第23話 満月亭の宿泊
テントから出てきたセーレは、少し満足そうな顔をしていた。そこに、マークとビィシャアがセーレの側まで近寄り、声を掛けた。
「おい、セーレ。あの騎士団長って」
「ええ、ちょっと記憶をいじって操ったわ」
「やるわね」
ビィシャア、マーク、セーレは、騎士団長の通行許可をもらうことができた。セーレの半ば無理やりな洗脳で騎士団長をわからせてやった。
「それでは、良い旅を」
騎士団員が、セーレ達一行に手を振り、見送りの言葉をかけた。マークはバイクのエンジンキーを回した。右手スロットルに手を掛けバイクはゆっくりと徐行した。ビィシャアもマークに並走し、錬成した馬に跨り歩みを進めた。
前方には、王城へと繋がるレンガ調の橋が架けられていた。その距離は何と10km。王城から繋がる橋は、この道を通るしかなく、橋の下には河川が流れていた。
「随分大きな橋だな」
「私もこんな橋を見るのは初めて」
マークとビィシャアは、初めて見る橋の長さに驚きと興奮を隠しきれずにいた。セーレは無口になり、何やら懐かしさと複雑な心境を抱えているように見受けられた。
「セーレ、難しい顔をしているようだがどうしたんだ?」
「あら、そう。ちょっと懐かしくてね」
「懐かしい?」
「…えぇ……あれは確か」
「何の話?」
マークとセーレの会話に対し、急に水を差したのはビィシャアだった。
「いや、そうね。また今度ね」
「え…気になるんだけど……」
その後もマークは執拗にセーレの過去話を聞こうとしたが、セーレがその話を口にすることはなかった。
セーレ達一行がバイクと馬で橋を移動すること、10分後。ようやく、王城が見えてきた。
「これが、王城か」
「えぇ、レイントピア王城。またここに来るなんてね」
レイントピア王城は、河川の上に立つ居城。入り口は橋を渡ってきたこの道のみ。王城内部は4つの区画に敷きられていた。商業地区、市民居住区、行政地区、王政地区の4つだ。王政地区は、これら3つの地区の中間に位置し統括する部門。その権力は絶大な権限が与えられた地区であった。
「ここが、王城か、市民の顔色。何か暗くない?」
セーレ達一行は、王城入り口の入門手続きをし、商業地区へ訪れた。商業地区といえば、商人達が声を上げ騒がしくしても「可笑しくない」筈なのだが、どうも空気がどんよりとしている。商人達も静かに商売に勤しんでいた。
「活気がないわね」
バイクはゆっくりと徐行し前進する。セーレは、マークとビィシャアに対し、本日の宿泊宿を探すよう提案した。
5分くらい探していると、満月亭という看板が目に止まった。宿泊施設らしく、4階建のレンガを並べた建物であり、左隣には間口縦2.5m×横2m程の駐車スペースもある。
「ここ、見て見ましょうか」
マークは、満月亭の駐車スペースにバイクを停めた。セーレはサイドカーから降りて店舗の入り口にいるビィシャアと合流した。
ビィシャアは、馬を赤い石に戻すと腰に掛けてあったウエストポーチの中に石を収納した。
「さて、セーレ。中に入りましょうか」
セーレとビィシャアに遅れて、マークが後方から駆け寄ってきた。
満月亭の入り口を開けると、目の前にはカウンターがあり50歳近い白のエプロンとキャップを被ったお婆さんが受付をしていた。
「いらっしゃいませ、よく来たね。3名宿泊かい」
「ええ、そうよ。2部屋用意できるかしら」
「2部屋ね、空きはありますよ」
「部屋は、男1人、女性2人の構成で問題ないかしら」
「えぇ、1部屋にベッドが2つ置いてありますので、問題ありません」
セーレは、マークとビィシャアに確認を取り、満月亭の宿泊を決めた。
「それで、1泊いくらかしら」
「3名で9000タークだよ」
「9000ターク、王城にしては随分安いわね」
王城の宿屋相場は、一泊2.5万ターク。繁忙期となれば5万タークはくだらない。セーレはその破格の安さに驚き、宿屋の主人に理由を尋ねた。
「それはね、お客さん。近頃、王城では血の洗練と呼ばれる罪人の処刑が行われていてね」
宿屋の主人
「そう、ありがとう。これ、9000タークね」
「毎度あり」
セーレは、銀の硬貨9枚を宿屋の主人へ手渡した。主人は、お返しに宿泊部屋の鍵を手渡した。それを受け取ると、セーレ一向はカウンターの右隣にあるエレベーターに乗り込んだ。エレベーターは、定員4名でセーレ達の部屋の4階ボタンを押した。
「じゃあ、あなたの鍵は401だから」
マークは、エレベーターの中でセーレから鍵を受け取った。搭乗して1分くらいで、4階に到着しセーレとビィシャアは402の部屋の施錠を解錠した。この階層は2部屋で、セーレ達の貸切状態のようだ。
「とりあえず、17時くらいになったら夕食を食べにいくから、エレベーター前に集合ね」
現在の時刻は、15時30分。セーレの呼び掛けに、マークは頷き部屋のドアを閉めた。
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