第16話 偵察部隊
「3年前の戦時下、私とヘーゼルは偵察部隊と共に敵地へ密偵の陽動をしていたわ」
「…おい、拘束を解除、ん……」
「口を開かないようにしたわ、鼻呼吸し黙って聞きなさい」
ビィシャアは、セーレの顔を睨みつけた。セーレは、戦時下の話を続けた。
その日は、雨が降っていて。ヘーゼルとセーレはタッグを組み、敵の密偵調査を手伝ってほしいと偵察部隊のリーダーに頼まれていた。
「何で、私が密偵補助なんぞ、手伝う気になれん」
「まぁ、まぁ、ヘーゼル話だけでも聞こうよ。…それで、えっと……偵察部隊リーダーのエドモンドさん。詳しいお話を聞かせて頂けないでしょうか」
「は、セーレ様、ヘーゼル様。その前に私のことは、エドモンドと呼び捨てでお呼びください」
ヘーゼルとセーレに密偵補助を頼んだエドモンドは隠れ
「それで、エドモンド。私達は何をすればいいの」
「はい、簡単なことです。我ら偵察部隊が敵地に忍び込んでいる間、敵地の外で大暴れしてほしいのです」
「簡単に言ってくれるな」
「ヘーゼル、言いたいことはわかるけど、協力してあげようよ。私達には神器っていう強力な武器も手に入ったことだし」
「しかしだな」
ヘーゼルとセーレは、口喧嘩を始めてしまい収集がつかない。エドモンドはどうしようもなく、その場でじっと静かになるまで待っていた。そこに、灯りが近づいてきてキャンプテントの入り口が開き、アーネスが顔を覗かせた。
「話は聞かせてもらったよ、ヘーゼルとセーレは王城から奪った神器を試す良い機会だ」
「アーネス……」
ヘーゼルは、アーネスの説得に応じて渋々OKを出した。
「よし、話はまとまったみたいだね。私は明日、王城の第3拠点を落としてくるから、第2拠点の情報収集と陽動は頼んだよ」
アーネスはテントから出ていき、雨の中を足早に駆けていった。エドモンドが偵察の話を続けた。
「アーネス様の許可が出ましたので、作戦を説明いたします。宜しいでしょうか?」
「はい、お願いします」
「仕方ないね」
エドモンドは、テーブルに地図を広げて第2拠点の場所や陽動ポイント、合流ポイントにマーカーをつけた。陽動班、ヘーゼルとセーレは、敵陣をできる限り陽動ポイントへ集め、最終的には川を反乱させ水責めする作戦のようだ。最重要の偵察部隊は、王城の動向や神器の有無を調べるようだ。
「…以上で作戦説明を終了いたします……。何かご質問はありますか?」
「はい」
「セーレ様、どうぞ」
「王城の神器は、全部で12本回収し私達が所持することになったけど、13本目が出てきたらどうするの?」
「はい、神器もあなた方と同じく、我ら何の力も持たぬ者が持っても意味がありません。しかし、今後13人目の存在が確認されるかもしれません。我らはそのための準備をしているのです」
セーレ、ヘーゼルとエドモンドの会議が終了し、セーレは雨が降る中、キャンプ近くの寺院に足を運んだ。
寺院の中は、長椅子が並べられ中央に花束と蝋燭の火が灯されていた。この戦争で家族や友人を亡くした者達が、戦死者に祈りを捧げていた。セーレもこっそりとその中に混じり、戦死者に祈りを捧げた。祈りを捧げるセーレの目には涙が流れ出ていた。
「早く、戦争を終わらせないと」
夜が明けると、雨は止み晴れた天候に恵まれた。「いよいよ作戦決行」と偵察部隊も意気込む。そこに、セーレ、エドモンド、ヘーゼルの3人が部隊に激励をかけた。最後にエドモンドから部隊に向けて話をした。
「我らは、アーネス様の意思で集まった精鋭だ。しかし、お前達に言っておくことは、1つだ。いざとなったら、死ぬ覚悟で情報を守れ。王城の捕虜になんてなるな。奴等の情報を奪い取れ」
偵察部隊の指揮が上がるが、セーレも一言付け加えた。
「どうか、皆さん無理をしないで生きて帰ってきましょう」
偵察部隊は、拳を天に上げ作戦は開始された。セーレとヘーゼルは、神器の力で身体能力も向上しているため、敵陣の城壁の一部を破壊した。敵陣から歩兵団が進行してきた。
「やるぞ、泣き虫セーレ。遅れは取るなよ」
「えぇ、ヘーゼル。行きましょう」
ヘーゼル、セーレの陽動作戦が進む中、5日前から張り込んでいた別動隊が様子を監視する。川の水はダムで堰き止めており、水位が高くなっていた。その一方で、第2拠点内部では、偵察部隊が慣れた手際で敵陣の拠点へ侵入していた。戦況は優勢であり、敵兵の混乱の隙をつき、偵察部隊は調べ物の任務を遂行した。
セーレは、過去にあった出来事をビィシャアへ伝えていった。だが、未だに信じられないという顔をしていた。
「作戦は順調だったわ。けどある男が合流ポイントに現れて事態は一変するわ」
セーレは、深呼吸をしてからビィシャアの手と足の拘束以外を解いた。ビィシャアは拘束疲れか、肩の骨を器用に鳴らした。
「誰なの、その男は?」
「その男はアドモス。彼との初めての邂逅であり、私とヘーゼルに呪いをかけた術者よ」
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