第37話

「魔王軍⁉どういうことだ、魔王は討伐されたって言ってたよな?」

 もしかして魔王は実は生きていたパターンか?


「はい、魔王は討伐されています。しかし王を失ってなお魔王軍として人間を攻めてきているのです。」


「そういうことかよ!」


「そんなことより屑どうするのよ、音がした方からバカみたいにでかいスライムがこっちに向かって来てるんだけど。」


「は?どうも出来ねえよ。お前のせいで未だに自由に動けないんだからな、早く治せよ。」


「屑なしでどうにかしないといけないなんて……。」


「何でだよ!治せばいいだろ。」


「でも治したら私に復讐するでしょ、だから治さないわ。」


 は?何を言っているんだ、このバカは。このままだと皆仲良く魔王軍のバカでかいスライムに殺されるかもしれないってときに。


「今はそんなことしてる場合じゃないだろ約束する。」


「言ったからね、ちゃんと約束守りなさいよ。コンディションリカバリー」

 詩織はスキルで俺の二日酔いを覚ました。


「ふー、やっと二日酔いから解放された。後悔しろ、詩織ぃ‼」

 と、俺は勢いよく起き上がった。


「キャッ!」

 と、腕で守りの姿勢に入った。


「フハハハ、引っかかったな。」

 と、詩織を指差し笑った。


「こんな時に何してくれてんのよ。」


「二人とも落ち着いてください。今は目の前の敵に集中してください。」

 と、俺と詩織の間に割って入った。


「そうね」


「そうだな、あれってスライムだよな?」


「はいその通りです。」


 やはり……、そしてこういう時は主人公が弱いと思っていたら実は強かったパターンだな、つまり逆に強いだろって感じで言えば弱いってなるな。


「スライムって強……。」


「でもスライムって雑魚でしょ?」

 と、詩織は俺の発言を遮った。


 このバカー!何でおれの作戦の邪魔するんだよ!


「何を言っているんですか、スライムはとても強いですよ。スライムは斬ったり、スキルで攻撃をするなどして小さくし最終的にこのハムちゃんと同じくらいのサイズにすると討伐完了です。」


「は⁉今ビルくらいでかいのに無理だろ。」


「びる?……、それがどういったものかは知りませんが、魔王軍幹部のギガントスライムのイートに出会ったら逃げろと言われています。」


「魔王軍幹部⁉勝てる訳無い、屑私たちをテレポートして」


「無理だ、ゲロ吐きまくったからお前らとテレポートできる魔力残ってない。」


「いつも私のことを無能呼ばわりする癖にあんただって無能じゃない!」


「ふざけんじゃねえ!お前のせいでげろ吐いたんだろ。もういい俺だけテレポートで逃げるぞ?」


「嘘です、無能は私です。ごめんなさい、だから置いて行かないで下さい」


 素直に謝るなんてこいつらしくないな……、余程魔王軍幹部が怖いらしいな。


「分かればよろしい。」


「そんなことしてる場合じゃないですよ、もう目の前に来てますよ。」


「本当だわ、屑どうする?」


「とりあえずクガを起こせ。」


「分かったわ、コンディションリカバリー」


「ハッ⁉我は今まで何を⁉」

 クガは目を覚ました。


「えー!何故イートがここに?これも運命の悪戯、我の伝説の始まりの一ページ。」


 こいつ今ちょっと素が出てたな。


「クガ俺に作戦があるイートの方を見てくれ。」

 俺はクガを荷台の端に案内した。


「フッ!なんだ?あんなやつこの我が一撃で葬り去ってくれよう。」


「作戦は……、これだよ!」

 と、クガの背中を蹴り荷台から蹴り落とした。


「うわっ!イテテ……。グヘッ!グホッ!ゴフッ!」

 と、起き上がったが後続の馬と馬車に轢かれ再び倒れた。すぐにクガは血だらけになった。


「あちゃー……、クガは自分から最前線に来てくれたのにすまない。」


「そうね、今思い返すとクガは本当に良いやつだったわ?」


「いいやつだったわって……、あの屑さん作戦って一体何なのですか?」


「不死身のあいつなら様子見で使っても問題ないしできれば時間稼いでもらってその隙にカガクの国に逃げる。」


「え?でもそうしたらクガさんが死んでしまい……はしないのですが大変なことに……もならないのですが可哀そうなことになります。」


 不死身の奴のことを話すときって表現に困るんだな、あいつさなくても面倒くさいのか。


「だけどカガクの国の人たちに助けを求めれば大丈夫だろ、だって最強の闇スキルの使い手集団なんだろ。」


「それはそうですが……、スライムの毒性で骨も残らず溶けた場合って不死身でも回復魔法が使えないので実質死なのでは?」


「あっ!確かに……。」

 うわぁ、最悪だよ。俺が殺したみたいになるじゃん、後味悪いな。


「え?え?考えていなかったのですか?」


「うん、完全にミス。ま、まあでもイートが血だらけのクガを攻撃しない可能性もあるから。」


 目の前に来ていたイートはクガを取り込んだ。


 はい、攻撃しましたー。クガは不死身でありながら実質的な死に至りましたー。


「ど、ど、どうするのですか?」


「どうするもなにも何とかしてクガをイートから切り離さないと。」


 俺とレベッカは詩織の方を見る。


「私⁉私は無理よ、そもそもレベッカちゃんの剣折れてるんだから。」


 そうだった、金集めのためにあの喋るハムスターとの一騎打ちをさせて折れたんだった。あれ?あいつはどこだ?


「あのハムスターはどこだ?」


「え?ハムちゃんなら屑さんのポケットで寝ていますよ。」


「え?」

 俺はポケットに手を突っ込み確認した。


 あっ、本当にいた。こっちがピンチな時にずっと寝やがって……、あとで罰が必要だな。というかいつの間に入ってたんだよ。


「俺は暴食イート。魔王軍幹部ギガントスライムのイートだ。この俺に出会ったことが運の尽きだァ!貴様らも食ってやる!」

 と、イートは体の一部を拳の形にして馬車に振りかぶった。


「やばい、避けろ!」

 俺達は馬車から飛び降りすんでのところでイートの攻撃を回避した。イートは馬車を粉々に粉砕した、そして攻撃の風圧が吹き荒れた。


 な、なんて破壊力だ……。こんなのもう逃げられないな、あと少しでカガクの国に到着できたのに。クソスライムが!いつかローレンみたいな強いやつらを引き連れて殺してやる、そのために俺だけは逃げないといけないのでテレポートで逃げよ。

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