第32話 寄り添い合う

 青い光は、どこかの施設のプール上空に現れた。その中から、セーレ、マーク、ビィシャアとバイクが落下した。


「お早いお帰りだね。セーレ」


 声を掛けて来たのは、変人開発者のクライであった。この施設は、大総統特権のプライベートプールだった。


「全く、君が黒グローブの説明を聞かないから……」


 どうやら、セーレに渡した黒グローブは、所有者の記憶に強く残る単語を元に、場所検索するらしい。場所は、選べずランダムで飛ばされる。例えば、頭の中で「水」とイメージすれば「オアシスへ飛ばされる」とかだ。何も考えない場合、自動的に「この場所へ飛ばされる」仕掛けとのこと。


「それにしても、随分早い帰還だな。どうしたんだい? 何か困り事でも……」


 クライは話しをやめた。異常事態に気付く。それは、プールに血が広がり、セーレがうつ伏せで全く動かないからだ。


「セーレ? おい、セーレ!」


 クライは、慌ててプールへ飛び込んだ。クロールで泳ぎ、近寄る。クライは、セーレを仰向けにし背中を下から支え、プールサイドシートまで足をバタ付かせ、運び上げた。


「これは、酷い。誰がこんなことを……」


 セーレの右下腹部は貫通。流れ出る血が止まらず、顔色が悪く貧血状態に近い。すぐにでも、処置が必要とクライはその場で判断した。


「クライさん!」


 そこに、マーク、ビィシャアもプールサイドに上がり、クライに駆け寄る。


「マーク、君か。一体、何があったんだ?」

「…わからないが、優勢思考連中が……」


 マークが話している間にも、クライの手は、とんでもない速さでセーレの応急措置を行う。そして、配下の者達へ医療施設への搬送と連絡を指示した。


「それで、赤ローブを着た2人の男と肩幅が異常に広く、目つきの悪い女が…セーレを……」

「肩幅が広い、目つきの悪い女? まさか、テマか。あのクレイジーサイコレズヤローが!!」

「クライさん?」

「俺の解剖対象であるセーレをこんな目に合わせやがって、絶対許さねぇーぜ!! …おっと、すまない……ちょっと意識が混濁こんだくしていた」


 クライに別人格があることは、マークも知らない。急なクライ(フライ)の変化に驚いたが、セーレの容体を優先した。


「大総統様。お待たせしました」


 指示を受けた配下が、男3人と共にストレッチャー(担架)を持ってきた。その内、2人が掛け声の合図でセーレを横に寝かせた。もう1人の男は、医師でセーレの容体を確認する。医師の横にはクライが寄り添い。医師に対しセーレの容体を簡潔に、要点のみを伝えた。


「では、頼む」

「承知しました」


 男2人は患者の足先から、担架を動かし隣にある医療施設へ搬送した。


 5時間後。まだ、セーレが手術室から出てこない。マークは、同じ場所を歩き回っていた。


「マーク、落ち着いてください」

「すまない、ビィシャア」


 マークは、ビィシャアと間隔をあけて長椅子に座った。


「ふ…ちょっと、気が動転してたかも……」

「セーレは、大丈夫です。信じて、待ちましょう」

「あぁ、そうだ。さっきは、ありがとうな」

「何がです?」

「王城にいたときに、セーレの居場所を見つけてくれたことだよ」


 テマに攻撃されていたセーレを見つけたのは、ビィシャアであった。予め、粘着性のある石をセーレの服に忍ばせていた。石を付けたのは、セーレの服を洗濯したときだった。その石は、ビィシャアの力で錬成した物であり、念じるとその場所がわかるとのこと。


「急にセーレに操られて困惑したが、ビィシャアのおかげでセーレを見つけられて、良かったよ」


 その会話の直後。手術室のスライドドアが横に自動で開いた。


「先生、セーレは」


 マークとビィシャアは、執刀医に問いかけた。


「大総統様の迅速な応急措置もあり、一命は取り留めたよ」

「はぁ、良かった。先生ありがとうございます」


 マークは、執刀医と握手を交わし深く感謝した。執刀医の後ろから、セーレをゆっくりと担架で運ぶ人達。マークとビィシャアは、セーレの手術に立ち会った全ての医療関係者にお礼を言って回った。


「ありがとうございました」


 セーレは、術後検査を受けてから、一般病室に移された。病室には、マークとビィシャアの姿があった。


「セーレ、苦しそうだわ」


 セーレの額や首筋に汗が滲み、時折首を横に少し振っていた。ビィシャアは、ハンカチを使ってセーレの汗をぬぐった。そして、セーレの左手を優しく握り締めた。


「大丈夫、ここは安全よ」


 そのとき、空からヘリの音が鳴り響いた。プロペラ音からして、かなり大型だ。その音を聞いたマークは、不機嫌そうな顔をして、病室の窓のカーテンを閉めた。そのヘリは病室屋上のヘリポートへ着地した。


「止まったな」

「止まりましたね」


 マークとビィシャアも音が静かになり、少し穏やかな表情だ。


 一方、セーレ達の病室屋上に到着したヘリのキャビンスライドドアが開くと、筋肉粒々のお婆さんが中から降りてきた。クライは、降りて来たお婆さんを出迎える。


「やぁ、待ちかねたよ。そして、久しぶりだね。ヘーゼル」

「たくよ、来るつもりはなかったんだけどね」

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