第42話 神器を探して

 マークは、サイドカー付のバイクで砂漠を走っていた。その前方には赤い馬を走らせるビィシャアの姿があった。


「セーレ」

「何よ」

「次の目的地は、何処にするんだ?」

「そうねぇ……」


 テマとの戦闘では「神器の力に圧倒される」ことが多かった。私に力があれば「あんな失態」はなかった。


「セーレ?」

「ごめん、ちょっと考えるから待ってくれるかしら」


 セーレは、右手で涙目を擦り、左手を前に出しマークに見えないよう目隠しをした。


 最牡さいおすでは、神器探索器を入手した。レイントピア王城ではアーネスの協力で助かった礼もある。優先すべきことは……。


「決まったわ。私の神器を探しましょう」

「よし、わかった。ビィシャア、ちょっと止まってくれるか」


 ビィシャアは、馬の手綱を引き、静止するよう指示を出した。


 マークは、内ポケットから地図を取り出した。砂漠に地図を広げると赤サインペンで書き込んでいった。


「セーレ、教えてくれ。最後に神器を見たのはどの位置だ」

「そうねぇ、アーネスに斬られたのが、確かレイントピア王城から離れた山茶花さざんかの滝ね」

「山茶花の滝は、ここっと」

「マーク、何をしているんです?」

「捜索ポイントに決め打ちしているんだ」


 マークは、山茶花の滝が流れる河川ルートを赤の矢印で、なぞっていった。赤サインペンは、ある場所に辿り着くことが判明した。


「ここの可能性が高い」

「湖?」

「そうだ、イース湖だ」


 マークは、イース湖に流れつく仮説を3つの考えを述べた。


 1つ目、セーレが槍を握ったまま滝に落ちたのなら、暫く「握っていた」筈だ。とはいえ、滝壺を「探すことも必要」だ。


 2つ目、この付近の川は「傾斜が大きい」この落差で槍が流れていくのなら、かなりの「速度で槍は流れて行く」だろう。石があっても「神器は王城が作った最高傑作らしいし、貫通力もある」だろう。


 3つ目、イース湖は「終着点」なんだ。複数の川が最後に到達する場所であれば、槍の勢いもなくなり湖の底に沈む。


「へぇ、面白い仮説ね」

「ありがとう。それでセーレは、最初は君が斬られた滝壺で探索器を使いながら、イース湖へ目指したらどうかな」

「えぇ、その案で行きましょう」


 サイドカーに乗り込んだセーレ。砂漠を走るバイクの音を聞きながら、心地よい風を受ける。時折、車体が揺れるのは気持ち悪くなく、お尻にマッサージを受けている感覚だ。細々とした川の音色は、生命の力強さを彷彿とさせる。その気分を味わいながら、辛い気持ちを忘れようと強く願いを込めた。


「さて、今日はここで休むか」

「そうね。運転、お疲れ様」


 セーレは、マークの鞄から小さな箱を手に取った。その箱の蓋から簡易施設が風船のように膨らんだ。


「クライさんの発明品。役立っているね」

「毎回、驚きます」


 マークとビィシャアは、ドアノブを開けて貯蔵庫へと向かう。貯蔵庫には、小さな冷蔵庫があり、その中に固形食料がびっしりと詰め込まれていた。


「今日の気分はと」

「私は苺ですね」


 ある程度の量を確保し、簡易施設の扉を開いたが、そこにセーレの姿はなかった。


「セーレ!」


 マークは、持っていた固形食料を全て地面に落とした。心拍数が上がり、蒸し暑い。夜の砂漠地帯は、冷えるのに冷や汗が止まらない。もしかしたら、また「独りで何でも解決しよう」と「1人旅立ってしまった」のかと、不安な気持ちが隠しきれない。


「セーレ! どこいったんだ」


 ビィシャアも慌てて、マークの側まで駆け寄った。


「どうしたんですか?」

「セーレが……」

「ちょっと、煩いわよ。そこの川で水浴びしてただけなんだけど」

「セーレ!」


 声の方向には全裸のセーレが立っており、オアシスの水で体を清めていた。ビィシャアは先に事態を把握。マークの首を両手で掴み、セーレとは反対側の方向に向けた。


「イタ…何するんだ……」


 マークは蹌踉めき倒れた。ビィシャアは、左足を大きく後ろに振りかぶり、マークの脇腹を蹴っ飛ばして簡易施設の壁に叩きつけた。ビィシャアは、急いでセーレの元へ行き、石の上に置かれたタオルを手に取った。そのタオルでセーレの体を拭き、すぐに衣服を着替えさせた。マークは「思い」を叫んだ。


「え…ビィシャア……。俺の扱い、酷すぎない!?」


 そんなやり取りが終える。日にちが経っていった。


 そうして、砂漠から草原へと場所は移り変わり、3日が経過した頃。第1の目的地であるセーレが落ちた滝壺の真上まで到着した。


「ここが、セーレが落ちた場所か」

「そうね、私がアーネスから不意打ちを喰らった場所でもある」

「バイクはどうしましょうか?」

「そうね、バイクの移動は無理だから、そこの草むらにでも隠しておきましょう。それと、あなたの石の力が必要よ」


 マークはバイクを草で隠し、目立たないようにさせた。作業を終え、セーレに連絡。ビィシャアは、大型の亀を錬成した。その亀の甲羅に3人は飛び乗り、滝壺までいっきに飛び降りた。亀の重さで大きな水飛沫が上がり、1人の男が姿を現した。


「見えざる断罪者……お主はセーレ!」


 その男は槍を手に取り、セーレに襲いかかってきた。

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