第30話 絶望の回帰
「テマ」
「セーレ、会いたかったぜ」
セーレの髪は白から銀へ、瞳は赤く輝きが増していた。
「うぉりゃあああ」
テマの槍が迫る。セーレは、洗脳の力を使う。セーレの兄、ニースを操り、下水道の水を挟んだ反対側の通路へ移動させる。そして、テマの槍の対処に集中した。
「弾け飛べ! Punishment of sin」
セーレの細胞操作で、テマの体が爆散する。しかし、テマから流れ出たものは、血ではなかった。なんと、白い「ガスが弾けた」のだ。
「これは、催涙ガス。がはがは…ごほん……」
「前とは違うぜ」
催涙ガスを浴びたセーレは、激しい目鼻と喉の痛みに、涙が止まらなくなった。
「痛い、まずい。早く、自身の細胞を……」
「対応が遅えよ」
セーレは、テマに胸ぐらを掴まれ、足が宙に浮く。
「この時をずっと待ち侘びていたんだぜ。お前のことをいつも考えていた。さぁ、ここは狭い。場所を変えるぜ」
テマは、下水道の排水口の出口からセーレの胸ぐらを掴み、地面を蹴った。その高度は、400mに届く高さだ。
空中にいる間に、セーレは自身の細胞を操作し、目鼻と喉の痛みを緩和させた。
「このまま、地面に叩きつけてやるよ」
テマの神器は、グリーブ(すね当)付きのブーツを履いていた。神器の共通能力は身体能力向上だが、各神器によって、1つの特殊な力が備わる。
テマの場合は、脚力の異常な向上だ。
「離しなさいよ。今なら、弾け飛べ! ……」
「おっと、オリジナルでその攻撃を受けるのは、やばいな」
高度50m付近で、テマはセーレを地面に向けて、投げ飛ばした。セーレは空中で体制を整えるため、宙返りし足のつま先で、勢いを殺すように着地した。
「危なかったわ……」
クライの開発品である防御陣が、施された靴のおかげもあり、骨折や目立った外傷もなく、土埃を立てながら無事着地することができた。
「ち…思い通りには、中々いかないな……」
「え……」
土埃が晴れると、テマが30人に分身していた。その1人1人が手に槍を持ち、セーレに突進してきた。
「どういう原理かわからないけど、近づいてくるなら好都合よ」
セーレが拳を天に突き上げる。テマの体が弾け飛ぶが、倒された分身体から白い霧が拡散する。
「今度は
セーレの右下腹部に痛みが走った。恐る恐る目を下に向けると黒い槍が刺さっていた。
「つぅーーー!」
正面を見ると、テマが笑っている。
「あれ、思っていたより叫ばないな」
「貴方こそ、甘く見ないでよ。私が何年刑務所で拷問を受けていたと思うのよ。3年よ」
「そうかい」
テマは、槍を深く突き刺す。セーレは右下腹部に刺さる槍が貫通し、背中からも血が流れ出す。テマは、セーレの後方にある大きな石まで、深く突き刺しセーレを動けないように固定した。
「さて、これで楽しいショーも見られるかな。セーレ、紹介するぜ。協力者をよぅ」
「またお会いしましたね。我が偉大なる洗脳の女王セーレ様」
「初めまして、セーレ様。私は爆発を愛する優勢思考のマーガルと申します」
教団関係者であるサーメスとマーガル、他4人の信者が少し離れた位置から大きめな声で挨拶をした。
「テマ、優勢思考と繋がっていたの」
「別に利害が一致したから、手を組んで利用させてもらってるだけだ」
そこに、信者4人が1人の男を連れてきた。その男は、下水道に置いてきた筈のセーレの兄、ニースであった。
「テマ、馬鹿なことはやめなさい」
「見ていけよ。きっと楽しいからよ」
セーレは、テマに対し細胞操作の爆散攻撃で抵抗しようとするが、攻撃範囲外のため、届かない。
「貴方様には邪魔な虫が付いておられます。大いなる祈りを邪魔する虫は取り除かせていただきます。さぁ、マーガルの信者諸君、頼みましたよ」
「サーメスよ、任せておきなさい。我が爆発の女王シルカ様の教えを受けた者たちだぞ。失敗などありえない」
マーガル配下の信者4人は、4つの担当に分かれた。ニースを担ぐ、鎖を付ける、爆弾を付ける、重りを付ける順に作業を進めた。
「嫌、やめて」
「それでは、皆様方離れてください。我が爆発ショーを
セーレは、洗脳の力で止めようと
「お願い、やめて」
手足を激しく動かした影響で、血が散り乱れる。少しずつ、槍の拘束を解こうと、前に進む。痛みなんて、とっくに麻痺していた。
「あぁぁ、くぅ……」
セーレは、前に進むことで槍からの拘束を脱した。
「あらら、抜けられちまったか。まぁ、時間稼ぎもできた。これでアンタの頼み事も完了だ。後は、高みの見物だな」
「弾け飛べ!!」
信者4人の体が爆散する。しかし、サーメスとマーガルは首に掛けた赤い宝石の加護の力で、洗脳の影響を受けなかった。
その時、マーガルが敬礼をした。敬礼をした途端に、ニースの体に付けた爆弾が着火した。セーレは、唯一の肉親を助けることができず、錯乱状態に陥った。
「いやぁぁぁーーーーー!!!」
「ハハハハ、それだよ。その叫び声が聞きたかった」
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