてきた。その手はセーレの衣服を引き破ろうと力を込めた。


「そうかい。なら俺も自由にやらせてもらうよ」


 遠くの荒野に教団が見える。後20km程で「到着するであろう距離」だ。教団は荒野に「ぽっつんとそびえ立つ古城」のようだった。黒と白を半分ずつ塗られた異色の城でもあり、地元の人からも「立ち寄りたくないスポット」であった。


「大丈夫。こんなに移動したんだ。私が危機的な状況なら、あの2人なら来てくれるって信じてるの」

「2人? 誰だよ」


 その言葉が「合図だったのか、不明だが」教団の城が爆発した。煙は上昇気流が発生して上へと移動する。爆発は床に敷かれた絨毯のように、建物を破壊していく。それは無作為に振りかけたのではなく、設定された箇所に均等に爆発するように綿密に白い煙が立ち込めた。


「毎回、うちの痕跡ばかり嗅ぎ回って、しつこいのよ! うちを探していた教団は全て破壊してやるぞ⭐︎」

「シルカ、バクの神器が反応している。セーレがここに向かっている」

「シルカちゃん、怖すぎるって」

「バク、セーレの位置を教えて! ルーサーは邪魔だから、うちの視界から消えて!」


 教団から爆炎が巻き起こる。そこに3人の能力者が揃う。名を爆発の女王シルカ、無敵探索超人のバク、ついでに、魅力の男爵ルーサーである。

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