第35話
「お前らー、準備できたかー?」
俺はレベッカと詩織に、屋敷の階段下から声をかけた。
カガクの国やはり転生者の国だよな。俺たち以外の転生者に会うのは初めてだ。
詩織とレベッカが二階から降りて来た。
「準備出来たわ」
「私もです。」
「和がまだ目を覚まさないな、置いて行くか」
「いやいや変態兄ちゃんがいくら何でも可哀そうやろ。」
「大丈夫だ。俺が面倒みるよ。」
キッチンの方からダズが出てきた。
「任せた。それじゃあ行くか」
俺達は気を失っている和をダズに任せ、屋敷を出発しギルドの馬車乗り場に向かった。
「どうされましたか?」
ギルトについてすぐ、受付嬢さんが対応してくれた。
「カガクの国行きの馬車の護衛任務を受けていた東条屑なんですけど」
そう、俺達はカガクの国に安く行くために馬車の護衛として行くことにした。危険といってもいざとなれば他の冒険者も戦闘に協力してくれるだろう、だからそいつらに戦わせて俺は安全なところから見守るつもりだ。
「はい東条屑さんたちの護衛する馬車はあちらです。あちらの先頭の馬車に乗ってください。ぜひ頑張ってきてください」
受付嬢は奥の豪華な馬車を指差した。
ほう、中々に良い馬車だな。ダンジョンで数十人もの命を救った優秀なパーティーということをギルド側も理解しているようだな。
俺達は少し高そうな馬車に乗り込もうとしたそのとき、
「屑さん違いますよ。もう一つ奥の馬車です。」
受付嬢さんがもう一つ奥の馬車を指差す。
「分かりましたー。」
返事をして奥の馬車に向かった。目の前の馬車見るからに古い。
え?クソオンボロなんだけど……。俺達がダンジョンで数十人の冒険者の命を救ったことを理解していないのか?あのギルドは。仕方ない活躍して俺達の凄さを理解させてやるか。
豪華な場所は諦めて、俺達は馬車に乗り込もうとした。
「あれ?お兄ちゃんたち護衛の人?」
御者のおじさんが声をかけてきた。
「はい。」
「三人しかいないけどあと一人は?」
「ちょっと体調崩しまして……。」
「そんなこと知らないよ。四人いないなら乗せられない、あと一人連れてきてよ」
はぁ⁉別に一人少ないくらい良いだろ、面倒くさいな。
「分かりました。お前らちょっと来い」
馬車から降り、詩織とレベッカを連れて馬車の後ろに回った。
「おい、どうする?気を失ってる和連れてきても意味無いよな」
「多分そうでしょうね」
「詩織が和をボコボコにどつき回したせいやで、詩織謝れや。」
ハムスターが言った。
「うるさいわね!あれは和が私たちの下着をクンカクンカしてたのが悪いんじゃない!」
「せやかて、あそこまでやる必要あったんか?自分が強いからって何でもかんでも暴力で解決しすぎやで。」
この生意気ハムスターもたまにはいいこと言うじゃないか。
「お黙りぃ!」
返す言葉を見つけられなかった詩織はハムスターを投げ飛ばした。
「ああー!詩織さんあんな小さな子になんてことを!」
レベッカは宙を舞うハムスターを追いかけて走った。
「でもどうする?あと一人。ダズでも連れて来る?」
「あいつはチンピラだから連れてきても断られそうなんだよな……。」
「それもそうよね」
おいおいふざけんなよ。変態が気を失っているから馬車に乗れずカガクの国に行けないのは困るのだがどうしたものか……。
「あっ!あれはクガさーん、ちょっとこっち来てもらえませんか?」
こちらに戻ってきたレベッカはギルド前にいるクガに声をかけた。
「え?クガを誘うの?」
詩織は不服そうに尋ねた。
「はい、もうクガさんしかいないですよ。」
「確かにそれもそうね。」
確かに仕方ないな、ここでクガを見逃すともう誰もいない。中二病で面倒くさいがしょうがないか。
呼びかけに応じたクガがこちらに向かって走ってきた。
「まさかここで再び運命の再会、やはり俺と貴様らはともにある運命」
クガは、早速顔を手に当てる中二病ポーズを取った。
初めからこのテンションやはり面倒くさいな……。
「カガクの国に行くんだけど座席一つ余ったから一緒に来るか?」
「それは運命の悪戯、四天王の一席を俺に任せようというわけか」
「それは来てくれるということか?」
「残念だが今日は我がアジトで深き永久の眠りにつく予定だから無理だ。」
「今のは来るフラグだったろ、バカ」
俺はクガの頭を軽く叩いた。
こいつは本当にこの流れで断るなよ、お約束というものを理解していないのか。
「痛い、この屈強な我にダメージを与えるとはやるな見込みがある。」
「ということは気が変わって来てくれるということか?」
「いや、我がアジトで深き永久の眠りにつく予定だから無理だ。」
「今のも来るフラグだったろ、バカ。もういいスリープ」
俺は杖をクガに向け、睡眠魔法で眠らせた。
「もうこれでいいでしょ」
「え?無理やり連れて行くのですか?」
「うん、合意してくれなかったから」
そもそもこいつの意見なんか聞かずに初めから眠らせてしまえば良かったのだ。
「おっちゃんこれで四人だからいいか?」
「おう、よし乗れ、すぐ出るぞ」
俺達は馬車に乗り込み座った。
ようやくカガクの国に移動できる。移動までに時間を浪費しすぎたな。モンスターが出てこなければいいんだが、まあ他の冒険者に戦わせるから関係ないか。
そこから二時間俺達は馬車に揺られた。
「後ろに鳥の大群が見えるな」
「それはきっとオーバードだね、国境すら超えるほどの移動をする渡り鳥だよ」
へー国境すら超える大移動かとんでもない鳥がいるものだな。たくさん飛んでいるし美味いのかな?撃ち落としたいな。
「違う!あっ、あれは盗賊ワシだ。金目の物を盗むワシだよ。きっと後ろの馬車に宝石類でも積まれているんだ。兄ちゃんたち討伐頼むよ」
後方を確認した御者のおじさんは大きな声で言った。
動物が盗賊ってどういうこと何だよ、こっちには喋るのもいるし本当に何なんだよ。このままモンスターが出ることなく今日が終わるかと思ったのに……、まあ別の冒険者に任せればいいか。
「他の馬車に乗っている冒険者に応援要請お願いします。」
「いないよ」
御者のおじさんは手を振って答えた。
「え?馬車がこれだけ列になっているのに他の冒険者いないんですか?」
「そう一人もいないよ。」
ハァァ⁉何でこれだけ馬車があって他に冒険者の一人もいないのかよ。自分で戦うつもり微塵も無かったのに。
「頼むよ、兄ちゃん達。」
「あれ?盗賊ワシこの馬車に向かってきてないか?」
「もしかしたら私の装飾品に引き寄せられている可能性が有ります。」
レベッカはモジモジと申し訳なさそうに言った。
「え?」
「私の装飾品は純金でできているものなどがあってとても高価なのです。捨てますね、捨てればきっと盗賊ワシはこちらを狙ってきません。」
レベッカは説明しつつ、急いでネックレスやブレスレットなどの装飾品を外し始めた。
「待て、それを捨ててもペンダントは捨てられないだろ、だったら意味無いから捨てなくていいよというか捨てるな」
俺はレベッカの腕を掴んで止めた。
「それもそうですね、分かりました。」
と、レベッカは外した装飾品を再度付け直した。
危ない、危ない、そんなに高いもの捨てたら勿体ない。金は俺以外の人間の命より重い、後で売ってやろう。
「屑は頭ええんやな。正直見直したで」
ハムスターに頭良くないと思われてたのか、心外だいくら何でもハムスターよりは人間様の俺の方が頭良いに決まってるだろ。
「でもらーどうするのろ屑ー?」
何故か詩織はお酒の一升瓶をガブ飲みしていた。
こいつ!この中で一番強いのは詩織なのに何酔っぱらってんだよ、バカ!
「チッ!このバカは役に立ちそうにないな。」
「ギュアース!ギュアース!」
「やばい、やばい盗賊ワシの雄叫びが聞こえたってもう近いって、考えろ、俺考えろ!」
どうする?どうしたら盗賊ワシを対処できるんだ?フレアじゃ無理だしテレポートで逃げようにも馬車が大きすぎて俺の魔力じゃ無理だ……ということは俺だけなら逃げれるってことか。
「屑さん私に任せてください、とっておきのスキルを覚えたんです。」
「そうなのかじゃあ頼んだぞ。」
レベッカは馬車の後ろに立った。
何も思いつかなかったし、何やら自身ありそうだから良いか。しかしとっておきのスキルってなんだ?
「いきますよ、屑さん詩織さん見ていてくださいね。フラッシュ!」
と、右手を前にかざした。レベッカの右手の手の平は目が痛くなるほどの眩い光を放った。
「ぐああぁぁl‼」
俺と詩織は目を覆って床を転げ回る。
イッテー!よく見てくださいからのフラッシュって嫌がらせかよ、目が痛くて目が開けられねぇ。
ヒヒーンという馬の鳴き声がした。
「屑さん詩織さん見てください。盗賊ワシたちが光で目がくらんで仲間同士ぶつかってバタバタと落ちていっていますよ。」
こちらを振り向きようやく俺達の状態に気づいた。
見えねぇよ!
「大丈夫ですか⁉二人とも何があったのですか⁉」
レベッカは急いでこちらに駆け寄った。
「見てくださいって言われたから見てたのにフラッシュで目が痛いんだ……」
ズシーン!俺の言葉を遮るように大きな物音がした。
「あ……。」
レベッカの口から声が漏れた。
?……、何だ?何が起こったんだ?盗賊ワシの攻撃か?まだ目が痛くて開けられない。
「レベッカ一体何が起こってるんだ?」
「え、あ、いや何も起こって無いです。」
絶対何も起こってないときの反応じゃないだろ。何だ?一体何が起こっているんだ?
俺はようやく薄くだが目を開けた。その目に映った光景は、馬車が倒れ、あたりに荷台の荷物が散乱していた。
「はぁ⁉俺が倒れていたあの数分に何があった⁉」
まさか……、さっきの大きな物音は馬車が倒れた音だったのか? 待てよ、さっき馬の鳴き声がしてな……、ハッ!これ全部フラッシュで馬達が驚いてこうなったのか!
「もしかしたら何ですけど、私のフラッシュでお馬さんたちがビックリしたのかもしれません……。」
レベッカは申し訳無さそうに、消えるようなか細い声で言った。
「もしかしたらって絶対そうだろ、このバカ!」
と、俺はレベッカの額をチョップした。
「イテッ!すいませんでした。」
小さな両手は額を覆った。
ダメだ、詩織と関わり過ぎてレベッカもダメ人間になっている。少し前までは潔く自分のミスを認められていたのに認められないようになっている、このままだと詩織二号になってしまう何としても止めなければ。
「兄ちゃん達これ兄ちゃん達のせいだろ!壊れたものは弁償してもらうからね!」
御者は起き上がり、俺たちを怒鳴りつけた。
「はい……、すいません。」
はぁー、ギラを稼ぎつつカガクの国に向かおうと思っていたのにお金を支払わなければいけなくなるなんて最悪だ……。まだ明日も護衛しないといけないのに、明日は何もありませんように。
俺は心の中で強く願った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます