第20話 戸惑い

 マークは、セーレとビィシャアの側までバイクを徐行し近寄った。


「とりあえず、どこかで体を休めたいわ」

「それなら、セーレ。私の村へ招待するわ」

「村か、ありがたいわね。それならビィシャアに案内をお願いしましょうかしら」

「えっと、ビィシャアさん。バイクは2人乗りなんだが、君の村はここから遠いのか?」

「遠くはないわ、それに私にも移動手段ならあるわ」


 ビィシャアの手が赤く光る。その手は勢いよく、火柱を立てた。中二病でも発症したのかと心配になる程だ。火柱が消え、ビィシャアが握った手を開くと赤い石が精製されていた。その石を上空に投げると石が粉々に砕け散った。


「何をしたんだ?」

「今からよ、見てなさい」


 砕けた石は、触手みたいに柔らかくなり周囲のオアシスの水、地面の土、草花を吸収していく。やがて、石だったものは馬の姿に変化した。その馬は、見た目は赤い鉱石でガラス細工のような美しい彫刻に見えた。


「私はこれに乗っていくわ」

「凄いな、これは何なんだ?」

「これはね、このブレスレットのおかげなの」

「そのブレスレットは宝飾や飾りが施されているな。かなり高価なものなのか」

「高価かどうかは知らないわ。けど、このブレスレットには特殊な魔力が込められているみたい」


 ビィシャアとマークがブレスレットの話をしてる様子をセーレは、黙って静観していた。セーレはそのブレスレットに見覚えがあった。かつて、召喚術師を輩出し戦時下に参加した一族があった。その一族の名は「ネイサン」彼らは「鉱石を自在に操る」という。


「さぁ、セーレ。案内するわ、私の後についてきてね」

 

 何かやけにビィシャアに懐かれてるのは、「気のせい」だろうか? 私を「憎む」といった気持ちはなくなったのか。そんなセーレとの気持ちとは裏腹にビィシャアは足早に村への道を案内するのであった。


「何か、薄暗い村だな」


 村の入り口には、何やら異様な雰囲気が漂っていた。家の外壁が全て黒、怪しげな薬を売っている老婆も黒ローブを着ている。子供はいるが、笑い声が聞こえず空気が重い。何か雨が降った後のジメジメとしたものを感じ取るマークであった。

 

「私の家はあれよ」

「やっぱり、黒なんだな」


 ビィシャアが指を指した家は、木組みで外壁はやはり黒。もはや、この村のしきたり的なものなんだろう。


「ただいま、ママ」


 ビィシャアが玄関ドアを開ける。開けた先には40才そこらの女性がトマトを包丁で切り、サラダを作っていた。ビィシャアは、母親に駆け寄りセーレとマークを紹介した。


「ビィシャアのお母様、初めまして。私はセーレと申します」


 家の中は、黒で統一はされていない普通の住居だった。密かにマークは「黒でなくて良かった」と思うのであった。ビィシャアの母親は、料理をする手を止めてセーレとマークの側まで近づき、挨拶をした。セーレは自己紹介の後に膝をついて頭を下げた。その行動にビィシャアの母親は驚いた。


「私は、あなた方家族に許しがたい行いをしてしまいました」

「…え……急に何をなさるんですか」

「エドモンド家の父親は、私との言論の自由の活動メンバーです。その方は、偵察部隊リーダーで情報のためなら、命を投げ出すことを厭わない勇敢な人でした」

「知っています。主人は仕事一筋でしたから」

「私は、自分の弱さと未熟さで守るべく人達が殺される姿をただ傍観するしかありませんでした。全て私が不甲斐ないからです、申し訳ございません」


 セーレは、頭を深々と下げた。ビィシャアの母親はセーレの肩に手を置き、頭を左右に振った。


「あなただけが悪い訳ではありません。私も主人が亡くなって驚きはしましたが、彼も本望だったんだと思います」

「ですが、私が……」

「セーレさん、あなたはお優しいのですね。こうして、一兵士の家族にまで律儀に謝罪してくれる。その気遣いだけもらっておきます。どうか自分を責めすぎないでください」

「ありがとう……」


 セーレの瞳に涙が溢れ、ビィシャアの母親の両手を掴み深々と頭を下げた。

 

 ビィシャアの母親は料理に戻ると、娘に対しこの村の紹介をしてとお願いをした。セーレとマークは、ビィシャアの案内で村を見学して回ると一際大きな歓声が上がる集団が目に止まった。


「これは、巨大なモニター?」

「そうよ、セーレ凄い技術でしょう。なんでも天才発明家が作ったそうよ」

「あぁ、クライさんか」


 どうやら、どこかの内政放送をライブ配信しているようだ。


「この者を処刑する!!」


 セーレは、処刑される罪人の顔を見た途端、急に頭を抑え苦しみ出した。あの人は「何か記憶の重要」なピース。しかし、記憶に蓋をされた弊害感を覚える。あの人を見ると「胸が苦しい」張り裂けそうだ。マークとビィシャアがどうしたと心配そうに見つめる。モニターの音声放送が続く。


「この者は、不敬にもセーレ様の恋人を名乗った。よって罪人は死刑との判決をアーネス様が下された」


 モニターには刑の執行を待つ、囚人の前に王城から1人の男が現れた。胸には数々の勲章と白マントを携えていた。

 

「あなたなの、アーネス? どうして、あなたに何があったの」

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