第9話 変わり者
「ここはすごい巨大な要塞都市ですね」
「ザー、ザー、ようこそ
「へぇ、凄いじゃない。この街のどこかにクライがいるのね」
「ザー、ザー、それではこのコウモリへ付いてきてください。以上で通信を終わります」
コウモリ型の機械は、セーレとマークを先導した。一定間隔の距離を保ちながら、道案内を進めていく。工場、住居、展望台、商業施設。1つの自治区として、完成した街の形だった。
暫く、コウモリ型機械の後を追っていくと白い施設に到着した。その施設横の木にコウモリ型の機械は止まり、ジッとして動かなくなった。どうやら、「ここが案内したい」場所らしい。
「それにしても、この施設白いわね」
「目が痛い気もする」
セーレとマークは施設の扉を開ける。開けた先で出迎えたのはロビーにいた受付の女性であった。彼女は「ロビーの椅子に座って待つ」ように伝えて、セーレとマークは椅子に座り待っていた。椅子はフカフカで沈み込み、座り心地も快適だ。
3分後、女性から呼び出しを受けてエレベーターに通された。4階に着くと、8畳程の通路奥に扉が1つしかなかった。「そちらの扉に入ってください」と言われ、セーレとマークだけエレベーターを降りた。エレベーターが閉まるまで、受付の女性は深々とお辞儀をしていた。セーレは通路奥の扉を開けると、椅子に腰掛ける子供のような女性がいた。
「やぁ、セーレ、久しぶりだね。僕だよクライだ」
「久しぶりね、クライ」
「うん、その男は何だい? セーレの性奴隷かい」
「違うわよ」
「初めまして、クライさん。私はマークと言います」
「マーク、矢印か何か君とは運命的な出会いを感じるね」
「運命ですか?」
「うん、是非今すぐ君を解剖させてほしいな」
マークは驚いて、その場に凍りついてしまった。セーレとクライはマークを無視し話を続けた。
「さぁ、解剖話は置いておいてくれるかしら」
「セーレ。ということはやっと解剖される気になったんだね」
「違うわよ。今の流れでどうしたら、そんな話になるのよ」
セーレは会話が噛み合わず、苛立った様子で頭を掻いた。
「クライ、お願いがあるの」
「お願いとは何だい?」
「私の神器を探したいの、何か探せる探査機みたいのちゃちゃっと作って欲しいの」
「そんなのは1日もあれば、簡単だ」
「そう、それなら……」
「但し、僕のお願いも聞いてくれるかい」
クライは椅子から立ち上がり、モニターとキーボードがある部屋へ移動した。マークもその後に続いた。
「お願いって何よ」
「まずは、これを見て欲しい」
モニターに映し出されたのは、巨大な砂クジラだった。
「この砂クジラをどうするの?」
セーレからの質問にクライはキーボードを使い、砂クジラの頭部付近を拡大していく。画面をよく見ると、砂クジラの頭部に鋏が刺さっていた。
「これって、あなたの神器じゃない」
「そうだよ、僕の神器だ」
「どうして、砂クジラの頭に刺さっているの」
「それはね、1ヶ月前の休暇時に崖の上で日光浴を楽しんでいた。カゴに入った果物を食べたくなり、切ろうとしたんが近くにナイフがなくってね。そしたら、目の前に神器の鋏があったから、それを使ったら崖の下へ落としてしまってね。それで偶々砂クジラに突き刺さってしまったということだよ」
「そんなくだらない理由で、神器を落としたの」
「下らないとは何だ。神器であろうと鋏の形をしているんだ。本来の使い方をした結果、落としてしまったのだよ」
セーレは、クライのお粗末な行動に頭を抱えたが「これも神器のため」っとクライの話を聞いた。
「つまり、これを回収して来て欲しいんだ。見ての通り、僕は大総統になってしまい多忙でね」
「わかったわ、その代わりに約束はきっちり守ってもらうからね」
「僕の腕を疑うのかい? 開発に関しては、未だ僕の右に出る者はいないんだよ」
「そうね、宜しく頼むわ。変人開発者クライ」
「宜しくね、セーレ」
扉を閉めると、セーレとマークは、またエレベーターへ乗り込み1階へ向かった。
「さぁ、砂クジラを止めるわよ」
「止めるって砂クジラのいる場所はわかるのか?」
「これよ」
セーレが持っていたのは、小型の画面が付いた装置だった。画面を見ると方位が描いてあった。
「これは?」
「クライから渡された追跡装置よ」
「そんなのいつの間に」
「アンタが凍っている間によ」
「あ、そうか」
セーレとマークは、正面入り口まで着くと作業服を着たおじさんに話しかけられた。
「あんさんが、セーレさんかい」
「はい、私がセーレよ」
「そうか、大総統に頼まれた品だ。使ってくれ」
おじさんが持って来たのは、バイクにサイドカー付き自動車だ。
「すげぇ」
「こいつは太陽光で走る代物だ。光収集と走行原理は大総統が作ったが、外観はワシが作った。砂クジラ探しに是非使って見てくれ」
「ありがとう、おじさん」
「おぅよ」
「あれ、運転どうするの?」
「ワシがレクチャーしてやる、ちょっと来い」
マークがレクチャーを受けている姿を見て、セーレは物思いにふけるのであった。
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