第39話 どんな困難でも
「さぁ、気を取り直して、出発するわよ」
「セーレ、もういいのか? まだ、万全ではないだろう。今は体を休めることも大切だ。俺達の旅はゆっくりと再開しても……」
「マークの言うことも、一理あります。そうですよ。まだ、この街にいても誰も文句は言いませんよ。少し休んだ方がいいと思います」
マークとビィシャアは、セーレの様子を逐一観察しながら、慎重に言葉を選んでいるように見えた。大事な家族が死んで3日しか経っていない。そんなにすぐに割り切れる訳ないと、2人はセーレの心配をしていた。
「何言ってるのよ。私の神器を見つけなきゃいけないし、アーネスへのお礼と教団を完膚なきまでに叩き潰すこと、やることは山積みよ」
セーレは、早くこの場所を離れたいのかわからないが、マークから見れば、彼女は「無理をしている」ように見える。初めて会ったときは、囚人と看守の立場だった2人。何の因果がわからないが、仲間として苦楽を共にしてきた。俺が「セーレを励まさないで、誰がやるんだ」っと勝手に意気込んでいた。
「セーレ。無理すんなよ」
「…無理?」
マークは、セーレの両肩を両手で掴み、彼女を真正面にして、瞳を見つめた。
「無理してるのはわかってる。大丈夫。君のことは……」
次の瞬間、マークは右腹に飛び蹴りを受けた。マークは、受け身を取ったが地面に触れ、両手を軽く擦りむいた。
「いてぇ……」
蹴りを入れたのは、ビィシャアであった。
「マーク、余計なことは言わないでくださいね。何度言えばいいんですか、あなたは黙って静観してればいいの」
「え、ここは、俺が……」
「返事は?」
「はい、わかりました。ごめんなさい」
ビィシャアは、マークへ説教している様子を見て、セーレはケラケラと笑っていた。
「ふふふ、何馬鹿やってるのよ」
「何も蹴らなくても……」
「セーレには、触らないでください。迷惑です」
3人を見ていたクライとヘーゼルは、微笑ましいやり取りに和んでいた「青春というのがあれば、こんなこと何だろう」っとクライは勝手に自己解釈をしていた。
「僕の見立てだと、もう少し立ち直るのに時間が掛かると思っていたが、吹っ切れたみたいだね」
「そのようだね」
「君がセーレに何をしたのかは、知らない。それにしても随分元気そうな顔になったね」
「ふん、私は話を聞いただけだ……(それでいい、小娘。一歩ずつ、ゆっくりと立ち直っていきな。弱くても必ずやり口はある。今は、多くの経験を積みな)」
「何か言ったかい?」
「いや、何も言ってない」
ヘーゼルは、白のウッドチェアから立ち上がった。ビーチパラソルもあり、日光浴を楽しんでいるようだ。小さなテーブルには、林檎が籠一杯に入っていた。
「もう帰るのかい?」
「あぁ、あんまり長くいるとミーアが心配するからね。それに、私にもやるべき事ができたからね」
「やるべき事?」
「あぁ、恐らく、あっち側から来るだろうね」
「ヘーゼル、君の考えはわかる気がする。早まらないでくれ。何かあったら直ぐに連絡してくれよ」
「わかったよ」
クライは、白のウッドチェアで背伸びをした。そこに何者かが足早にこちらへ向かってきた。
「さて、今度こそだ。これで、セーレを解剖……」
「大総統様!!」
若い秘書の男性が、クライに詰め寄った。
「やっと、手が空きましたね。これで、認可処理の続きができますね。さぁ、執務室へ行きましょう」
「あれ、昨日で終わりじゃなかったの?」
「あんなの序の口です。市民の訴え、他国の書状、開発依頼とやることは、山積みですよ。さぁ、立ってください」
「うん、明日じゃ……」
「ダメです!!!」
クライは、若い男性秘書に抱えられて、執務室へと直行させられた。
「何やってるの、アレは?」
「セーレ」
「どうしたの? ヘーゼル」
ヘーゼルは、ウッドチェアの片付けを手伝った後に、セーレに声を掛けた。
「元気になったみたいじゃないか」
「お陰様でね。あなたのお陰よ、ありがとう」
「ふん、小娘にしては立ち直りが早かったね」
「本心よ」
「どういうことだい?」
「心からそう思っているの。あなたは、私のお婆ちゃんみたいな人で、大切な家族に近い人だったのかもしれないって」
ヘーゼルは、セーレの言葉を聞いて少し照れ臭さそうな表情をした。そして、展望台近くのヘリポートまで移動した。
「全く、うるさい小娘だね」
「ありがとう、お婆ちゃん」
「ふん、悪くないね」
ヘーゼルは、クライが手配したヘリに乗り込んだ。
「またね、ヘーゼル」
「ふん、まぁ、気が向いたら会ってやる。じゃあな、セーレ」
ヘリは上昇し、雲の彼方へと消えていった。
「よし、私達も出発するわよ」
先導するセーレの後方には、マークとビィシャアがいる。今の私は、1人じゃない。父さん、母さん、ニース兄さん、私がそっちに行くのは、まだまだ先になりそうだけど。どうか見守っていてください。
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