第24話 戦時下の追憶2
セーレ、マーク、ビィシャアは、満月亭からほど近い距離の飲食店で夕食を楽しんでいた。
「乾杯!!!」
ジョッキ片手に発泡酒の安酒が進む。セーレはあっという間に飲み干すと2杯、3杯目とハイペースだ。4杯目に入って、セーレはベロベロに酔っ払っていた。どうやら、アルコールには弱く酔いが回りやすいらしい。
「セーレ、そのくらいにしておいた方が」
「アタシ、まだ酔っ払ってねぇーわよ」
「…うん……酔ったセーレは新鮮な感じね」
セーレは、4杯目のジョッキを飲み干し、おかわりを要求。しかし、マークはおかわりを却下。
「なんでよ〜アンタ。はじめてぃ会ったときぃもケチだったわね」
「飲み過ぎだよ、セーレ」
マークは、セーレのジョッキを奪い取り自身のジョッキ近くに置いた。
「何すんのよ〜返しなさいよ」
「はい、水」
マークは、グラスに入った水をセーレに手渡した。セーレは、不機嫌そうな顔でグラスの水を飲み干した。
「わかったわよ〜。アンタが気になってる、この街のこと話してやるわよ」
「え……」
「あれはね、戦時下のときに」
エドモンドの死の1週間前、セーレ達一行は夜の王城にいた。王城へ来た目的は神器回収だ。そもそも神器とは、王城の職人達が作った「最高傑作」であり、誰も使いこなせない「無用の超物」だった。
神器回収のため、王城の商業地区にある下水の排水口近くには、6人の潜入者がいた。
「おい、セーレ! あんたが何で一緒なんだよ」
「テマ、私は味方よ。そんな言い方しなくても……」
「はぁ、良い子ちゃんみたいな言い分だね」
「もん、私はあなたに何か酷いことしたかしら?」
「いや、お前みたいな綺麗な顔の女を見てるとムカつくんだよな、同じ女なのにこうも違うのかって」
「そうなの、ムカついても同じ仲間なの。協力はしましょうよ」
「冗談じゃね」
テマは、持っていた槍をセーレの顔目掛けて突き刺そうとした。セーレの髪が白髪から銀髪となり、瞳の赤色も強く輝いていた。
「ち、私の手を操作しやがったな」
「それが、どうしたの?」
「気にいらねぇな」
テマは槍をブンブンと振り回し始めた。背中は逆三角形、髪型は黒のショートカットで男性のような体つきだ。
「貴方、やる気なの」
「その反抗的な目。やっぱり気にいらねぇな」
「そう。なら、ここで力の違いをわからせてあげるわ」
「望むところだよ」
セーレとテマが一触即発しそうな場面を止めたのは、ルーサーであった。
「テマちゃん、セーレちゃんも落ち着きなよ。我慢できないのなら、後でベッドで可愛がって、あ•げ•る……」
「…いや……いいや」
「……キモい」
ルーサーの発言に、セーレとテマは気持ちがいっきに冷めた。セーレとテマの争いをあたふたして見ていた歩兵部隊の3人もほっとしていた。
「コホン、取り敢えず私が眷属にした動物達に寄れば、潜入ルートと見張り番はここですね」
ルーサーは、軽いデッサンで王城見取り図と各地区の見張り番の配置図を描いてみせた。
「お前、非戦闘員なのにこんな得意技あったんだな」
「ほんとね、絵が上手でわかりやすい」
「セーレちゃん、ほんと嬉しいな……」
「ルーサー、私達は何をすればいいかしら?」
「…そうだね……、神器回収は私が操る眷属カンガルー達が回収してくれるよ。君たちは、眷属カンガルーとオオワシ達が王城へ潜入する間見張りさえしてくれれば問題ない」
「そんな役回りか、あたしは暴れたいね」
「テマ、堪えてくれ。この作戦は見張り連中の洗脳と行動不能が目的だ。つまり、君たちが適任なんだよ。そうだろう、見えざる断罪者であり洗脳のセーレ。そして、夢の世界の
「そう、任せておいて」
「あぁ、コイツより格上っていうのを見せつけてやるよ」
ルーサーは目を閉じると、別付近に待機していたオオワシの背中にカンガルーが飛び乗り、王城を目指し飛び立った。
「さて、私達も行動開始ね」
セーレとテマは、下水道の排水口から各自別方向へ飛び出して行った。歩兵部隊3人には、眷属を操る無防備なルーサーの護衛を担当させた。
「ここが、王城の行政地区ね」
セーレは、歩きながら見張り番と思しき人物達に洗脳をかけた。セーレの能力は、相手さえ視認できればその能力を発揮できる。勿論、目が合っていればより強く絞ることも可能だ。操る限界値は100人程度だと思われる。また、洗脳以外にも人体の細胞に関与し、相手の体を爆散させる応用攻撃もある。
「さて、お前らは寝ちまいな」
テマは、霧を操る能力を持つ。その無味無臭の白い霧に触れた者は眠りを誘う。その便利な能力ゆえ、王政地区を任された。唯一の弱点は、霧は風の流れに左右されやすいのだが、本日は無風とベストコンディションだ。
「さて、王城の連中は寝たかな。後は……」
一方セーレは、行政地区の見張り番の洗脳が完了。ルーサーが用意した眷属動物達は無事に王城へ潜入できたようだ。セーレは、道に迷わず対応できた自分に驚きつつも一安心し、行政地区の誰もいない公園ベンチに腰を下ろした。そこに、何かが近づいてくる気配を感じ、セーレは身構えた。
「テマ、何で貴方がここに」
「よう、セーレ。やっぱり、お前とは決着つけないと気が済まないんだよ」
行政地区の公園で、仲間内のいざこざが始まろうとしていた。
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