第32話

「ただいま帰りましたー。」

 レベッカが屋敷に帰ってきた。


 まさかあのクソハムスターもう見つけたのか?


「おいワレェ‼さっきはよくもやってくれたの‼あともう少しで名前通り星になるところやったやんけ‼」

 ハムスターは戻って早々ガチギレしているようだ。


 一体何をそんなに怒っているのか脳の小さなハムスターの考えることは分からないな。


「では私はハムちゃんのご飯を買ってくるのでハムちゃんにひどいことしないで下さいよ。」

 レベッカは忙しそうに屋敷を出て行った。


 流石の俺も二度もあんなことはしない、レベッカの中で俺は一体どんな人間なのか問いたださねば……。


「ハァー、全くやで急に投げられてびっくりしたわ。」

 不貞腐れたようにハムスターは言った。


 こいつ相変わらず口の減らないハムスターだな。


「おい、自分謝られへんのか?あっとすまへん、自分の耳は飾りやったな。ジェスチャーで教えたらな分からへんよな」

 俺に向けられたハムスターの手はグッドサインを取り、そしてひっくり返した。


「飛んでけー!」

「またかよぉぉぉぉ!」

 俺はハムスターを窓から天高く投げ飛ばした。


 さきほど『流石の俺も二度もあんなことはしない』と思ってたが人間の考えは移り変わるものだ。


 それにしてもあのハムスターは何なんだ?滅茶苦茶性格悪いな……。


 そこから快適な時間が五分ほど続いた。


「屑さん何てことしてくれたのですか?」

 レベッカはハムスターを連れて帰って来るや否や俺を問いただした。


 全くあのハムスターは全て話したのだろうか?全て話していたなら俺がこれほどまで責められるのはおかしい……。


「これには訳があってだな、ハムスターが俺に死ねってやったんだよ」


「和さんそれは本当なのですか?」

「え?知らない。」

 アホ面で首を振って答えた。


 嘘だろ!?こいつ裏切りやがって。


「屑さん嘘つかないで下さいよ、もういいです。和さんこのハムちゃん預かってください。」

 レベッカはハムスターを和に預け、再び屋敷の外に行った。


 信じられない俺より和の方が信用してるなんて……、やはりレベッカを今度問いたださなければ。


「まさか同じ人間に二度も投げられるなんて思わへんかったで自分やってることほんまえげつないな

ぁ」

 ハムスターは薄汚い笑みを浮かべて、懲りずに再び俺を煽ってきた。


 もうこいつの口車に乗って投げる訳にはいかない。和より信用されてないのは嫌だ。


「チッ、無視かいおもんないな。」

「そう屑を煽るなよ」

「おお、兄ちゃん優しいな、とても変態とは思えへんで」


 俺も言えた側ではないが和は確かに変態だ。しかし何故であったばかりのこのハムスターがそのことを知ってるんだ?


「何で知ってるんやって顔やな、兄ちゃん。ワイは鼻が利くねん。兄ちゃんの顔や手からプンプン匂うで~、レベッカとそこの嬢ちゃんの下着の匂いが。」

「黙れー‼」

「お前もかぁぁぁぁ!」

 和は証拠隠滅のために屋敷の外にハムスターを投げ飛ばした。


 この屋敷の中でそんなことしたらどうなるか分かってるのだろうか?詩織に聞かれてたら終わりだぞ……。


「和ぅ?今のどういうこと?」

 詩織に聞かれていた、怒った詩織が何をするかそんなものは容易に想像できるのに、馬鹿な奴め。


「あっ……、あのハムスターがでたらめを言っただけだ。俺は何もしてない。」

 和の震える唇は苦し紛れの嘘を言った。


「そう?まあ、あのハムスターが帰巣本能で戻ってきたらちゃんと話しましょうか?」


 おや?普段の詩織ならあのハムスターの発言が事実か事実ではないかに関わらず殴っているところな

のにどういう風の吹き回しだ?


 数分の間、居間に緊張感が走った。


「和さん!和さんまで酷いことしましたね?」

 レベッカが再びハムスター掌に乗せて帰ってきた。


 くくく、これから楽しそうなものが見れるな……、さっき俺を裏切ったことを公開させてやる。


「ちがっ……、そいつが口から出まかせを言うから。」


「何言うとんや、お前の手や顔からべっとり染みついたレベッカとそこの嬢ちゃんの下着の匂いがしてんねん。和昨日今日の間にちょっと触ったとかじゃないやろ、毎日被ったり、噛んだりやってるやろ。」


「屑さんそれは本当なのですか?」


 俺は和とは違って正直者なのだ、嘘などつかない。


「ああ、やってた。俺がやめろと注意した時は俺を殴ってきてそれで、それで怖くて言えなかったんだ。」


「和さん最低ですよ。私のだけでなく幼馴染の詩織さんのまでこの変態!」

 レベッカは顔を赤くて言った。


「と、言う訳らしいけど言いたいことはある?」

 詩織は殺気を纏い、一歩一歩和に歩み寄る。静かな居間に、ギシ……ギシ……と床の軋む音が駆け巡った。


「違うんだ待グハッ」

 詩織は和の話を最後まで聞くことなく殴った。和の体は後ろの壁まで吹き飛び大きな音を立ててぶつかった。


「あんたの指を織り込んでマフラーを作ってあげるわ。プラスステータス」

 詩織は自分自身に全能力上昇のバフ魔法を掛けた。


「あ……あぁ……。」

 和は口を恐怖で言葉を失い全身をガクガクと震わせて後退りしようとした、しかし既に背が壁についていてこれ以上後ろに下がれなかった。


「グハッ」

 詩織は僅か二秒間に数十発殴り、和の体が波打った。


 今詩織の拳が早すぎて残像が残ってたんだけど、やはり詩織にだけは喧嘩売らないようにしよう。


「ゴフッ‼」

 和は体全体から小川のように流血している。


 え?人間ってあんなに失血してもいいもの何だっけ?こんなので人殺しになるのは嫌なんだけど?


「レベッカちゃんあんなの信用しちゃだめよ、私を一番に信用するといいわ。」


 こいつまさか……、さっき自分ではなく和にハムスターを預けたから信用されたいがために、その場は見逃してレベッカが帰ってくるのを待ってたのか。


「全くしゃあないな、これ使え」

 ハムスターは頬袋からピーナッツ程度の大きさの小瓶を出した。


 うっわ、汚ねぇ……。


「それはなんだ?」

「え?屑さん超回復薬を知らないのですか?」

「超回復薬?」

「どれだけ重症の人間でもたった一瓶分掛けるだけで元気になるという高級な回復薬ですよ。」


 ほぅ……、ということは回復魔法の使える僧侶がいないこのパーティーでも回復できるのか。


 レベッカは小瓶の蓋を開け和に超回復薬を掛けようとした。


「待って」

「え?どうしてですか?」

 詩織の一言で、レベッカはすんでのところで止まった。


 詩織の奴一体どうしたんだ?


「そんな高級品なら変態に使うのは勿体ないわ」


 そういうことか!


「その通りだ。その変態には自然治癒で頑張ってもらおう。」

「何言うてんねん、仲間のピンチなんやで?」


「そうですよ。」

 レベッカは、俺達の制止を無視して超回復薬を和に掛けた。


「ああー!勿体無い。」

 俺と詩織は同時にその言葉を口にした。


「んな⁉本気で言っとたんかい……。」

 ハムスターは俺達の発言にドン引きだ。


「これで一安心ですね。」


「安心したなら私が胸を撫でおろしてあげる」

 気持ち悪い発言とともに、詩織はレベッカに近寄った。


「ほんまにこの家の人間はどうなっとんねん、この家で一番やばいのはそこの変態兄ちゃんかと思ったら、お前が一番やばいやんけ」


 おいおい嘘だろ、和が瀕死になったのを見てあのハムスターも詩織に喧嘩を売るのかよ……。


「どういうこと?」

 詩織は紅く、そして鋭い眼差しでハムスターを睨みつけ、普段より低い声で言った。


「仲間を瀕死にしたあげく助けへん、嫌がるレベッカにセクハラ、借金がある中十五億の飲酒、お前ほ

んま最低やな。」


「そぉーれ!」

「なんでやぁぁぁ!」

 詩織はハムスターを窓から投げた。


 『なんでやぁぁぁ!』って分かってだろ。


「ああー!詩織さんまで!」

 レベッカは走ってハムスターを探しに行った。


 数分後レベッカはハムスターを肩に乗せ帰ってきた。


「レベッカ話し合ったんだがそのハムスター元の飼い主に返そう」


 このハムスターが口を開いたとき、さっきみたいに和の秘密をばらすだけなら問題ないが俺の秘密までばらされるわけにはいかない。


「そうですか……、分かりました。」


「ちょい待ち、ワイにはちゃんとした名前があるんやハムスター、ハムスター言うのはやめや」


「どんな名前なんだ?」


 ハムスターの名前どうせ‟おもち„とか‟だいふく„だろ。


「ワイの名前は‟ああああ„や」


「あははははwww小学生がゲームでどうでもいいキャラに付ける名前じゃんwww」


「本当よ、それよく人のこと馬鹿に出来たわねwww」


「なっ⁉ワイだって薄々適当につけられたことは分かってんねん。」


 待てよ……、でもそういう名前を付けるってことはこいつの元の飼い主は日本人?


「おいああああお前どこから来たんだ?」


「ワイか?ワイは闇魔法でお馴染みのカガクの国からや。」


 カガク?化学か?ついに俺達と同じ転生者に会えるのか。長かったモテると思って魔王討伐の異世界

転生したのに魔王討伐されてたという同じ悲しみを背負うものと出会える。

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