第43話 感電

 森林の中を切り分けた先に滝があった。滝壺から100mくらいの高さから、大量の水が流れ落ちる。水質はミネラルを多く含み。太陽光に照らされた滝が美しく、石は少し白っぽいものが多い。滝壺の周囲には草花が生い茂り、上空から流れる滝の色は青から緑色に変化していた。その景観を壊す敵対者が、セーレに牙を剥き襲い掛かる。


 「お主は、セーレか。覚悟しろ」


 黒服の忍者衣装を着た男は、滝壺に降りた亀の甲羅に乗るセーレに槍を投げてきた。ビィシャアとマークは、異変に気付き、アイコンタクトを送り合った。マークは、トンファーを両手に構えた。


「誰だ、お前は!」

「お主らこそ、何者だ。拙僧は、セーレ以外に用はない」


 トンファーに弾かれた槍は、滝壺の中へと消えていった。マークは、亀が陸地に近づくことを確認し甲羅から飛び降りた。転がりながらも受け身を取り、危なげなく陸地へ着地した。忍者風の男は、小太刀をマークの体に刺そうと突進。その攻撃をいなし、トンファーの先端を敵対者の溝落ち近くに突き刺した。咽せるような咳をするが、追撃の一撃が迫る。


「これで終わりだ」

「おっと、危ねぇ」

「ほぅ、お主。面白い動きだな」

「それは、どうも」


 マークは、誰かに剣術や槍術を仕込まれた訳ではない。全て「自己流で考えた」ものだった。トンファーと小太刀が激しくぶつかり合う。同レベル、対等の戦いに両者の口元は少し緩んでいた。


「やるな」

「お主こそ、中々の腕前だな」


 忍者風の男は、小太刀をマークの肩付近を狙い投げる。小太刀の放物線を予測し身をすくめる。避けた勢いに任せ追撃の一撃。


「どうだ」

「お見事」


 トンファーは、忍者の頭巾を捉えていた。鎖帷子くさびかたを全身に纏っていたが、左の首筋には刺突による赤みが見え隠れした。


「狙いは悪くない」

「…」


 頭巾から見える瞳は、「穏やかな表情」であった。男は両手で頭巾の結び目を外した。


「お主、名前は?」

「マークだ」

「マークか、拙僧はヘイだ」

「ヘイか」


 ヘイは、すらっとした体型で身軽。時折、ステップを踏み、自身のペースを保っていた。


「そろそろ、終いだ」

「こっちもとっておきをお見舞いしてやる」


 2人の距離が徐々に近づく。滝壺の水音は、緊張感を高める。マークは、トンファーのグリップにある2つボタンの赤に中指を置いた。ヘイの腰から鎖鎌の分銅を振り回した。


「これで決める」


 先に仕掛けたのはヘイ。マークの頭上目掛け分銅を叩きつけた。その攻撃をトンファーで弾くが、鎖が纏わりつく。ヘイは、鎖を自身の方向に力強く引いた。


「残念だが、これで終わりだ」

「どうかな」


 ヘイは感電した。頭でも理解できず、「感電した理由」もわからなかった。体は硬直し右手の鎌を「握ったまま」だ。どうやら、トンファーから銅製の鎖を通して、電流が伝わったと思われる。マークは、その様子を視認。グリップの赤ボタンから中指を離した。


「…」

「何とかなったかな」


 ヘイは、滝壺近くでうつ伏せになり、動かなくなった。マークはトンファーを腰に掛け、その場に座り込んだ。


「やるじゃない」

「何とかなった」


 ビィシャアは、マークの活躍を称賛した。敵を倒し「やり切った達成感」を得て、少し気分が高揚した。


「そうだ。セーレ、見てくれたか?」

 

 マークは、セーレの反応が気になり彼女の顔を見た。きっと「褒めてくれる」そんな淡い期待と「頼りになる男」として、肩を並べたい。


「カメさんの顔、可愛いわね。錬成された物だけど、ちゃんと顔も作り込まれているわね。見てるだけで癒されるわ」


 残念ながら、セーレは能天気で、亀のよちよちした「動きに終始夢中」だった。その様子を見て、「がっかりする」のであった。


「油断は禁物だぞ」


 ヘイは抛火矢ほうりびやを両手に持ち、口に加えた線香で導火線に火を灯した。


「まだやる気か」

「セーレは確実にここで……」

「今こそ自由を。Follow me, pig!」


 ヘイは両手を大きく振り被った。抛火矢は滝壺に投げ込まれ、大きな爆発音が響いた。音と同時に、水が雨のように降り注いだ。


「教えて! 貴方が私を狙う理由は何?」

「拙僧が狙った理由は、頼まれたからだ」

「頼まれたって、誰によ!」


 ヘイは口を開くが、急に両手で首を締め出した。


「うぐぅ……」

「ちょっと、そんな命令は出してないわ。何勝手なことしてるの」

「大丈夫なのかよ、セーレ」

「動きを止めよ。Freeze!」


 ヘイの動きを止めようするが、何か違和感を感じる。いつもなら、「縛っている」という感覚が手に伝わってくる。しかし、今回は「手応えがない」


「この感じ、まさか」


 セーレの拘束は、ヘイを縛ることが出来なかった。男の首は後ろに大きく折れ、のけぞる姿勢で亡くなってしまった。


「結局、何も掴めなかった」


 マークは男を埋葬するため、柔らかい土を手で掘り進めていた。ビィシャアは火の錬成で、男の体を火葬する。セーレは、祈りの準備のため、左手の蛇の刺青から本を取り出した。


「なぜ、あの男は私の洗脳に掛からなかったの。優勢思考の連中にも効かなかった。どういうことかしら?」


 セーレの考え込む様子を赤ローブを着た人物が、遠くから監視し、動向を「誰かに報告している」ようだった。


「聞こえますか? 司祭長様」

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