第29話 やっと会えた

 アーネスは、剣を地面に投げ捨てる。兵士達に対し、両手を上にし降伏のポーズを取った。


「アーネス様を拘束しろ」


 兵士の1人は、アーネスの手に手枷を掛けた。アーネスは、2人の兵士に腰を掴まれ、自発的な行動を促された。そして、ゆっくりと王城内部へと連行された。


「アーネス……」


 セーレは、その様子をちらりと確認した。大量の兵士に対し、何もできないと諦める。そして、前を見て公園の噴水まで向かった。


「セーレ、どうしたんだ?」

「セーレ、何があったんですか?」


 マークとビィシャアが、セーレの近くに寄ろうとした。


「ごめんなさい、貴方達を巻き込む訳にはいかないの。今こそ自由を。Follow me, pig!」


 セーレは、2人に洗脳を掛けた。それは「満月亭の宿泊所へ戻れ」という洗脳だ。2人の足が勝手に進む。


「どうしてだよ……」

「足が勝手に……」


 マークとビィシャアは、行政地区から商業地区の満月亭への道筋に沿って、歩き出した。


「お兄ちゃん!」


 セーレの兄、ニースは腰を噴水の底に強打したようで、思うように動くことができなかった。


「この様子では、自発的に歩くのは無理かもしれないけど、時間がないの。ごめんね、お兄ちゃん」


 セーレは、気絶するニースに自分が来ていた黒マントを被せた。そして、洗脳の力を使いニースを操りその場を後にした。


「行こう、あの場所へ」


 セーレは、行政地区から商業地区へ移動していた。その場所は、下水の排水口だ。この場所は、商業地区の離れにあり、普段、人が寄り付かない。王城の神器奪取で、利用した場所でもあり、橋の下を降りれば誰でも簡単に入ることができた。


「この場所なら見つからない」


 下水道の中心には、水がチョロチョロと流れる。広さは、直径5m、水が流れるのは、中心で幅1m、地面からの高さは2.5m程だ。それが2kmくらい続いている。セーレとニースは、通路に身を寄せ合っていた。


「お兄ちゃん、こんなに痩せているなんて」


 セーレは、兄との思い出を辿る。


「何処にいくの、お兄ちゃん?」

「学問所の図書館だよ」


 セーレは、自宅のソファに腰を掛け寝そべっていた。


「何を調べに行くの?」

「人体の変化についてだよ。父さん、母さんも心配してたぞ、昨日の夜、急にセーレが苦しみ出したと思ったら黒髪から白髪頭になったって」

「そぅ、別に死ななかったらいいんじゃない」


 何とも能天気な妹だと、ニースは頭を抱えた。


 セーレの家族構成は、父、母、兄、セーレの4人家族。父と母は同じ発掘調査員であり、公に認められた仕事。兄は優秀な者が集まる学問所へ通い、地区内でも「トップの成績」だ。私は普通の学問所を卒業し、1ヶ月後に食材販売のバイヤー勤務が内定していた。


「まぁ、生きていれば何とかなるでしょう」

「全く図太いのか、無頓着なのかわからんな」


 そこに、チャイムが鳴る。3階にいたセーレは、兄へ対応を任せ、再びにソファへ寝っ転がった。本人は、だらけライフを満喫しているようだ。


 ニースは、3階から1階まで繋がる階段を足早に下っていた。


「はい、どちら様ですか?」


 ニースは、玄関の扉を開く前にインターホンで訪問者を確認した。そこに映っていたのは、アーネスだった。


「突然のご訪問申し訳御座いません。私は、財団法人責任者のアーネスと申します」

「財団法人? 父さん、母さんの知り合いの方ですか」

「いえ、違います」

「なら、どんなご用件でしょうか」

「はい、妹さんのセーレさんの話ですよ。お兄さんであるニースさん」


 ニースは少し驚いたが、事前に「調べたのだろう」と思い、変な押し売りを始める前に「帰って頂こう」と考えた。


「他にご用件がなければ、これで失礼します」

「妹さん、昨日急に髪の色が白くなりましたね。それにあなたは、今から学問所の図書館へ向かうところだ」

「なぜ、それを知っている? まさか、家に盗聴器を仕掛けていて、そのネタで脅そうって魂胆か」

「いえ、違います。また明日来ますので、気が向いたらこの場所へ家族全員で来てください。大事な話があります」


 アーネスは、その言葉を告げると足早にその場を去っていった。その後ろ姿を見たニースは、メモ書きの地図に複雑な心境を抱えるも、一筋の希望を託すか判断に迷うのであった。


「そうだよね、お兄ちゃんが父さん、母さんと私を説得して、アーネスとの対談が始まったのよね。アーネスと会った時には、父さん、母さんも大事な娘を戦争なんぞに、参加させるかって随分反対したっけ」


 セーレは、兄を膝枕していた。兄のやつれた顔を見て、瞳に涙を滲ませた。


「父さん、母さんも私が刑務所に収監されている間に亡くなってしまって、唯一の肉親はお兄ちゃんだけなの。だからお願い、死なないで。私を1人にしないでよ」


 セーレの大粒の涙が、ニースの顔にかかる。


「ハハハ、これは良い場面だな」


 セーレは、下水道の奥からの声に驚き、直ぐに身構えた。


「やっと、出てきたかよ。セーレ!! 3年近く、私を待たせやがって。さぁ始めようぜ、命のやり取りの続きをよぅ」


 テマは、セーレに突進。槍を突き刺そうと前進してきた。

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