第41話
辺りは真っ暗な闇に飲み込まれた夜になった。俺達は人気のないベンチに腰を掛けている。
「やばい、宿がどこも満室だ。このままじゃ野宿だぞ!」
と、俺は両手で頭を抱えて俯いた。
野宿は嫌だ、虫とかキモイし絶対嫌だ。
「フッ、サバイバルか……。血が騒ぐ。」
嬉々として両手を顔に添えた中二病ポーズを取った。
違う、バカ。野宿だ、サバイバルじゃない。やっぱりこいつがいると会話が進みにくいな。
「ではどうしますか?」
レベッカは俺の顔を見て質問した。
何か、最近の俺皆に頼られ過ぎてないか?仕事が増えるだけだから嬉しいようで嬉しくないな。
「こうなったら……、顔だけが取り柄の詩織その辺の男の人に今日家に泊めてくださいってお願いして来い」
ビシッと詩織の顔を指差した。
こいつの顔で家に泊めて欲しいなんて頼まれたら多くの男性は断れないだろう。
「嫌、襲われたら怖い。私のようなビューティフルガールと一つ屋根の下にいて我慢できる男なんていないわ。」
「確かに俺は我慢してないな」
こいつの実力や内面を知ってしまったらこいつを襲おうなんて考えないし、女性としても見れない。こいつは内面に問題が多すぎるのだ。
「おい、それどういう意味よ!」
詩織は力任せに俺の胸ぐらを掴み揺らした。
どういう意味だよって質問するなら俺の返答をちゃんと聞けよ、バカ。
「大丈夫襲われたら俺とクガがいるから安心しろ」
実際襲われても助ける気なんてさらさら無いけど。詩織が自分で抵抗すれば大抵の人間は倒せる。今日だって魔王軍幹部をあと一歩まで追い詰めていたほどなのだから。
「そうだ、安心しろ。ナイトの俺が護衛してやる。」
またしても手を顔にかざし中二病ポーズを取った。
「それじゃあ安心できないわよ。あんたら私より弱いじゃない」
と、詩織は両手を広げやれやれといった感じで首を振り、俺の言葉を鼻で笑った。
この野郎……、事実だからいいが人の偽善を無駄にしやがって。
「とは言え詩織さん、屑さんの言う通りにするしかないですよ。」
「それもそうね……、じゃ適当に止めてくれそうな人に頼んで来るわね」
詩織は自信満々に立ち上がりその場を後にした。
あいつ一人で大丈夫なのだろうか、でも俺が行っても今回ばかりは足手まといになるだけだしな……。
五分ほどして詩織が男性を連れて戻ってきた。男性の姿は身長が二メートルはあろう高さ、そして丸々とした体形をしている圧倒的巨漢だ。
なんでこいつなんだよ!絶対もっと普通な奴いただろ!
「詩織ちょっと来い」
俺は少し離れたところに詩織を案内した。
「おい、あれはダメだ。もっと普通な奴連れて来い」
巨漢男性には聞こえないよう耳打ちで伝えた。
「無理よ!だって街中行ったらあれより小さい男は子供しかいなかったんだから」
「は⁉嘘つくなお前、あれより小さい人なんていくらでもいるだろ。」
「嘘だと思うなら街中に行って見てきなさいよ」
「そうするよ、フェイク野郎」
俺は詩織に捨て台詞を残しその場を後にした。
数分歩き人気のある街中に出た。
「マジかよ……。」
目に映る景色に言葉を失った。目に映ったものは全ての男性がさっきの巨漢男性より確実に大きな男達だった。
何なんだ、この国は?闇魔法の国だって聞いてたからヒョロガリが多いのかな、とか思ってたら真逆じゃねえか!皆相撲取りかよ!
「これなら確かにあの男性の方が良いのか……。」
この街のとんでもない事実に驚き何も考えられなくなったのでベンチの場所に戻った。戻るとすぐ詩織が近寄ってきた。
「どうだった?ほらほら、言いなさいよ。」
「巨漢ばかりでした」
俺は詩織と目を合わせられず俯いた。
「そうなら言うことがあるんじゃないの~?」
俯いている俺の顔を見ようと、詩織は姿勢を低くして下から俺の顔を覗き込んできた。
この野郎……、久々に暴力なしで俺を言い任せられるチャンスだからと調子に乗りやがってぇ……。
「……フェイク野郎って言ってすいませんでした。」
「分かればいいのよ。」
と、俺のことを鼻で嘲笑った。
チクショウ、必ず、必ず仕返しをしてやる。
俺は復讐を強く誓った。
「初めまして東条屑です。」
巨漢の男性に名を名乗った。
「クガだ」
「レベッカです」
俺に続くようにクガ、レベッカの順で自己紹介をした。
「おいどんは、ブタマンでごわす」
は?ブタマン?イジメか?イジメでそう名乗れと言われているのだろうか?面倒くさそうだし名前には触れないでおくか。
「ちょっとあんたふざけてんの?デブだからってそれで納得は出来ないわよ、ちゃんと本名言いなさいよ」
詩織はブタマンを指差した。
バカ!可哀そうだろ!人にはそれぞれ事情ってものがあるんだよ。可哀そうにブタマンの心が傷つくぞ。面倒くさいことになったら嫌だな。
「ブヒィィィ‼」
詩織の言葉が心に響いたのかブタマンは顔が赤くなり呼吸が荒くなった。
キンモッッ‼傷つくどころか悦んでる……。面倒くさいことになったな。
「ハァ……ハァ……本当においどんの名前はブタマンでドュフ」
ブタマンどんどん気持ち悪くなっていくじゃん。
「屑さん本当にこの人の家に泊まっても大丈夫なのでしょうか?」
レベッカが耳打ちで質問してきた。
「大丈夫じゃない。でも安心しろ、今から断る。」
「もうどうでもいいから早くあんたの家に連れて行ってくれる?」
立っているのが辛くなってきた詩織は家に案内するよう催促した。
このバカ!今から断ろうとしてたのに、こんなちょっと危なそうな人の家に泊まれる訳ないだろ。
「勿論ドュフw、今夜は寝かせないドュフw」
ドュフの度にブタマンの肩が上がる。
「屑さんこれはブタマンさんより詩織さんを止めないと」
ブタマンの口から下ネタが飛び出し、より一層危険を感じたのかレベッカはさっきより切迫した顔で俺に頼んだ。
「任せろ、キャプチャー!」
俺は急いで拘束スキルで詩織の体を縄で縛り口を塞いだ。
よし、これで断るだけだ。
「実はさっき宿が見つかったんだ。だから今日は家に泊めてくれなくて大丈夫だから」
そう言い残して俺は詩織を担ぎレベッカ、クガとその場から離れようと歩き出した。しかし『グスン』と聞こえ振り返ってみるとブタマンが泣いていた。
何でこいつ泣いてるんだよ……、こっちが悪いことをしたみたいじゃないか。
「ブ……ブタマンさん?どうして泣いているのですか?」
レベッカが戸惑いながらも義務感を感じ質問した。
レベッカのバカ!直感で分かる、これは面倒くさいことになるやつだ……。
「初めておいどんの家におんにゃの子が来てくれると思ったのに……。」
ブタマンは目からあふれ出る涙を擦りながら必死に答えた。
おんにゃの子?その特殊な言い方に答えがかなり詰まっているだろ、バカ。まずそれを直せよ。
「べ、別にまだ若いんだからさ、またチャンスが来るよ。」
必死に泣いているブタマンを宥めるように言った。
早くこいつとの話を終わらせて野宿する場所を探そう。
「無理でごわす!おいどんは、いつもキモイ、クサイ、ねぇ何でそんなブッサイクで醜い顔して神様が面白半分で作ったような顔で話しかけてこれるの?生きてる世界が違うからwwwってバカにされてるんでごわすよ⁉」
鼻水や涙を飛び散らしながら大声で叫んだ。
最後の言葉だけ本当にレベルが違うな……。ブタマン可哀そう……。はぁー、仕方ないか。
「分かっ……」
「おいブタマン、モテたいか?」
クガが俺の言葉を遮り、ブタマンを指差して別の話題を持ち出した。
は?
「うぅ……、モデだい!」
「ならばこの我が手を貸してやろう」
と、意味深な笑みを浮かべた。
ふざけんな、クガも面倒くさいし、ブタマンも面倒くさい!この借りは労働で必ず返してもらう‼
ブタマンはクガの一言に感極まりその場に崩れ落ちた。
「おいどんでもおんにゃの子にモテれるのでごわすか?」
クガと目線を合わせるために上を向いているのにブタマンの目から大粒の涙を流れる。
「モテる!大悪魔のこの我と契約すればな!」
と、崩れ落ちたブタマンに手を差し伸べた。その後ろを見慣れた人影が通った、
こうなったら命の危険ではあるがブタマンよりはマシだ。
「フラッシュ」
俺は右手をブタマンにかざし、掌から太陽のように目が眩むほどの光を放った。
「テレポート!」
この場にいるブタマンを除く全員とテレポートし後ろを通った人影のところにテレポートした。
その人影とは、詩織の父親の南哲也さんだ。俺達は今日この人と行動を共にしたら死ぬと悟り逃げたのだ。
「やっと見つけたよ、話したいことは山ほどあるがまずは宿に戻ろうか」
哲也さんは突如現れた俺達に驚くことなく会話を始めた。
「はい」
俺達は疲れがどっと出てガクンと首が折れた。
今日はもう仕方ない、また明日逃げればいいか……。
俺達は哲也さんに案内されるまま宿に向かった。宿に入るや否や俺とレベッカは別々のベッドの上で倒れた。
「屑さん、今日は本当に疲れましたね。」
「本当にね……。」
哲也さんはすぐ酒持ってきた。
本当にこの人は酒が好きなんだな。
詩織は嬉々として哲也さんが持ってきたお酒を手に取った。
「詩織、酒は二十歳になってからだ。ちゃんと我慢しなさい。」
と、何故か哲也さんは二十歳の詩織に対して怒った。
「は?私もう二十歳だけど……?日本にいた時だって毎日一緒に飲んでたじゃない。」
「何訳分からんこと言っているんだ、今十八歳だろ?」
やれやれといった感じで両手を上にあげ首を振った
どういうことだ?日本にいた時一緒にお酒を飲んでいたことは俺も知っている。哲也さんに何があったんだ?
「とにかくダメなものはダメだ。」
と、哲也さんは一向に詩織の話を聞こうとしなかった。
「昨日だって一緒に飲んだじゃない」
「あ……、とはいえダメなものはダメだ!」
哲也さんの顔が一瞬青ざめた。
哲也さん酔っぱらってて頭が回ってなかったんだな……。この親子は本当によく似ている。
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