第12話 教団

「ハハハ、立派なストーカー発言だな」

「あなた本気で言っているの、こんな出来事は序の口でもっと怖い目に会うかもしれないのよ」

「あなたじゃない、マークだ! セーレがその名前を呼ぶなら諦めるよ」

「ハハハ、上手いね、マーク。セーレの制約を逆手に取るなんて」

「笑い事ではないわよ、クライ。もー、私が人の名前を記憶できない制約を盾にされるなんて」


 セーレは、額に手を置き頭が痛いような仕草をした。マークは制約の話を続けた。


「セーレ、教えてくれ。君の制約の呪いとは何なんだ」

「何でこうなるのよ。こんなことなら、早めに手を切っておくべきだった」

「セーレ、頼む。教えてくれ」

「もん、この左手にある赤い蛇の刺青が原因なの」

「刺青? それは本を収納する魔法ではないのか」

「確かにそうでもあるけど、この刺青をされた者は、死んだ人間しか記憶できない呪いなの」

「けど、ヘーゼルさんやクライさんは、名前で読んでるし」

「マーク、僕達は人智を超えた存在だよ。そんな呪い通じる訳ないじゃないか。一般人との物差しで、測れるものではないんだよ」


 マークは、クライの角が立つ物言いに少し苛っとしたが、呪いについての話を進めた。


「セーレ、呪いということは、かけた者がいるということだ。それは誰なんだ」

「そこまで、踏み入る気なの。別にいいじゃない、ここまでで」

「ダメだ! 俺は知りたいんだよ」

「ふー、言論の自由を強いる者にして、その発案者であり私達が後一歩で倒す事ができなかった男。その名はアドモスよ」

「アドモス?」


 マークは、セーレから聞いたこともない男の名前を聞き「誰なんだ」と考え込んだ。


「彼を倒さなければ、言論の自由を勝ち取ることができない」

「セーレの言う通りだ、マーク。今は彼の名前と制約を知れたんだし、君も怪我を負い安静の立場だ。この話はこれで終わりにし、君も回復ポットへ戻ってくれ」

「そうだな、クライさんわかりました。ナースさん、申し訳ありませんが宜しくお願いします」


 マークは、ナースの車椅子補助を受けてその場を後にした。扉が閉まると、セーレは起き上がろうとした。


「セーレ、ダメだよ」


 クライは、セーレの首元へ鋏を向けた。


「クライ、あなたには関係ないでしょう」

「セーレ、君の考えはわかる。黙ってこの場から立ち去ろうとしているんだね」

「だったら、何よ」

「君は病人だし、君にも経過観察が必要だ。それに旅には足も必要だろう。あのバイクはプレゼントするから、もう少しマークを連れ回しても旅に支障はきたさないだろう」

「…」

「言論の自由を謳った僕達も、もう少し他者に対し素直な面を見せても良いと思うよ」

「わかったわよ、もう寝るからあなたも病室から出ていてくれる」

「そうかい、逐一経過観察担当が隣にいるので、何かあったら声をかけてくれ。それと解剖されたくなったら、すぐにナースコールを……」

「早く、行け!」


 セーレは、クライを追い出すと、目を瞑りそのまま深い眠りについた。

 

 場面は変わり、暗い部屋で大きなテーブルと椅子が4つ並び、変な銅像を飾る不気味な教団があった。男2人と女1人が椅子に腰をかけた。


「久しぶりだな、この会議をするのも。デロスよ、お前はいくつになった」

「女性に年を聞くのは、失礼よ、オラクレ! そうね、今回はサーメスからの会議の呼び出しらしいけど何の話だろう?」

「我等4教団は信じる者は違えど、情報共有と連携は必須だ」

「勤勉だな、マーガル。おっと、サーメスがきたな」


 遅れて、サーメスが空席の椅子に腰をかけた。

 

「お待たせしてしまい、申し訳御座いません。まず遅くなりましたが、皆様にご報告します。セーレ様が天から地へ降り立ちました」


「その話は誠か、あの洗脳の女王セーレ様が生きておられたとは」


 サーメスの話を聞いて、マーガルは興奮気味な表情をした。


「はい、我が眼でしかと拝謁しました。輝かしい銀髪、真紅の瞳に美しいお顔立ち。間違いなく、我が洗脳の女王セーレ様でした」

「セーレ様が生きておられたとは、我が爆発の女王シルカ様が聞いたら歓喜の言葉をかけるでしょう」

「そうですとも、セーレ様とシルカ様は、あの言論の対戦で輝いておられた御二人だ。故にマーガルには、セーレ様のお迎えを手伝っていただきたい」

「是非とも頼む」


 マーガルとサーメスは、暑苦しい握手を交わし気持ち悪い笑顔でお互いの顔を見た。その顔を見て、デロスが発言した。


「そう、2人で勝手にどうぞ。私はアーネス様一筋だし、女性は信仰しない主義だから」

「え、美女2人とのプレイか。あぁ、妄想するだけで最高だ」

「貴様は不敬だぞ、オラクレ!!」


 オラクレの言葉に対し、マーガルとサーメスは同じ言葉で注意を促した。


「そう、怒んなよ。我が魅力の男爵ルーサー様の教えなんだ。それぞれ意見がすれ違うんだ。仕方あるまいよ」

「オラクレ、ちょっと黙っていてください。では、セーレ様のお迎えは私、サーメスとマーガルが実行いたします。それで宜しいでしょうか?」

「異議なし」


 3人とも異議を申し立てず、会議は終了した。サーメスは、会議が終わると別室に移動し祈りを捧げた。


「偉大なる洗脳の女王セーレ様。貴方様には邪魔な虫が付いておられます。大いなる祈りを邪魔する虫は取り除き、必ずや貴方様を我が教団の元へお招きいたします」

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