第22話 検問を突破せよ

 ビィシャアは出発前に母親と抱き合い、別れの挨拶を交わした。母親の「頑張ってね」という言葉を胸に刻み、ビィシャアの気持ちはより高まった。

 

 いよいよ、王城へ向かう。マークは地図を広げ、道筋を示してバイクに跨った。セーレ、マークは、サイドカー付きバイクで走行。ビィシャアは鉱石で精製した馬に乗り、王城を目指す。


「さぁ、行きましょう」


 セーレの号令で、譚蔴たんまを出て王城へ出発し砂漠の道を進み始めた。砂漠地帯は、風で道路に砂が堆積し舗装もままならない道だ。マークはバイクの転倒に気をつけながら、慎重にバイクを走らせる一方で、ビィシャアは先導し馬を走らせた。


「ここから、王城まで3日くらいかかるな」

「へぇー」


 マークは、サイドカーに乗るセーレに話しかけるが、地図を見ながら何やら難しそうな顔でにらめっこしていた。


「地図読めないのかよ」

「うるさいわね、こんなもの読めなくたって、誰かが先導してくれたら問題ないわよ」

「セーレは、よく道を間違えるが、戦時下はどうしていたんだ?」

「それはヘーゼルに着いていくか、アーネスに指示された場所へ突撃するか、偶にある奇跡の3択ね」


 マークは苦笑いするも道に迷わないように自身がしっかりせねばと意識を高くもつのであった。


「それにしても暑いわね」

「あぁ、暑いな。喉がカラカラだよ」

「はい、これ」


 セーレがマークに手渡したのは、ペットボトルだった。中身は水だ。彼女はこういった気遣いはできるらしい。マークはペットボトルのキャップを開けて、水を飲み乾いた喉を潤した。


「ありがとな、セーレ」

「どういたしまして」


 セーレ達一行は、朝から夕方までひたすら移動に費やしては野宿を繰り返した。そうして、3日目の朝を向かえた頃。砂漠地帯を抜け、緑の草花が生い茂る道を走行していた。すると、何やら前方に人の集団を発見した。


「そこのもの、止まれ」


 全身鎧に身を固めた騎士が、セーレ達一行に停止を促した。マークはバイクを止め、ビィシャアも馬の足を止める動作をした。

 

「誰よ、あんた達は?」

「我らは、王城よりこの場所の警護を任せられた王の足である」


 彼等の話を要約すると、王城では罪人の処刑に伴い残党が暴れているらしく。その残党を王城入り口へ入る前に検問を敷き、疑わしい者を「捕縛している」とのこと。


「疑わしい人達への検問なのね。…あれ、もしかして……私達って疑われてる?」


 まさに今、セーレ達に「疑惑の目を向けられている」訳だ。検問を守る騎士団の人数は20名。彼等は、セーレ達一行をぐるりと囲み、怪しい点がないか観察した。

 

 セーレの髪は、クライのペンダントの効果で銀髪から黒髪、瞳の色も赤から黒と迷彩処理は完璧だ。


「隊長、怪しいものは出てきませんでした」


 騎士団の下っ端らしき人物が上官へ報告する。

 

「そうか、怪しいものはなしか」


 騎士団の上官は、セーレ達一行へ近づき3人の顔を順番に見て回る。マークのトンファーは「何に使う」のか、ビィシャアのウエストポーチに入った「大量の石は何だ」っと問い詰めて回った。

 しかし、マークとビィシャアは旅には「危険は付き物っと、防衛策である」と弁解した。騎士団の上官も面白くない顔をして、2人のチェックを終えて、セーレの所で足が止まった。


「お嬢さん、美人だね」

「あら、ありがとう」

「君みたいな美人を見ると、私も優しくなっちゃうんだよ。それに私は騎士団長を任せられた男だ」

「そうなの、騎士団長ってことは、よっぽど戦果をあげたのね」

「そのとおりだよ。よくぞ聞いてくれた」

「…(しまった。長くなるやつだ、これ)」

「私は、あの言論の対戦の参加者でね……」


 セーレに対し、武勇伝語りが始まった。40代と思われる騎士団長の男は、自慢や賛美を受けた経歴など自身の話を語ってみせた。当然、セーレもそんな話には興味もなく「早く終わらないかしら」と聞いたフリをしていた。


「…であってね……。最後に見えざる断罪者セーレについてだ」


 セーレは、自身の話になり少し緊張した面持ちになった。


「私はセーレには会ったことはないが、ある知り合いの戦闘員の話だと美しい女性でありながら戦闘狂だったらしい。そのため、王城の一部の者が彼女を神格化したり、奇跡の子だのよく騒ぎを起こす輩もいた。おまけに裁判所連中は、セーレを様付けにしそれで罪状をつける程だ…おっと喋り過ぎたな……」


 セーレは、やっと話が終わると安心した矢先。騎士団長に左腕を掴まれた。


「お前さん、もう少し私の話を聞いてくれよ。そうだ、そこのテントで詳しく話をするから、一緒に来てもらおう」

「おい、おっさん!」


 マークは騎士団長の手を払おうと前に乗り出しが、セーレはその手を制止した。


「大丈夫よ、ちょっと話を聞くだけだから」


 セーレが妙に笑顔なのが気になるが、マークとビィシャアが見守る中、セーレは騎士団長に連れられて白いテントの中へ入っていた。

 テントは、四角形で休憩スペースや作戦指揮を取る椅子や机が並べられていた。


「いやいや、今日の私はついているな」

「どうしたの、話は?」

「そんなこと、どうでもよいではないか」


 騎士団長は、セーレを休憩室のベッドへ押し倒し、いやらしい目つきで全身を隈なく観察した。


「たまらんな、今から私の特権でお前のボディチェックを開始する」

「え…そんなこと……」

「いいのか、お前が従わなければ、あの者達の安全は保証できないぞ」

「…本当に……?」

「あぁ、約束する」


 騎士団長の右手がセーレの右胸に近づく。騎士団の手は、プルプルと手を震わせていた。耳から聞こえるセーレの吐息は、相手を誘っているかのような振舞いで、騎士団長は興奮を抑えることができなかった。

 と、急に騎士団長の手が止まり、それ以上先に手を動かすことができなくなった。セーレの顔を見ると、髪は黒から銀、瞳は黒から赤へ変化していた。


「何だこいつは、どうなっている?」

「さぁ、貴方も今こそ自由を。Follow me, pig!」

「この力は何だ、いやそれよりも銀髪、赤い瞳!? まさかお前は、見えざる断罪者セーレだったのか…う……」


 騎士団長とセーレがテントに入って、5分後。騎士団長のみテントから出て、騎士団員へ対応指示を伝えた。


「この者達を通せ、唯の旅人だった」

「宜しいのですか、隊長?」

「あぁ、許可する」


 機械的に答える騎士団長の姿をテントの中から、舌を出して反応を伺うセーレであった。

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