第40話 追い詰めるのは

セーレ達は、最牡さいおすの馴染みの場所へと向かっていた。そう、バイクの整備士コーンがいる工場だ。


「おやっさん」

「おぅ、マーク。元気だったか」


 3度目の再会となったおやっさんとの会話にマークは、子供のように、はしゃいでいた。


「おや、仲間が増えたんか?」

「初めまして、ビィシャアと申します」

「宜しくな。黒髪のポニーテールか」

「ポニーテール嫌いでしたか?」

「そうじゃねぇんだ。前にもお前ぐらいの若い女性で、ポニーテールの女性が訪ねてきたな」


 コーンは懐かしむかのように、腕を両手に交差し語り出した。


「あれは、たぶん20年前くらいかな」

「て、20年前かよ」

「マーク、口を挟むなよ」

「すまん、おやっさん」

「当時は、別の工場で整備士見習いをしていたんだが、バイクが壊れたと訪ねてきた女性がいてな。確か、名前はエミ=マーセンって言ったかな。その黒髪のポニーテールも見事でなぁ。嫁にやってくれって言っても嫌って断られるばかりでな」

「エミ=マーセン? あ、母の旧姓です。今は、エミ=エドモンドですが、私の母のことです」


 コーンは、驚いた顔をした。慌てて、バックヤードへ走っていった。


「急にどうしたのかしら?」

「おやっさん、どうしたんだ」


 5分後。コーンは、バックヤードからある写真を持ってきった。


「これは、母の若いときの写真」

「そうだ。俺から頼んで撮って貰ったんだ」

「そうだったのか、おやっさんはビィシャアの母親とも縁が会ったんだな」


 セーレは、その会話を無視しながら、足早にサイドカーへ乗り込み、バイザー付きのヘルメットを被った。


「さぁ、行くわよ」

「セーレ、まだ話の途中だろうが」

「悪いな嬢ちゃん。また話が長くなっちまった」


 水没したバイクは、コーンが修理しまた走れるようになっていた。マークもヘルメットを被り、バイクに跨った。ビィシャアは、錬成の力で赤い馬を呼び出し、騎乗した。


「バイクの話とか、よくわからないけど。助かったわ」

「おぅ、嬢ちゃん。気を付けてな」

「じゃあ、おやっさん。お元気で」

「マークもしっかりとしろよ」

「コーンさん、母のことを教えてくれて、ありがとうございました」

「機会があれば、また話しような」


 セーレ達は、最牡入口を再び出発した。果たして、この先、彼女達にどのような運命が待ち受けているかは、誰にも予測することはできない。


「いつまで、歩かせるんだよ」

「テマ様、申し訳ございません。もう少しで到着します」


 煉瓦を積み上げた螺旋階段を登るのは、テマと道案内役の男性騎士であった。


「それにしても、汚ねえ場所だな。本当にアイツがこんな場所にいるのか」

「申し訳ございません。機密事項ですので、そういった発言は面会したときにお願いします」

「まぁ、いいか。アタシは約束を果たしたんだ。ご褒美の1つくらい、くれてもバチは当たらないだろう」


 テマと見習い騎士の目の前に、鉄の扉が見えてきた。その扉は、つい最近開けられたのか、取っ手部分が妙に綺麗だった。左右には松明たいまつが飾られ、火が灯っていた。


「あの扉の先かい?」

「はい、テマ様。長らく、お待たせしました。あの扉の先にあの御方がいます」


 見習い騎士が扉を開く。下り階段で奥が全く見えなかった。


「おい、暗いぞ。これじゃあ、先に進めねぇよ」

「ご心配なく」


 見習い騎士は、蝋燭を1本取り出し、入り口の松明から火をべた。そして、ランプの差込口に入れ、ガラスカバーを被せた。


「なるほどな、原始的だが、これなら先に進めるか」

「この階段を降りれば、目的地です」

「そうかい、ところで何でアイツは、こんな牢屋みたいな所にいるんだ?」

「そうですね。私が伺っている話では、自らを戒めていらっしゃるとのことです」

「戒めって、何をしてるんだ?」

「何でも相手と同じ環境に身を置くことで、その方の思念と感情を読み取るらしいです」

「ふーん、そうかい」


 階段を下り終えると、巨大な牢屋が目の前に現れた。そこに1人の男が憂鬱そうに体育座りしていた。


「それでは、テマ様。私は近くにいるので、用があれば話掛けてください」


 見習い騎士は、傷んだテーブルと椅子がある場所まで歩く。持ってきたランプをテーブルの上に置き、入門記録ノートを取り出し、ボールペンで書き込み作業をしていた。


「こんな牢屋みたいな所で、何してるんだ?」

「これかい。これは、修行と同じさ。同じ環境化に身を置くことで……」

「さっき、そこの見習いから聞いたぜ。とにかく……アンタの頼み通り、教団と手を組み、セーレの兄を仕留めたよ。これで、セーレはまた独りぼっちだ」


 テマの報告を聞く男は、牢屋の1点を見つめて、ぼんやりとしていた。


「おい、もうアタシへの依頼は終わったんだろう。これで終わりなら、アタシは帰るぜ」

「まだだ! 後1つ頼まれてくれないか」

「人使いの荒い奴だ。まぁ、あんたの頼みだから、断れねぇーか」

「セーレには、辛いだろけど。まだ足りないんだ。もっと彼女を徹底的に追い詰めないと」

「それには、同感だが、あんたも非情な男だね。そうだろう? アーネス」

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