第15話 恨まれる

「エドモンド!? …そんな、彼の娘だなんて……」

「パパの敵だ、死ね。セーレ!」


 ビィシャアは、手に持った鎌の先端をセーレの胸目掛け、振り下ろした。ガーンと鎌を防ぐ音がする。鎌の先を2本のトンファーで防いだのはマークだった。


「何やってるんだ、セーレ。早く洗脳の力を」

「何だお前は邪魔するな。我がクリチャーよ、そいつをやっちゃえ」


 ボサボサ頭の女性の後ろから、霧を跳ね除け2体のクリチャーが姿を現した。その姿はインプとオークだった。インプは、頭に4本の角、耳が長く、少し小振りの羽を使い2mぐらい宙に浮かんでいた。オークは、豚を顔にしたゴリマッチョで棍棒を手に持っていた。2体とも体長2mはありそうだ。


「何だ、こいつらは」

「さぁ、やっちゃえ」

「セーレが危ない、お前だけでも先に」


 マークは、ビィシャアの鎌にトンファーの電流を流そうとしたが、オークの棍棒で殴られて引き離されてしまう。


「…あれ……思ったより痛くない」


 マークはオークの攻撃を受けたが怪我一つなく、衣服が汚れる程度だった。クライ作成の服の防御陣が効力を発揮しているようだ。セーレを見ると、放心状態で追い詰められた表情をしている。


「おい、セーレ! 何をしているんだ」

「…ごめんなさい……ごめんなさい」


 セーレの瞳から涙が溢れ出ていた。


「涙、ふざけんな殺人鬼! お前にいくら同情されても事実は変わらないんだよ」

「ごめんなさい……」

「セーレ、何があったんだ」


 ビィシャアの鎌がセーレを襲う。マークは、インプとオークの2体に足止めをくらい近づくことができない。

 

「こいつら邪魔をするな」


 セーレは、我に返りビィシャアを見た。鎌の先端が接近しているのを目視し軽い足の動作で避けた。ビィシャアは鎌を乱暴にブンブン振り回すが、セーレには当たらない。


「あなたの父親、エドモンドの遺言があるの」

「そんな作り話、信じる訳ないでしょう」

「お願い、私の話を聞いて」

「殺人鬼の話なんてどうでもいい」


 セーレの髪は白髪から銀髪へと変わる。ビィシャアは、鎌を投げるがセーレは右側へ走り避ける。ビィシャアはセーレの腰に突進し、両手で掴み掛かりそのまま後方へ倒れ込んだ。ビィシャアは、自身の腰にぶら下げてあった短剣を手に取った。


「死ね、セーレ!!」


 ビィシャアは短剣の鞘を捨て、セーレが動けないようにマウントポジションを取った。そして、セーレの頭に短剣を突き立てようとした。


「エドモンド、ごめんなさい。動きを止めよ。Freeze!」


 セーレの力で、ビィシャアは短剣を突き刺そうとする体制で静止した。ビィシャアの顔は、目が充血し顔全体が赤く、怒りを露にしていた。


「クリチャーよ。私を巻き添えにしても構わない。セーレを攻撃しろ!」


 マークはオークの顔面をトンファーで殴り、電流を流した。650Vの電流を浴び、オークは気絶した。マークは、インプを止めようと走り出したが、飛行能力のあるインプに追いつくことができない。


「セーレごと、やれ! 我がクリチャー」


 インプは口から、火を吐いた。セーレの拘束力でインプを縛ったが、火の攻撃を止める手立てがない。


「終わりだ、セーレ! 地獄に落ちろ」

「弾け飛べ! Punishment of sin」


 セーレの力により、オークとインプは膨れ上がり、風船のように爆散した。セーレは逃げようとしたが、ビィシャアがマウントポジションを取った状態で拘束しているため、逃げ出すことができない。


「お前はここで、私と死ぬんだ」


 セーレは右手の黒グローブを前に突き出した。グローブから青の光が溢れる。その光が螺旋状となりセーレとビィシャアが光に包まれていく。マークも慌てて、その光に入ろうとしたが一歩遅く、セーレとビィシャアは何処かへワープした。


「セーレ〜!」


 マークの声が響くが、インプが吐いた火が砂漠の木々を燃やす音でかき消されるのであった。

 青い螺旋状の光がオアシスの水の上に現れた。その光から、2人の影が落ちてきた。その人物は、セーレとビィシャアだった。


「ぶは」


 セーレは水の上から、顔を覗かせた。水の中は、足はつかないが、そこまで水深は深くないようだ。あたりを見て、慌てた様子で水の中に顔をつこんだ。なんと、ビィシャアがセーレの拘束を受けていたため、泳げずに沈んでいた。セーレはビィシャアを救出し、ビィシャアを抱えて水の上から出た。


「なぜ、助けた?」

「死にたかったの」

「眷属は潰され、武器はなし。お前の拘束も解けない、これでは何もできない」


 ビィシャアは、頭を伏せ観念した様子だった。セーレは拘束を解こうとしたが、ビィシャアの左手に短剣が握り締められていたため、その手を止めた。


「こんな拘束意味がない、すぐに解け」

「解いたら、私の話を聞いてくれる?」

「聞くものか、今度こそ止めを刺してやる」

「なら、貴方の拘束を続けるわ」

「くそ、お前が憎い」

「そうよね、憎いわよね。エドモンドには本当に感謝しているわ。そして、貴方の父親を助けられなくて、ごめんなさい」


 セーレは、ビィシャアを拘束したまま、エドモンドとの話を始めた。

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