第33話 戦時下の追憶3

「初めまして、私はセーレと申します。皆様宜しくお願いします」


 3年前、初々しい若い少女は、山のふもとにあるキャンプ場のテントにいた。


「ヘーゼルだ。宜しくな、セーレ」

「うちは、シルカっていうの。宜しくね、セーレ」


 筋肉粒々なお婆さんと金髪の美少女が、セーレに挨拶を返す。そこに、逆三角形の女性が横柄な態度でこちらへ近づく。


「おい、シルカ! てめぇ、自分がちょっと強いからって、調子乗ってないか。あーん」

「あ、テマ。どうして、そんなに怒ってるの?」


 テマは、シルカに対し顔が、接触ギリギリの所まで詰め寄る。


「アタシまで、爆発の巻き添えになりそうだったんだ。当然だろう」

「いつも言ってるけど、それなら、うちから離れて戦ってよ。うちと目が合った人は、爆発しちゃって危険だぞ⭐︎」

「は、舐めてんのか。おい!」


 テマは、シルカの胸ぐらを掴む。セーレは慌てふためくが、ヘーゼルはいつも通りの日常とばかりに、事の成り行きを見守っていた。


「別に、舐めてはないけど……、うちに、変な言い掛かり付けるなら、覚悟してよね」


 シルカの瞳が茶色から黄色に変化し、金髪の毛先だけクルクルと渦巻いた。その状態になったシルカは、テマから目線を逸らした。


「…く……」


 シルカは、目があった者を「爆発させる能力者」である。爆発できるのは「生き物」に限る。爆発の規模は、対象物の大きさに左右される。170cmの人間であれば、爆発限界距離は5×1.7=8.5m程になる。


「さっさと、うちから手を離してよ。テマ!」

「ち…気に食わねぇ……」


 テマは、シルカを離し距離を取った。シルカの瞳も元の茶色に戻った。その様子を見ていた、セーレはひょっこりと2人の間に入ってきた。


「初めまして、私はセーレです。宜しくお願いします」


 セーレは、テマを見つめて挨拶をし、右手で握手を求めた。


「なんだよ、間がわりぃ奴だな。アタシは、テマだ」

「イタ……」


 差し出されたセーレの右手を、テマは払い除けた。


「何すんのよ、痛いじゃない!」

「うるせぇな、挨拶してやったんだ。それでいいだろう」


 テマは、セーレの肩にワザとぶつかり、その場を後にした。


「乱暴な人ね。礼儀もなってないなんて」

「ほっといてやれ、テマのシルカへの対抗心は今に始まったことじゃない」

「ヘーゼル…何、対抗心って……? うち、何か悪いことしたかなぁ?」

「当人は、こんな感じだしな。テマからしたら、納得いかないのだろう」


 セーレ、ヘーゼルとシルカは、話を終えるとアーネスがいる拠点へと移動した。


こころざしを同じくする同志よ。よく集まってくれた。感謝する」


 100人の一般兵士、アーネスを含めた5人の能力者が同じ拠点に集まった。


「新たな仲間であるセーレも加わった。今回は私を含めた、5人を中心に敵の補給施設へ攻撃を仕掛ける。皆、助け合いを期待する」


 兵士は雄叫びを上げる。シルカは、毛先をクルクル回す。ヘーゼルは、目を閉じる。テマは、シルカを睨みつける。セーレは、大きな雄叫びにびっくりし両手で耳を塞ぐ。


「さぁ、行くぞ!」


 アーネスの号令を受け、5人の能力者が先陣を切る。


「セーレ! うちの近くには、絶対寄らないでよ。爆発させちゃうかもしれないから……って足早!」


 セーレは、シルカの話を聞かず、500人以上いる敵の集団へ突撃していった。


「何で…1人で突撃してるの……?」

「シルカ、セーレのバックアップを。それとテマは、シルカから離れた位置で戦ってくれ。ヘーゼルは、私のサポートを頼む」

「ハハハ、アーネス、ほっとけよ。どうせ、大したことのない奴だったんだよ」

「テマ、馬鹿なこと言ってないで、お前の仕事をしな」

「うるせぇな、ヘーゼル。指図すんなよ」


 セーレは、初めての戦場に恐怖心を感じていた。これから、たくさんの「人が死ぬ」正直、そんなに「すぐに適応」できない。


「これからすることは、私のエゴなのかもしれない。誰も悪くないのかもしれないけど、私は大切な家族と自由な発言を言える環境を守りたいの!」


 セーレの髪が白から銀髪になり、真紅の瞳は美しく輝いた。


「綺麗だ……」


 敵兵士が見惚れた瞬間、体が膨れ上がり弾け飛んだ。血飛沫が上がると、周囲はざわつき始める。


「何なんだ、これはぁぁ……」


 兵士も急に爆撃でも受けたかのように、体が爆発した。その爆破に巻き込まれ、手足を欠損する兵士もいた。


「セーレ、大丈夫?」


 セーレは、敵を洗脳し自決を誘発。さらに、シルカの正面の敵を拘束。その敵の目を開かせ、シルカと目が合い、爆破させるという見事なコンビネーションを演出する。


「あ…やば……、セーレと目が合ちゃった」

「…」

「え…何で爆破しないの? 凄いね、セーレ。うち、あなたのこと気に入っちゃったよ。正面の左は任せるね。爆破させたい敵がいたら、うちの正面へ連れて来て!」

「わかったわ、シルカさん」

「同い年だし、シルカでいいよ。ここに集まった人達は、皆、運命共同体だし親しみを込めて、呼び捨てでね」

「わかったわ、シルカ。右は頼んだわ」


 楽しそうなシルカとは裏腹に、セーレは非常に辛そうな表情をしていた。


「何だあの新入り…クソが……ムカつく」


 2人の戦闘に入れず、後方にいたテマは苛立ち、怒りの感情が益々強くなるのであった。


 

 

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