第38話

「うわあああ!テレポート」

 俺はギリギリのところでイートの攻撃をかわした。


 危なかった……。クソォどうやって逃げたらいいんだ?


「屑!レベッカちゃんが」

 詩織は巨大な拳状のスライムに攻撃をされそうになっているレベッカを指差した。


 やばい……、今は魔力が少ないからレベッカを連れてテレポートは出来ないぞ……。


「屑、ワイを投げろ!」

 ハムスターが突如ポケットから顔を出して言った。


「分かった、オラァァァ!」

 と、俺はハムスターを手に取り投げ飛ばした。


「いよっしゃぁぁ!アルティメットバリアー!」

 ハムスターはレベッカの前まで飛ぶと防御スキルでイートの攻撃を防いだ。


「貴様ぁ、何故邪魔をする⁉」


 ……邪魔をする?はっ、まさかこいつ。今はそれどころじゃなかった。


「レベッカ何突っ立ってるんだ、ちゃんと避けろ。死ぬぞ!」


「はい!すいませんでした」

 と、深々と頭を下げて謝った。


 頭を下げている隙にイートが再びレベッカに攻撃をした。


「危ない!」

 詩織はレベッカを庇いイートに飲み込まれ、透け通った水色のスライムの体の中に詩織が見える。


「やばい!詩織が飲み込まれた。」


 やばいどうにかして詩織を助けないと……。まずはイートがどんなやつなのか知らないと。


「レベッカ、イートは体内に飲み込んだ後どうするんだ?」


「イートは体内に飲み込んだ後男性であれば強力な毒素で一瞬で骨に変えてしまいますが、女性ならば窒息しないよう女性の顔を体から出し微弱な毒素でゆっくりとじっくりと服だけを溶かしていきます。」


「は⁉」


 魔王軍幹部の癖してとんでもないスケベモンスターじゃねえか!


「ならまだ時間に猶予はあるってことか」


「はい、そうです」


 よしっ時間がある、考えろ、俺考えろ。……チクショウ何も思いつかねえ。


「こうなればやけくそだ、フレア!」

 俺は杖先から火の球を飛ばした。火の玉はイートにあたったがイートは無傷だ。


 やはり……水分の含有率が高いから意味が無いな。


「グフフフ、随分と可愛い女じゃないか、どうだどんな気分なんだ?パーティーメンバーと大勢の人間の前で少しづつ服を溶かされていく感覚はどうなんだ?ハァ……ハァ……、おじさん興奮しちゃう‼」


 キモイな!何こいつ、魔王軍幹部なんだよなずっとただのスケベモンスターなんだけど魔王が討伐された理由がなんとなく分かってきた。


「くっ!剣さえあれば簡単に脱出できるのに……よくも折ってくれたわね、あのハムスター絶対殺す!」


「えぇぇl!何でワイのせいやねん!」


「あんたがバカみたいに硬いバリアを張ったからでしょ。」


「理不尽な」


 詩織の奴予想外に元気だな……ってそんなこと考えてる場合じゃない。


「屑さん詩織さんを助けるには詩織さんをイートから切り離すしかありません。」


「そうは言っても切り離そうにも剣が無いからな……。」


「もう一人可愛い女がいるじゃないか!」

 イートは再びレベッカを狙う。


 やばい……俺じゃああの攻撃を防げないぞ。


「もう終わりだ……。」


 ズパッ!レベッカを飲み込もうとしていた触手状に伸びていたイートの体が細かく切り刻まれた。


「な⁉何ぃぃ⁉また貴様かぁ‼」


 そこには短髪黒髪で剣を持った四十歳ほどの男がいた。


「黙れ、金づる‼もっと切らせろ‼」


 男は目にもとまらぬ速さでイートを細かく切った。その際イートから詩織助けてくれた。


「今日はこのくらいにしてやるまたでかくなったら来い!」


「チクショォォ‼覚えてろ‼」

 イートは捨て台詞を吐いて逃げて行った。


 あの人相変わらず強すぎだろ、相手は魔王軍幹部だったのに……。


「屑君大丈夫か?」


「お陰様で僕は無傷です。」


「それにしても詩織は全然成長してないな。俺がいなくなってから訓練してなかったな。」

 と、嘆息を吐いた。


「あのあなたは……。」


「俺?俺は勇者の南哲也。南詩織の父親だ。よろしく!」


 勇者?酒場のジジイ言ってなかったな、あいつ面倒くさいからって説明何個か省いてやがったな。


「勇者⁉お父様⁉」


「そう、これが私の親父。」

 詩織はため息交じりに起き上がった。


「おじさん勇者って何ですか?」


「魔法使いや戦士みたいな冒険者職業の一つだよ」


「そうですけどそれだけではありません、勇者は最強の職業の一つで世界に五人しかいません。魔王を討伐したのも勇者の中の誰かだと言われています」


 やはり詩織同様哲也さんも化け物だな。でも誰が魔王を討伐したのだろうか?


「その魔王討伐したのは俺だよ」


「えええええ‼」

 と、俺達三人は驚いた。


 哲也さんは確かに滅茶苦茶強いけど魔王討伐してってやばすぎないか……。


 俺達は驚きのあまり声が出なかった、ただ口をパクパクとしている。


「ということはあなたが魔王の寝込みを襲って倒した勇者様なのですね」


 そういえばそうだった、魔王は寝込みを襲われて討伐されたんだった。さっきの驚きを返して欲しい。


「あれは嘘だ」


 なんだ、この人は魔王討伐してないのか。本当に驚きを返して欲しい。


「真っ向勝負でボコボコにしたってなったら誰も俺と戦ってくれなくなるから嘘ついたんだ。」


 いや真っ向勝負で倒したのかよ!やはりこの化け物だ。嘘つく理由が戦ってくれる人がいなくなるからってどれだけ戦闘狂なんだよ。

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