第39話 どんな困難でも

「さぁ、気を取り直して、出発するわよ」


 最牡さいおすにいたセーレは、マークとビィシャアへ出発を促した。朝の日差しが心地よい、日光浴日和でもあった。展望台から見える景色は、砂漠ばかりで眺めはあまり良くない。


「セーレ、もういいのか? まだ、万全ではないだろう。今は体を休めることも大切だ。俺達の旅はゆっくりと再開しても……」

「マークの言うことも、一理あります。そうですよ。まだ、この街にいても誰も文句は言いませんよ。少し休んだ方がいいと思います」


 マークとビィシャアは、セーレの様子を逐一観察しながら、慎重に言葉を選んでいるように見えた。大事な家族が死んで3日しか経っていない。そんなにすぐに割り切れる訳ないと、2人はセーレの心配をしていた。


「何言ってるのよ。私の神器を見つけなきゃいけないし、アーネスへのお礼と教団を完膚なきまでに叩き潰すこと、やることは山積みよ」


 セーレは、早くこの場所を離れたいのかわからないが、マークから見れば、彼女は「無理をしている」ように見える。初めて会ったときは、囚人と看守の立場だった2人。何の因果がわからないが、仲間として苦楽を共にしてきた。俺が「セーレを励まさないで、誰がやるんだ」っと勝手に意気込んでいた。

 

「セーレ。無理すんなよ」

「…無理?」


 マークは、セーレの両肩を両手で掴み、彼女を真正面にして、瞳を見つめた。


「無理してるのはわかってる。大丈夫。君のことは……」


 次の瞬間、マークは右腹に飛び蹴りを受けた。マークは、受け身を取ったが地面に触れ、両手を軽く擦りむいた。


「いてぇ……」


 蹴りを入れたのは、ビィシャアであった。

 

「マーク、余計なことは言わないでくださいね。何度言えばいいんですか、あなたは黙って静観してればいいの」

「え、ここは、俺が……」

「返事は?」

「はい、わかりました。ごめんなさい」


 ビィシャアは、マークへ説教している様子を見て、セーレはケラケラと笑っていた。

 

「ふふふ、何馬鹿やってるのよ」

「何も蹴らなくても……」

「セーレには、触らないでください。迷惑です」


 3人を見ていたクライとヘーゼルは、微笑ましいやり取りに和んでいた「青春というのがあれば、こんなこと何だろう」っとクライは勝手に自己解釈をしていた。


「僕の見立てだと、もう少し立ち直るのに時間が掛かると思っていたが、吹っ切れたみたいだね」

「そのようだね」

「君がセーレに何をしたのかは、知らない。それにしても随分元気そうな顔になったね」

「ふん、私は話を聞いただけだ……(それでいい、小娘。一歩ずつ、ゆっくりと立ち直っていきな。弱くても必ずやり口はある。今は、多くの経験を積みな)」

「何か言ったかい?」

「いや、何も言ってない」


 ヘーゼルは、白のウッドチェアから立ち上がった。ビーチパラソルもあり、日光浴を楽しんでいるようだ。小さなテーブルには、林檎が籠一杯に入っていた。


「もう帰るのかい?」

「あぁ、あんまり長くいるとミーアが心配するからね。それに、私にもやるべき事ができたからね」

「やるべき事?」

「あぁ、恐らく、あっち側から来るだろうね」

「ヘーゼル、君の考えはわかる気がする。早まらないでくれ。何かあったら直ぐに連絡してくれよ」

「わかったよ」


 クライは、白のウッドチェアで背伸びをした。そこに何者かが足早にこちらへ向かってきた。


「さて、今度こそだ。これで、セーレを解剖……」

「大総統様!!」


 若い秘書の男性が、クライに詰め寄った。


「やっと、手が空きましたね。これで、認可処理の続きができますね。さぁ、執務室へ行きましょう」

「あれ、昨日で終わりじゃなかったの?」

「あんなの序の口です。市民の訴え、他国の書状、開発依頼とやることは、山積みですよ。さぁ、立ってください」

「うん、明日じゃ……」

「ダメです!!!」


 クライは、若い男性秘書に抱えられて、執務室へと直行させられた。


「何やってるの、アレは?」

「セーレ」

「どうしたの? ヘーゼル」


 ヘーゼルは、ウッドチェアの片付けを手伝った後に、セーレに声を掛けた。


「元気になったみたいじゃないか」

「お陰様でね。あなたのお陰よ、ありがとう」

「ふん、小娘にしては立ち直りが早かったね」

「本心よ」

「どういうことだい?」

「心からそう思っているの。あなたは、私のお婆ちゃんみたいな人で、大切な家族に近い人だったのかもしれないって」


 ヘーゼルは、セーレの言葉を聞いて少し照れ臭さそうな表情をした。そして、展望台近くのヘリポートまで移動した。


「全く、うるさい小娘だね」

「ありがとう、お婆ちゃん」

「ふん、悪くないね」


 ヘーゼルは、クライが手配したヘリに乗り込んだ。


「またね、ヘーゼル」

「ふん、まぁ、気が向いたら会ってやる。じゃあな、セーレ」


 ヘリは上昇し、雲の彼方へと消えていった。


「よし、私達も出発するわよ」


 先導するセーレの後方には、マークとビィシャアがいる。今の私は、1人じゃない。父さん、母さん、ニース兄さん、私がそっちに行くのは、まだまだ先になりそうだけど。どうか見守っていてください。

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