第8話 戦時下の追憶

「えっぐえっぐ」少女の泣き声が暗い部屋の中に響く。


「うるさい、セーレ! 寝られないだろうが、私達は明日も早いんだよ、早く寝ろ」

「ヘーゼル、あなたには人の心はないの。今日倒した敵の顔が浮かび上がってくるのよ。寝られる訳ないじゃない。頭まで筋肉に侵されてしまったの」

「全く、昨日アーネスが新しい仲間だって連れて来て、年長者という理由だけで私に面倒ごとを押し付けやがって」

「ヘーゼル」

「うるさいわ、小娘! アンタも理解してアーネスについて来たんだろう。なら覚悟も決まっているんだろう? 覚悟が決まっていないなら、今すぐ帰んな! それとあんまり、ピーピー鳴いていると泣き虫セーレって呼ぶぞ」

「覚悟ならできているわ」

「なら早く寝な!」


 朝になり、歩兵団体の戦闘が開始される。


「これは、昨日も見たが恐ろしい力だね、全く」

「素晴らしいよ、セーレ。まるで、見えざる断罪者だ!君と巡り会えて良かった。さぁ、言論の自由のため、我等と共に進行しよう」


 ヘーゼルとアーネスが見つめる先には、全身返り血を浴び、血塗れのセーレが1人立ち、涙を流していた。


「は、戦時下の夢か。嫌なこと思い出しちゃった」


 セーレは起き上がり、下に引いていたゴザと枕のようなものをマークの鞄の中へ収納した。そして、鞄からタオルと歯ブラシを取り出し、歯ブラシで歯を磨き、池の水でうがいをした。

 

 うがいが終わると、衣服を脱ぎ捨てた。全裸となったセーレは池の水で自身の体を清めた。5分後、水から出てタオルで頭と体をよく拭いた。


「うん、やっぱり良い体してんだよな」


 マークは茂みの影からセーレを覗き見していた。セーレは再び衣服に着替え終わると、左手の蛇のマークに触れ本を取り出した。


「…祈りの時間か……」


 マークはゆっくりとバレないように、その場を後にした。

 

 10分後、祈りの時間を終えたセーレが戻ってきた。マークは寝たふりをしていた。


「アンタ、覗きの趣味もあったのね」

「それは、男だからな。つい出来心で」

「ふふふ、私の裸綺麗だったでしょう」

「それはもう素晴らしかったです」

「もー、この覗き魔が」


 セーレは、マークを叩くがその顔はどこか寂しそうな顔に見えた。


「さて、横槍は受けたけど、気を取り直してクライの研究所へ向かうよ。ホラ覗き魔! 先導しなさいよ」

「本当に申し訳御座いませんでした。許してください。セーレさん」

「どうしようかな、あそこの売店からアイス買って来てくれるなら、許してあげるかもよ」

「アイスですね、すぐに買ってきます」


 マークはミルクのアイスキャンディを購入し、セーレに献上した。セーレはアイスキャンディの棒を掴み、ムシャムシャ食べ始めた。


「あぁ、もっと味わって食べないのかよ」

「うるさいわね、こんなの早く食べなきゃ溶けちゃうじゃない。ほら、食べ終わったからさっさと先導」


 セーレは、マークを前に行かせて歩き出した。半日経つと大きな構造物が見えて来た。


「随分明るい街ね」

「おぉ、こんな明るい街、初めて見た」


 セーレとマークが見た景色は、機械と重機が動く要塞都市だった。その都市は、大きな壁がドーム状の形で守りを固めていた。


「この街のどこかに、変人クライがいるのね。はぁー、もう帰りたいわ」

「ここまで来て何言ってんだよ。早く、行こう」


 マークはセーレの背中を押して、ドーム状の入り口正門まで歩みを進めた。近くでみると「巨大」とにかく入り口の門がでかいことに圧倒させられた。


「何これ、デカ過ぎるんだけど。こんなにデカい意味あるの?」

「さぁ?」


 パタパタと何か動物らしきものが、セーレとマークに近づいてきた。よく見ると、動物ではなくコウモリ型の機械だった。先端には、カメラが取り付けられていた。そのコウモリ型に内臓されたスピーカーから声が流れた。


「ザー、ザー、聞こえるかね」

「はい、聞こえています」

「あなた方が何者か調べる。その場で待機してくれ」


 コウモリ型の目が光を放つ。その光がセーレとマークの全身をスキャンした。

 

 壁の内部では、モニター担当2人が訪問者の分析を始めていた。モニター奥の椅子には、退屈そうにモニターを見て椅子に座っている人がいた。


「何者でしょうか?」

「男の方は無害そうだが、女の方は…何だこのオーラ力は……!? とても人間とは思えん」

「セーレ? ふふふ、いいよ彼等を通してあげてよ。僕が許可する」

「大総統様。本気なのですか? こんな得体の知れない連中を中に入れるなんて」

「あぁ、それと彼女達を僕の研究室へ案内して、以上。あぁ、忙しくなるぞ」

「どうしましょうか」

「大総統様のことだ、何か考えがあるのだろう。よし、通行を許可しよう」


 モニター担当の1人が開場のボタンを押した。閉ざされた門はゆっくりと開き始めた。その光景にセーレとマークの2人は驚いた顔でリアクションを取った。またコウモリ型のスピーカーから声が流れる。


「ザー、ザー、通行は許可された。旅人よ、このままコウモリナビの後に着いて行ってください」

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