第10話 砂鯨の鋏を取れ

「見てくれ、セーレ走ったぞ」

「そうね、良かったわね」


 マークはおじさんのレクチャーを受けて、50分くらいでバイクを乗りこなせるようになった。レクチャーを終えるとマークとおじさんは固い握手をした。


「そのバイクは、今日からお前のものだ」

「ありがとう、おじさん。大切に使わせてもらうよ」

「ねぇ、終わったの」


 マークとおじさんの会話が終わると、セーレはサイドカーに乗り込んだ。マークとセーレはサイドカーに格納されていたバイザー付きヘルメットを被った。


「よし、準備できたぞ」

「砂クジラに向けて出発しましょう」


 正面入り口が開き、1台のバイクが疾走した。地面を走るバイクにマークは気分が高揚する。バイク乗りが受ける風を全身に浴び、子供のように大はしゃぎしていた。

 

 マークは暫く走ると、セーレがある場所で止まるように指示を受けた。その場所はサボテンがある場所だった。


「ん…何だ地震か……」

「くる」


 岩礁を泳ぐ、砂クジラが顔を覗かせた。体長は30m程でつぶらな瞳で愛らしい顔をしていた。


「これが砂クジラ。とっても大きいのね」

「凄いなセーレ。砂の上を泳いでいる」


 砂クジラはサボテンまで泳ぎ、ムシャムシャとサボテンを食べ始めた。サボテンには棘があるが、クジラの舌はそれをものともせず食べる。

 

 セーレはサイドカーに入っていた双眼鏡で砂クジラの頭を確認した。頭の上には、緑色の鋏が刺さっていた。


「頭の上、あれね」

「どうするんだセーレ。あれ、何をして」

「あなたは、そこで待機」


 セーレは砂クジラに向かって走り出した。途中にある岩に身を隠しながら徐々に砂クジラとの距離を詰めていく。砂クジラの尻尾あたりに着くと、そろりと近づいた。

 

 セーレは、手に持っていた爆竹とマッチ棒を用意し、導火線に火をつけた。パチパチと音が鳴り、砂クジラは混乱しセーレに向かって突進してきた。セーレの髪が白髪から銀髪に変わる。


「さぁ、正面よ。クジラさん、すぐ終わるから私の言うことを聞きなさい。今こそ自由を。Follow me, pig!」


 クジラの動きが急に止まったが、もがこうとジタバタしようとしている。セーレは力を強め、懸命にクジラを縛る力を強めた。

 

「ぐぉぉぉーん」

「大丈夫すぐ終わるから、貴方に危害を加える気はないの。だからお願い大人しく私の言うことを聞いて!!!」


 3分後、砂クジラは大人しくなっていた。すっかりセーレの指示を聞くようになり、まるで飼育員のようだ。


「よし、地面に少し潜って頭の先端だけ出しなさい」

「ぐぉーん」


 セーレの言葉に従って、砂クジラはゆっくりと沈んでいく。

 

「良い子ね。すぐ終わるから」


 セーレは、砂クジラに刺さる鋏を取り、クライから貰った傷薬を頭の傷に塗ってあげた。傷の治療が完了すると、セーレは縛る力を解いた。砂クジラはゆっくりとその場を離れていった。

 

 セーレは遠くにいるマークへ手で完了の合図を送った。


「よし、取れた。クライの神器回収依頼はこれで完了ね。後はバイクに乗って帰るだけね」

「はい、我等と共に帰りましょう。洗脳の女王セーレ様」


 その声に驚き振り返ると、優勢思考の七三男がフルートのような楽器をセーレに向け吹いた。その振動は、衝撃波に似た音波攻撃であった。頭がクラクラとし、脳震盪に近い症状が出始めた。


「さぁ、参りましょうセーレ様。我等と共に祈りを捧げに」

「だから…そんなの……望んでないって」


 セーレは、フラフラになりながらも気力で、何とか体制を整えようとした。しかし、七三男は再度フルートを吹き、セーレにさらなる振動攻撃を与えた。セーレは、気絶しその場に倒れ込んでしまった。


「ふふふ、セーレ様やっとご理解いただけたようですね。それではその不自由な体を捨て、我等と共に」


 何か音が近づいてくると察知し、七三男は振り返ると目の前には既にバイクが近づいてきていた。当然避けられる筈もなく、七三男は砂埃を立てバイクと衝突した。

 

「セーレに触るな、ストーカー野朗が」


 マークは違和感を感じた。バイクのアクセルが全開なのに、それ以上先に進めないのだ。砂埃が晴れると、岩のような皮膚の七三男が姿を見せた。

 

「ふふふ、残念。我が力は体を石と変える力。邪魔をしないでいただきたい」


 七三男は、マークが乗ったバイクを手で掴み、そのまま投げ飛ばした。バイクは横に倒れ走行不能だった。マークは起き上がり、七三男に飛びかかった。


「セーレから離れろ」

「しつこいですね、やっと掴んだ神からの啓示。対面を許された我等が神セーレ様。その対面を邪魔するのは万死に値する罪です」


 マークは掴んだ手を引き離され、七三男から殴る、蹴るの暴行を受けた。それでも諦めずに、七三男の足にしがみついた。


「…セーレに……近づくな」

「まだ抗いますか」


 さらに七三男からの激しい暴行は続き、マークは動かなくなった。


「…」

「どうやら、終わりのようですね。さぁ、長らくお待たせしました。洗脳の女王セーレ様。やっと御身を我が見えざる優勢思考の元にたてまつれること誠に感謝申し上げます」

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