第36話
昼間の草野原に十台の馬車が倒れている。
「兄ちゃんたち壊した馬車と荷物の代金は払ってもらうよ。」
御者のおじさんは顔を真っ赤にして怒った。
「はい、すいません。」
俺は頭を下げた。
やばい、運転手のおじさんガチギレしてる……。馬車ってどのくらいするのだろうか?もう借金は嫌だ……。
そこから俺達は倒れた馬車を起こし再びカガクの国に向かって進み始めた。そこからは何事もなく日が暮れあたりは真っ暗な夜になった。俺達は野営の準備をし、宴会を始めた。
「さぁ!今日はじゃんじゃん飲むわよ!」
詩織は昼間とは別の一升瓶を天高く掲げた。
こいつ昼間何があったか知らないのか?俺とレベッカはお通夜状態なのに……、もしかしてフラッシュをくらって倒れた後寝てたのか?
「何暗い顔してんのよ~、ほら飲みなさいよ。」
詩織は、俺の首に腕を回し無理やり口の中に酒を流し込んできた。酒豪じゃない俺は逃れようとジタバタした。
こいつ力強すぎだろ、微塵も逃れられそうに無い。息がしづらい。
「はい~、一本よく飲めらした~。続きまして第二本れ~。」
俺の口に一升瓶を流し込み終わり、次々とお酒を飲ましてきた。
うえぇぇ‼気持ち悪い‼俺は今何本お酒を飲んだんだ?
「ん?ここはどこだ?」
俺が馬車に乗せるため、眠らせておいたクガが目を覚ました。
「ここはカガクの国の道中です。」
レベッカが説明した。
「ハッ!思い出した。我は屑に深き眠りに堕とされたのだ。」
「おえぇぇ!」
俺は嘔吐した。詩織は俺の逆流するゲロを無視してさらに俺の口に酒を流し込む。
うえぇぇ!やばい意識が薄れていく、こんな死に方は嫌だ。
「詩織さんクガさんもお酒を飲んでいませんよ。」
「え?」
クガは困惑している。
「仕方らいわね、あんたもあたしが飲ませてあげるわよ。」
と、俺を解放し、今度はクガの首に腕を回し口に無理やり酒を流し込んだ。クガもジタバタと暴れている。
「ハァー、ハァー」
永遠のように感じた十数秒がやっと終わった、自由に息ができる。というかズキズキと頭が痛いあのクソ女絶対に復讐してやる。
「屑さん大丈夫ですか?」
と、レベッカはこちらに駆け寄ってきた。
そういうことか……、俺がヤバかったから死なないクガを身代わりにしてくれたのか……。
俺は薄れゆく意識の中最後に詩織に酒を無理やり飲まされてジタバタしているクガを見た。
夜が更け太陽が昇った。俺は朝日に照らされて目が覚めた。
屑さんおはようございます。」
「おは……よう。」
目が覚めるとそこにはドアップのレベッカの顔があった。きっと大量の酒を飲まされて寝た俺のことを心配していたのだろう。
「兄ちゃんたちやっと起きたの?そろそろ出発だから急いで用意しな」
俺は眠い目をこすりながら起き上がった。
あれ?泥酔して寝てたのか……。
「そうだ、あのクソ女はどこだ?いた!」
俺は顔が真っ青なクガの口に酒瓶を突っ込んだまま眠っている詩織を発見した。
クガ一晩中酒を飲まされていたのか普通は死ぬのに死んでないな、流石はユニークスキルノットダイ(死ねない)だ。とはいえ死ねないが故に苦しみが続くのか、チートスキルだけどチートスキルしてないな。
「あああああ!」
俺は倒れた。
二日酔いだ、頭がガンガンして視界はぐにゃぐにゃ。
レベッカは元気だな、詩織に何もされなかったのか。
「屑さん大丈夫ですか?」
「いや……、大丈夫じゃない。馬車出発するらしいから寝ているそこの二人と俺を馬車に乗せてくれ。」
クガと詩織を指差し、レベッカに指示した。
「分かりました。」
レベッカは俺達を馬車に乗せ馬車が出発した。
三時間ほどして詩織が目を覚ました。
「ふわぁーあ……、イタッ!二日酔いだわ。」
詩織は起き上がってすぐ額を抑えた。
バカめ、あれだけのお酒を考えもなしに飲むからだ。ざまあみろ、マヌケ!俺と同じ苦しみを味わいやがれ!
「コンディションリカバリー、ふう……、これで楽になったわ。」
詩織はスキルで二日酔いを覚ました。
そうだった、こいつ回復スキル使えないけど状態異常を治すスキルは使えたんだった。俺も助けてもらおう。
「詩織、俺の二日酔いも頼む。」
「嫌よ!自分のキャパも考えずにバカみたいにお酒飲んだだけでしょ自業自得よ!」
「ふざけ……、おえぇぇぇl!」
俺は馬車の揺れで気持ち悪くなり馬車の外に嘔吐した。
ふざけんなよ、クソ女が!お前に無理やり酒を飲まされたからなのに俺が自分で飲んだことにしやがって必ず後悔させてやる‼
「詩織さん違いますよ。」
「レベッカちゃんこんなやつ庇わなくていいのよ。護衛任務という仕事の最中に二日酔いになるくらいお酒を飲むバカなんて見捨てなさい。」
こいつっ‼いつかの復讐をもう待てないな……、今ここで復讐してやる!
「そうか……、そっちがその気ならくらえ!おえぇぇぇぇ‼」
と、俺は馬車の床に嘔吐した。
「あんたなにやってんのよ⁉ちゃんと外に向かってゲロ吐きなさいよ!」
フハハハ!ざまあみろ、この俺に喧嘩を売るからだ、このバカがよぉ‼さらにもう一発くらえ!
「おえぇぇl!」
俺はさらに嘔吐した。馬車の床はゲロまみれで足場が無くなった。詩織は寝ているクガの上に乗った。
「レベッカちゃんこっちよ!」
と、レベッカに手を伸ばした。
「えっ、でも……。」
レベッカはクガの上に乗ることを躊躇している。
詩織のやつうまいこと逃げやがって、どうすればあいつにゲロを吐きかけられるんだ?考えろ、考えろ。
「レベッカちゃんこっち来ないとゲロの上に立ち続けることになるわ、早くこっちに来て。」
「うう~、分かりました。」
レベッカも寝ているクガの上に乗った。
「あの詩織さん……、屑さんが二日酔いになっているのは昨晩抵抗する屑さんに詩織さんが無理やりお酒を口に流し込んだからですよ。」
「え?……あっ!……すいませんでした。」
「バカが謝っても遅いんだよ。俺が二日酔いから復活したら必ずお前に復讐してやる、それまで指をちゅぱちゅぱ加えて震えてろ。」
別に今のゲロ攻撃がダメでも二日酔いさえ覚めればスキルが使える、グフフフ、フハハハ!もう待ちきれないなぁ!
ドカーン‼突如として大きな音と地響きがした。
「なっ、なんだ⁉」
「うあああ!まっ、魔王軍だ!」
と、馬車の運転手はあたふたしている。
「魔王軍⁉どういうことだ、魔王は討伐されたって言ってたよな?」
もしかして魔王は実は生きていたパターンか?
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