第21話 私は見極めたい

「…アーネスなの……? それに…あの罪人と呼ばれる彼はどこかで、見たような……」


 セーレはその場で硬直していた。マークとビィシャアが話し掛けるも声はセーレには届かなかった。頭の中を巡るぼんやりとした記憶。誰かと過ごしたであろう大切な時間。それを思い出そうとしても顔にモザイクが施され、記憶があやふやだ。


「もん、何なのよー!」

「どうしたんだ、セーレ?急に頭を抱えたと思えば、今度は叫ぶし情緒不安定になったのか?」

「ごめんなさい。良かれと思い、ママに合わせたのが行けなかったかしら」


 ビィシャアとマークは、セーレを心配そうな顔で見つめたが、無用の心配と手で跳ね除けるセーレであった。


「次の目的地は、決まったわ」

「…ん……どこにするんだ?」

「あのモニターに映る王城よ」


 セーレが見つめる先には、黒髪の優しそうな男性の姿を捉えていた。モニター越しで演説するのはアーネス。彼の「真意を確かめてやる」とセーレは決意した。


「王城、ここからだと100km先になるけど」

「構わないわ、私は王城に行かなくてはならないの」

「どうして、王城に拘るんだ?」


 マークは、ビィシャアに地図を渡し王城への道筋を赤ペンで書き込んだ。マークは、セーレに対し「王城へ行く理由」を尋ねた。


「…それは……あの放送を見て確かめたいと思ったから」

「何を確かめるんだ?」

「それは、私自身の記憶に関係すること。…それにアーネス……過去に言論の自由を掲げた統率者の真意を確かめたいの」

「そうか、わかったよ。それと……」

「それとって何よ」

「いや、あのさ……」

「何なのよ、はっきりしなさいよ」

「あの放送で流れた罪人。…セーレの恋人ってだけで罪を受けていてやり過ぎたなって思うんだよ……実際付き合ってはいたの?」

「…わからないわ……けど、アーネスと彼? は戦時下で私の支えになってくれていたわ。それが原因で……」

「どうしたんだ?」

「何でもないわ、次の目的地に向かうため準備をしましょう」


 セーレとマークは、ビィシャアから地図を受け取り、モニターを見るのを止めその場を後にした。

 ビィシャアの提案で本日はこの村に泊まることなったセーレンとマーク。彼らは久々の買い物を楽しんだ。なぜ「お金があるか」って? それは、最牡さいおすでクライから「支援金を援助」してもらったからだ。


「この村はなんて言う集落なの?」

「そういえば言ってなかったわ。ここは譚蔴たんま村っていうの」

「そうなの、私はあの戦時下で、あなた達の一族の名を知ったわ。ネイサンだったわよね?」

「そうだよ、よく知ってるね」


 ビィシャアが語ったのは、ネイサンの名前の由来、一族が使う技と譚蔴たんまの黒家についてだ。


 まず、ネイサンの由来はNature's Sun、自然の太陽だ。それは、太陽の日光が少ない環境であり、それを「追い求めた」ことでついた名前だ。


 次に、一族が使うのは「錬成に近い能力」だ。手を燃やしているのは、石を熱で柔らかくし手で形を整えている。彼等曰く「熱くはない」とのこと。


 最後に黒家は、最初に話した太陽の日光が少ない環境を利用した熱を取り込む技術である。この村は崖下で太陽の日光が少ないため、カラスの黒色を見て閃いたらしい。


「そうなの、説明ありがとう」


 ビィシャアとセーレは、買い物を終えマークと合流した。


 ビィシャア家に戻ると母親のご好意で、手料理を振る舞い客人をもてなした。料理は鳥の姿焼き、芋サラダ、コンソメスープとぶどう酒を出された。その料理はどれも美味で、ぶどう酒が進む。結局、セーレとマークは酔いが回りビィシャアの家に泊まることが決定した。


「コココ、コケ、コケッココー」


 ペット兼食料である放し飼いの鶏の声で、セーレは目を覚ました。


「朝か」


 ビィシャアの言った通り、この村は崖下で日差しが少ない。朝の7時なのに、外の天気は薄暗く太陽光の柱がまばらに散らばっている。セーレは床に敷かれた敷布団から起き上がり、玄関ドアを開け外へ出た。


「あら、セーレ、おはよう」

「おはよう」


 ビィシャアは何やら、小さなポーチの中に鉱石を詰めていた。その鉱石は、赤、青、黄色と様々で形も不揃いな鉱石だった。一通り詰め終わるとビィシャアは立ち上がった。


「私もセーレの旅に同行させてほしいの」

「それは嬉しいけど、私といると憎しみが増すのではないかしら」

「私はあなたが憎いのかもしれない。でも正直、パパの死は認めたくないし、あなたが全部悪いとは言えない。だから、これからのあなたを見て、この気持ちに決着をつけたいの」

「…わかったわ……。私は呪いで、あなたの名前を覚えることはできないけど、これから宜しく頼むわ」


 セーレは左手を前に出し、ビィシャアと握手を交わした。


「えー、俺の時はしなかったよね。握手」


 マークが後方から落胆した顔で2人のやり取りを眺めている。


「ふふふ、あなたは付き纏ってるだけでしょう」

「ひどいな、セーレ。ごほん…とにかく……、ビィシャアさん宜しくお願いします」

「ビィシャアでいいわ、あなたも宜しくね。マーク」


 かくして、セーレ、マーク、ビィシャアは王城へ向け出発するのであった。

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