第11話 諦めない奴

「洗脳の女王セーレ様。私こと、サーメスが貴方様を運ぶ命を賜った者です。今、この刃で貴方様の願いを叶えて進ぜます。安心してください。首と体が2つに別れても不要な体は、私が頂戴いたします」


 サーメスは、長剣を横にし右手で先端を掴み、そのまま勢いをつけ、セーレの首を目掛けて斬りつけようとした。


「だ…か……ら…や……めろよ」


 マークは、サーメスの腕を背中からガッチリとホールドした。


「貴様…一度や二度、三度と飽き足らず、四度まで邪魔するとは……」

「悪いな…俺……諦め、…わりぃ……奴だから」

「この手を離せ」


 サーメスは、剣の柄を使ってマークを何度も殴打した。マークは手を離し倒れ込んだ。しかし、足の衣服の裾を摘みサーメスを行かせないように抵抗した。

 

「ここまで、苛つかせるとは宜しい。貴方から先に天へ送って差し上げましょう。きっとセーレ様もお喜びになる筈」


 マークの背中に長剣を突き刺さうとしたが、高速で移動する物体に長剣がぶつかり弾き飛ばされた。


「誰ですか、邪魔をするのは?」


 高速で移動したのは、鋏だった。その鋏の取っ手にあたる部分を両手で掴んだ。サーメスを止めたのは、クライだった。

 

「いや、久しぶりに出てきてみりゃ、目の前にはうざったい優勢思考の連中がいやがる。お前らみたいな奴は俺が成敗してやるぜ」

「貴方様の顔、どこかで」

「はぁ…俺はなフライだよ……」

「フライ!? 開発者のクライ様と思ったが、別人いやまさか、二重人格の狂乱者フライの方か」

「カカカ、狂乱者か。懐かしいな。神器の鋏も戻ったし、久々にアレやるかな」

「お待ちください。我は洗脳の……」

「ごちゃごちゃうるせんだよ、覇道滅破はどうめつは!!!」


 鋏からレーザーの光が放たれ、サーメスの上半身は消滅した。


「ち……逃げられたか」


 サーメスの形をした土人形は、崩れ落ちた。


「後は頼んだぜ、クライ。俺はもう引っ込むぜ」

「フライ! まぁ敵もいないし良いか」


 後方から飛行機音と集団の足音が近づいてきた。


「大総統様、困ります。急に飛行機の上から飛び降りるなんて、無茶し過ぎです」

「先程は…えっと、すまん……。この者達は怪我人だ。収容してくれ」

「はい、承知しました」


 クライの親衛隊が、セーレとマークを担架に乗せて搬送作業を開始した。クライは、セーレの近くにあるクライの神器発信機を回収した。装置を裏返しカバーを外すと、発信機付きの盗聴器がチカチカっと光っていた。


「まさか、これが役に立つとはな」


 クライと親衛隊は飛行機に乗り込み、その場を後にした。マークとセーレは最牡さいおすの病院へ搬送された。

 

 2時間後。セーレは病室のベッドにいた。


「ここは、どこ?」

「セーレ、大丈夫かい? ここは病室だ。神器回収ご苦労さん」

「クライ? あなたが助けてくれたの?」

「間違ってはいないが、お前を守ろうとしたのはマークだよ。彼は今集中治療室の中だ」

「アイツの容体は」

「大丈夫。医療チームからは、傷の処置をし2〜3日経過観察すれば問題ないとのことだ」


 クライは、鋏を使って林檎を皮付きのまま4当分に切り分け、セーレにその内の1個を渡した。しゃりしゃりと甘酸っぱい林檎で仄かに甘みを感じた。


「優勢思考…彼等はどうして私達に付き纏ってくるのかしら……」

「セーレ、僕達は3年前言論の自由を勝ち取るため、不自由を強いる者達へ戦いを挑んだ。その結果はどうであれ、起こした行動を見て、その者を神格化したり崇拝するのは自由だ。但し、間違った行いや過剰行動は正しく導くことも僕達の責任だと思う」

「クライ…あなた大総統だったのね……」

「そうかい、認めてくれるのかい。では今すぐにでも解剖……」

「私達には、あの戦争を引き起こした責任がある。それでも戦争の影響を受けた人が無関係な人を怪我や暴力的な行動をするのは、やっぱり許せる行いではない」


 セーレは、何かを決意した顔でクライを見つめた。


「頼みがあるの」

「何だい?」

「今回の事の発端は、全て私に原因があるの。だからこれ以上無関係な人を巻き込みたくない。だから、あの男をこの街へおいてやってくれないかしら」

「いいのかい、セーレ? 彼の意見を聞かなくても」

「今回の出来事でわかったでしょう。私といると不幸になることが身に染みてわかったと思う」

「…ねぇよ……」

「!?」


 セーレが目覚める15分前。マークは集中治療室のポットで回復促進の治療を受けていた。その横で医療チームの説明をクライが聞いていた。すると、ポットの扉が開き、中からマークが飛び出した。


「セーレ無事か、あのストーカー野郎はどこだ」

「まだ治療が終わっていないんです。すぐ治療ポットへ戻りなさい」

「ハハハ、もう体の調子はいいみたいだね。医院長の話では2〜3日経過観察が必要とのことだ」


 クライは、マークを車椅子へ乗せるように医院長とナースへ指示を出した。マークは、セーレの病室の隣で待機していた。何でも本来は捕虜の観察を目的にした病室らしく、隣の病室の声は丸聞こえだ。

 

「いいのかい、セーレ? 彼の意見を聞かなくても」

「今回の出来事でわかったでしょう。私といると不幸になることが身に染みてわかったと思う」

「俺がいないところで、勝手に決めてんじゃねぇよ」


 マークは病室の扉を開け、ナースに車椅子補助を受けて前に進む。

 

「!?」

「セーレが自由のために戦ったんだ。それなら、俺の人生だって自由に選ぶ権利がある筈だ。セーレが何と言おうが、着いていくと決めたんだ」

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