第44話 赤い石
火の焼却処理をして1時間ほどで、ヘイの死体は白骨化した。
「焼けました」
「よし、任せろ」
ビィシャアの合図を受けて、マークはキョロキョロと何かを探す。茂みの中に
「大事な物を投げてしまった……」
マークが見つけたのは、自身が背負っていた鞄であった。亀の甲羅から飛んだときに、鞄を投げており、至る所に土が付着していた。鞄に着いた汚れを手で叩き、目的の物を探した。
「あった、これだ」
自身の鞄から小さなトングを取り出した。慣れた手付きで骨を掴み、雑に土の中へ放り込んでいく。
「マーク、雑過ぎませんか?」
「あ、そうだった。つい癖で」
ビィシャアに指摘され、マークの手が止まる。看守生活がそこそこ長かった影響で、死体の片付けも「何も感じなくなっていた」性格上、「仕事と割り切れる人物」であった。
「そう言えば、前にセーレになぜ? 死者に対し祈るんだって聞いたな」
マークの中では、死者に対する「思いやりが無くなっていた」のかと反省をした。トングを地面に置き、頬を叩いた。両手を合わせ、死者の供養も行った。
「ヘイ、あなたのことは忘れません。どうか死後の世界では安らかにお過ごしください」
マークの隣では目を瞑り、セーレは祈りを捧げている。その「姿をちらり」と確認し、一言。
「ほんと、凄い女性だな。見返りを求めないなんて」
「…? 何か言った?」
「いや、何でもない」
セーレは祈りを終える。マークとビィシャアは、使った道具の後片付けをしていた。その様子を見て、先程の「出来事を思い出し」状況を整理していた。
「やはり、あの出来事かしら……」
滝の音が流れる中で、静かに目を閉じた。過去の記憶を辿っていく。
「あなた達は誰かしら?」
「初めまして、我らは
顔を隠した黒マントを羽織った集団が4列に整列し、セーレ達の前を通せんぼしていた。男女年齢は様々だが、皆の表情は澄まし顔で目が
「僕としては、実験サンプルが多くて助かるね」
「何言ってるのよ、クライ!」
セーレとクライは、ツーマンセルの任務中であり、面倒事は避けたかった。しかし、笹人達の度重なるしつこい付き纏いを受けた為、立ち話で事情を聞いていた。
「それで、笹人さん。私達はあなた達に何かしたかしら?」
「いえ、何もしておりません」
「意味がわからないわ。どういうことかしら?」
「これからして頂きます」
どうも会話が成り立たない。もう少し「自分中心の世界に陶酔」していないで、第三者にも簡単に「理解できる言葉」を使って欲しい。セーレは、笹人達に「態度で示そう」と試みた。
「飴ならたくさんあるの。掠れた声も治るわよ」
「おい、セーレ」
「クライは黙ってて」
「いや、そんなのは不要です」
セーレは頬を膨らまして、ジト目でクライにアイコンタクトを送った。その様子を見たクライは、不思議そうな顔をしていた。セーレは、クライの肩を抱き寄せてヒソヒソと会話をした。
「私の気遣いが無視されたわ」
「僕は、最初から言っただろう。もう無視して神器の作動テストを始めよう」
「待って、彼等は一般人かもしれない」
「あれが一般人かい? どう見ても実験モルモットみたいな目をしているよ」
セーレとクライが話をしていると、笹人の1人がひっそりと近づいてきた。手には空の注射器を持ち、バレないように近づいてきた。何かの危険を察知し、セーレが後ろを振り返る。
「セーレ! 危ない」
クライは左手でセーレの腹を押した。セーレは、水溜まりに尻餅をついた。
「あぁ、お気に入りの一張羅が……」
セーレの長めのスカートがびしゃびしゃになり、感情的になった。
「もん、もん、もんー。家族から貰った服なのに許せない」
セーレの髪が銀色に変色しかけたとき、クライは「待て」と指示をした。当人は納得できず、右腕に掛けていた神器の槍を手に取り正面の笹人達を威嚇した。
「下がれ、セーレ! ここは、俺がやってやる」
「クライ、珍しくやる気ね」
「俺と違って、セーレとクライは神器を扱い切れていない。俺なら早く終わらせてやる」
「そうねって、クライはあなたでしょう? どういう意味?」
クライ? は神器の鋏を掴み、雄叫びを上げた。
「おっしゃああああ、やってやるぜ! 俺様、フライ様がな。うざったい笹人という奴は、ここで全員お陀仏だぜ!」
鋏の部位からは、先端はレーザー、刃先は高周波ブレードの切断振動波、取っ手は不協和音と攻撃に特化していた。
「これが、神器の本来の使い方……。アドモスが言っていたのはこの事なの?」
笹人達はフライによって、惨殺された。ものの数分で辺りは静まり返っていた。残ったのは、血、臓物と何かの一部だった死体が転がっていた。
「俺様の仕事は終わりだ、クライ返すぜ」
「フライ!…って……、やっちゃったな」
「あなた、二重人格者だったのね」
セーレは、祈りを捧げる為、右手に持った槍を地面に突き刺した。そのとき、右腕付近にチクリと針を刺された痛みを感じた。
「痛い、何するのよ」
生き残りの笹人は、注射器でセーレの血液を採取した。そして、奥の林にいる仲間の1人に注射器を投げた。仲間は注射器をキャッチし、脇目も降らず逃げ出した。襲い掛かって来た男は、セーレが洗脳の力を使う前に頸動脈を刃物で切り、自殺していた。
「何もわからなかった。彼等の目的は何なの?」
林の中を走る男は、ある場所に座り込んでいた老人へ注射器を献上した。
「見えざる断罪者セーレ様の血液です」
「ほっほっほ、よくやってくれた。これで洗脳に対抗する石の製作に取り掛れる」
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