銀髪の居城

第19話 再出発

「私はあなたが憎い」

「好きなだけ憎みなさい」

「ふふふ、あははは」

　セーレとビィシャアはお互いに笑い合った。ビィシャアは、セーレより若い印象でボサボサの黒髪から見える目は、くりくりな可愛らしい目をしていた。ビィシャアが大人しくなったので、セーレは少し距離を取った。

「せっかくの砂漠のオアシスだし、水でも飲みましょうか」

「はい、飲みます」

　セーレとビィシャアは、喉が渇いていたのかオアシスの水をがぶ飲みした。思わず、2人の間に笑みが溢れた。

「…は……気が緩み過ぎました」

「いいじゃない、お互い喉が渇いていたんだし」

　ビィシャアは、少し赤面した顔でセーレの顔を伺う。まるで、子供が悪いことをして叱られまいと隠しているようだ。セーレはその様子に「クスクス」と笑いを堪えていた。

「あなたに聞きたいことがあるわ」

「何が聞きたいの？」

「あなたの眷属、オークとインプについてよ。私はあの類の生き物を見たことがあるわ。もしかして、フードの男から何か渡されていないかしら？」

「どうして、それを知っているの。そう、これをもらったの」

　ビィシャアが服の中から、黒のペンダントを取り出した。ペンダントは丸く銀製で三角のマークが中心に刻み込まれていた。セーレは「そのペンダントを貸してくれ」とビィシャアへ頼んだ。

「こんなものは、こうしてやる」

　セーレは、足を上げマサカリ投法でオアシスの水へ投げ入れた。ぽちゃんと沈み、水の気泡がぶくぶくと泡立った。何かが勢いよく、水から浮上した。その生き物は「ネズミ？」

「間違いない、これは奴が眷属としたネズミだわ」

「眷属ネズミって何なの？」

「こいつらは、ある男に魅了されているの」

「魅了？」

「そうよ、あの顔だけのクズな男。魅力の男爵ルーサー」

　ルーサーの驚くべきクズの所業をセーレは話し出した。まず、「女を泣かせる」格好をつけて女を口説くが、他に可愛い子がいればすぐ「乗り換える」次に男の名前は「絶対覚えない」戦争時の支援班の労いは女性のみ、男性は「目の前から消えろ」と言う。最後にアイツは「女垂らしの癖に気に入った女性はどこまでも追いかけよう」とする。

「そうでしょう、眷属を操っているクズヤロー、ルーサー！！」

「いやいや、久しぶりに会ったのに酷いじゃないかセーレちゃん」

　ネズミが水から這い上がり、目を青く光らせていた。

「残念だな、せっかくセーレちゃんを口説くチャンスだったのに」

「え、キモい」

「その発言酷くない」

「いやらしい」

「…え……言葉遊びしてる？」

「…」

「黙らないでよ、セーレちゃん」

　セーレは、眷属ネズミ(ルーサー)とのやり取りに思わずため息が出た。このルーサーという男のノリは「チャラ男」だ。引いても、めげずに押してくる。大抵の女性は、ルーサーの整った顔立ちに「メロメロ」になるが、私はこの「クズ男の本質」を知ってるのではっきり言って関わりたくはない。

「キモい」

「え…2回言った酷くない……」

「あの……」

　ビィシャアが痺れを切らし、2人(1人はネズミを媒介としている)の話に割って入った。

「あなたは、私にペンダントを託しました。その力でオークとインプの眷属を得ました。なぜ、お力を貸してくれたのですか？」

「…それはがっかりするから……聞かない方が」

「良くぞ、聞いてくれた。では説明しよう」

「うわぁ、キモい」

　セーレは、露骨に嫌そうな顔をした。その姿はペットの異常行動に同情するような哀れみの表情だ。それとは相反し、眷属ネズミは悠長に喋り始めた。

「ビィシャア、私と初めて会った君はセーレに深い恨みを持っていた。説得しようにも止めることが出来ず、監視の名目で、このペンダントを託したんだ。直接セーレと対面すれば誤解が解けるんじゃないかと思ってね」

「え…以外とまともな返答……」

「騙されないで。ならなぜもっと早く助けに入らなかったのよ」

　眷属ネズミにかけられる圧がより一層強くなり、側から見れば動物虐待をしてるのかと疑問に思う程だ。さて、ルーサーの助けに入らなかった返答はいかに。

「実は、君がピン……」

「何よ、聞こえないじゃない。もっと大きな声で言いなさいよ」

「だから、君がピンチにな……」

「言いたいことは、はっきりと言いなさい」

「あーも、君がピンチになるのを待っていたんだよ。もうシチュエーションは考えていたんだ。そうラブロマンス作戦さ」

「もういいわ」

「君が追い詰められて、ペンダントから……」

「もういいって言ってるでしょう！」

　セーレの髪色が白髪から銀髪になり、眷属ネズミにある洗脳をかけた。貴方は「クズからの指令を受けず自由」よ、さぁ「野生に帰りなさい」と。ルーサーの声は聞こえなくなり、ネズミは茂みの中へと消えていた。

　一悶着解決し、何やらバイクのエンジン音がこちらへ近づいてきた。バイクに乗っていたのは、マークだった。

「セーレ、やっと見つけた。…無事だったかって……お前はビィシャア＝エドモンド」

「あら、彼女は敵ではないわ。一時休戦中」

「そういうにしました」

「へ…どういうことなの……？」