第5話 なら自由を
セーレは、ヘーゼルの話を聞いて少し落胆したような顔をしていた。その顔を横で見ていたマークは何か気の利いたセリフでも言ってやろうと思い立っていた。
「…セーレ、それは過去……」
「うん、まぁ仕方ないよね。彼がどう考えて行動したのか何か理由がある筈だし。私は3年も牢屋の中だった、彼と私の目線はズレるもの。それによって今は何が真実かわからないしね」
「あの…セーレ……」
「うん、何か言った?」
「いえ、何でもないです」
マークはセーレの切替の早さに驚きはしたが、もう少し悩んで「俺に慰め発言させる機会」をくれよって、頭の中でツッコミを入れた。
「あのう、ところでヘーゼルさん。呪いについては」
「あなたもしつこいわね、その話はナシ」
「だそうだ、悪いねマーク」
マークの発言はことごとく却下。「もう何も言うな」ってことなのかと、落胆していた。
「うふふ、なら私も自由にやらせてもらうわ」
「セーレよ、せっかく自由になれたんだ。もう十分だろう、大人しく脱獄生活を謳歌すれば良い」
「私、直接アーネスに会いに行って聞いてみる」
その発言を聞いたヘーゼルの顔が険しくなった。
「セーレ、それだけは絶対に止めておいた方がいい。今の奴は、昔のアーネスではない。お前が牢屋にいたことは、アーネスも知らない筈だ。奴もお前は死んだ者と思っている。それに、お前が生きていると知ったら、何をされるかわからんぞ」
「何よ、何をするのも私の自由でしょう」
「忠告はしたぞ」
ヘーゼルは、煙草を灰皿の中へ入れ起き上がった。そして家の中へ入り、何かを手に取りまた戻ってきた。
「お前の髪と瞳は目立ち過ぎる。これを持っていきな」
「これは?」
「戦争時にクライから貰ったものだ。何でも羽織るだけで髪と瞳の色を変える代物らしい。元々お前向けに作られたものだ」
「変人のクライからって、何これ黒いマフラーなんだけど」
「いいから羽織っていけ、脱獄生活を生き抜く助けにもなるだろう」
セーレはマフラーをしてみると、髪と目の色は黒へと変わった。見た目の変化に驚いたが、すぐに興味がなくなり順応した。
「ヘーゼル、それと、最後に私の神器について何だけど……」
「お前の神器か…確かアーネスに斬られた後、一緒に滝壺へ落ちていたんじゃないか……」
「そうなんだけどさ、目覚めたときは川の下流ですぐに保衛団に捕まちゃったし、何処で落としたのかわからないんだよね。へへへ……」
「それなら、クライに頼るしかないね」
「やっぱり、あの変人か。クライは話が噛み合わなくて、嫌いなんだよね。あ、そうだ。ヘーゼル一緒に……」
「お断りだ。もう静かに余生を過ごさせてくれ」
ヘーゼルは、ぼんやり上空を見上げている。セーレはその姿を見て、ここを最後の場所と決心していると悟った。そして、クライの居場所を地図に書き込み、セーレに手渡した。
「わかったよ、もう1つ聞いていい?」
「何だ?」
「あなたの神器が見当たらないのだけど、何処かに隠しているの?」
「あぁ、私の神器は二度と使わないように封印した。もう使うことはないと思う」
「そうだったの、わかったわ。ヘーゼル、色々とありがとう」
セーレは起き上がろうとしたが、立つことができなかった。
「セーレ、お前は術後だろう。もう少し安静にしないとダメだろう」
そう言うと、ヘーゼルはマークを手招きし呼んだ。マークは、ヘーゼルの指示で血で汚れた車椅子を川の水で洗浄した。丁寧に布巾で水気を拭き取ると、車椅子の上にセーレを乗せた。
「今日一日くらいなら、泊めてやる。但し、明日の朝一には出て行ってくれ」
「わかりました、ヘーゼルさんありがとうございます」
マークは、セーレを車椅子に乗せてベッドへ移動させた。本の数分で、セーレは眠りについた。
「セーレも寝た。よしこれでヘーゼルさんに呪いについて聞ける。セーレには無関係って言われたが、ここまで一緒に着いてきたし呪いとは何か気になるんだ」
マークは、意を決して後ろにいる筈のヘーゼルに呪いについて尋ねた。
「あの、ヘーゼルさん。さっきの呪いについて教えてください」
振り返ると、既にヘーゼルも眠りについていた。この部屋で起きているのは、マークだけだった。少しがっかりした顔をして、内ポケットにあったウィスキーボトルの瓶に手を駆けた。そして、クィっと一杯独り晩酌を楽しみ、明かりを消し眠りについた。
次の朝、マークは顔に違和感を感じた。何やら、「顔が痒い」し丸や四角と頬をなぞられている気がした。そっと目を開ける。そこには、小さな女の子がクレヨンで落書きをしていた。
「君は誰かな?」
「私、ミーアだよ、おじさんは誰?」
「ミーアちゃん、おじさんではなくね、お兄さんね。まだそんなに年ではないし、寧ろ若い……」
「いつまで寝てるんだい、早く起きろ」
「あ、おばあちゃん」
「おばあちゃん?」
「そうだよ、ミーアは私の孫だよ」
「へぇ、ヘーゼルさんも若い時は美人だったんですね」
ヘーゼルはにっこりと笑い、マークの腰あたりを手で掴み、窓から外の川へ投げ飛ばした。
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