第31話

「オラァ‼どこだ‼借金払う奴はよぉ‼」


 カジノに現れたニーナさんは既に憤慨している。


 怖い、何がこの人をいつも怒らせているのだろうか……。


「ニーナさん、あそこにいるおじさんが四十億ギラを支払います。」


 と、俺はオーナーをビシッと指差した。


 くくく、ざまあみろ、さんざん人を煽るからこうなるのだ。


「待ってくださいません?私四十億ギラなんて払えませんわ。」


 と、オーナーは怒れるニーナさんの右足にしがみつき頼み込んだが、ニーナさんは怒りのままに右足


を振り上げた。ビタンッ‼と大きな音を立ててオーナーは天井に叩きつけられた。


「ガハッ‼」


 ドスン‼と音を立ててオーナーは天井から落ちた。


「おいっ‼クソジジイ‼賠償金は払えんのかぁ⁉」

 と、ニーナさんは横たわっているオーナーの髪の毛を掴み上に引っ張りあげた。


 今のニーナさんは俺達に待たされてブチギレているのが一目で分かるほどに殺気立っている。


「払……えませ……んわ。私そ……のような……大金持っ……てなくって……よ」


「持ってないなら、働け‼毎月の給料全て寄越せ‼」


「それで……は……死ん……でしま……いますわ。」


 オーナーは最後のチラを振り絞り、薄れゆく意識の中で答えた。


 この人もタフだな……。


「ならば……‼、死ねっ‼」

 ニーナさんはオーナーに馬乗りになり一心不乱に殴った。まさに狂気だ。


 こんな場所にいたらニーナさんの共犯だと思われそうだ、早いところここから立ち去ろう……。


「という訳で僕達借金完済したということで帰りますね。」

 俺達は一言ことわり、その場を離れ始めた。


「好きにしろ、今は取り立てで忙しいから話しかけてくるな」

 ニーナさんは楽しそうにオーナーを殴り続けた。何がこの人をここまで駆り立てるのだろうか?


 あの人は審問官よりヤクザや借金取りのほうが向いてるんじゃないのか……?


 とはいえ遂にバカみたいな金額の借金が無くなった。これからは自由だ。


「これで借金は無くなったな、屑」


「今日は飲んで飲んで飲みまくるわよ‼」


「ダメだ、借金が無くなっただけで金は無いんだぞ」


 全くこいつは何を考えているんだ。そもそも酒はカジノで浴びるほど飲んでいただろ。依存症って怖

いな……。


 そんなことを考えながらに十分ほど歩いていると屋敷に着いた。


「ただいまー」


「ダズ帰ったわよー、お酒とおつまみ用意してー」


 こいつ……、さっきダメだと言ったばかりなのにこいつは人の話も聞けないのか。


「だから、金が無いんだから節約しろ、バカ!」


 と、俺は詩織の額をチョップした。詩織は痛そうに両手で額を覆った。


「おー、お前らお帰り。どうだった借金はどれくらい減ったんだ?」


 エプロン姿のダズが玄関にまで出迎えに来てくれた。


「完済したよ」


「完済⁉」


 ダズはポカーンと口を開け固まった。


 それもそうか普通一日ギャンブルした程度で四十億ギラなんて稼げないもんな。


 固まったダズを横目に俺は靴を脱いで屋敷に上がった。


「あれ?レベッカちゃんは?」


 詩織がキョロキョロして言った。


 確かにいつの間にかいなくなってたな。どこ行ったんだろうか?


「あははは、面白いです。」


 外からレベッカの話声がした。


 なんだ、友達と出会って話してたから遅かったのか。


 あまりにも世間知らずだからてっきりボッチなのかと思ってた。


「ただいま帰りましたー」


「あー、お帰りー……?一人?」


 俺は困惑しながら質問した。


「はい一人ですけど」


 まじかぁ、この子いよいよボッチ極めて一人で会話を成立させて笑ってたのか……。


 今度俺達みたいな卑怯な考え方じゃなくて友達の作り方を教えてあげよう、可哀そうで見てられない。


 俺は涙を流し憐みの眼差しをレベッカに向けた。


「ちょっと何故泣くのですか?」


 と、レベッカはあたふたしながら俺に質問した。


「だってさっき一人で話してたんだろ?友達いないから……」


「ちが……。」


「もしかしたらと思ってたら本当だったのか」


 と、和も涙を流し憐みの感情を向けた。


「だから……。」


「レベッカちゃん大丈夫強がらなくて大丈夫よ、詩織お姉ちゃんがお姉ちゃん兼婚約者兼無二の親友に

なってあげるわ」


「だから違いますよ。私はこのハムちゃんと話していたのです。」

 レベッカは掌にちょこんと乗ったハムスターを見せてくれた。


 もっと可哀そうになった。話し相手がいないからハムスターだなんて……。


 俺は別に動物に話しかける人を馬鹿にしているわけではない。動物に話しかける人が一定数いるのは

俺も知っているし、それは感情豊か道徳的でとてもいいと思う。しかし、今俺が憐れんでいるのは十七歳にもなってボッチで話し相手がいないから、動物と友達のように話しかけるレベッカだ。


 酷なことだが現実を教えてあげよう。


「ハムスターは喋れないから喋りたいなら人間の友達作ろうか」

 と、肩をポンポンと叩いた。


「違いますよ、友達いないからハムスターに話しかけていた訳ではありません。このハムちゃんは喋れるのです。」


「可哀そうに……、ボッチ極めると幻聴が聞こえるようになるのか……。」

 和はあまりに可愛そうなレベッカと目を合わせることさえ避けていた。


「レベッカちゃん話したいならもっと話しかけてくれてもいいのよ、別に毎晩の夜通しの会話詩織お姉ちゃん嬉しいからね。」

 詩織は手を胸に当てて言った。


「わーー‼」

 レベッカは詩織の言ったことを大声で誤魔化そうとした。


 話し相手居ないからってセクハラしてくる相手と毎晩夜通し話してた……、取り返しがつかなくなる前にもっと話しかけてあげよう。


「さっきから君らなんやねん、レベッカの話も聞かずに一方的に憶測で話進めて、ほんま何考えとん

の?」

 聞き慣れない声はレベッカの掌の上からした。


「今……喋ってた?」

 俺はハムスターが喋るなどという非現実的なことに驚きが隠せなかった。


 魔法がある世界で俺基準の現実的という価値観はおかしいがダズも驚いてるのでこの世界でもおかしなことらしい。


「どう考えても喋ってたやろ、ワレの顔に着いとる耳は飾りなんかボケ‼それともそのちっこい頭じゃ理解できへんか?」


 なんだこいつ?随分と生意気だな……。


「フン‼」

「なぁぁぁふざけんなボケェェェ‼」

 俺はハムスターを掴み扉を開けて外に全力で投げ飛ばした。ハムスターは凄い勢いで飛んでいきすぐに見えなくなった。


「達者でな!」

 俺は戻ってくるなと言わんばかりに、バタン!と力強く扉を閉めた。


 ははは馬鹿め‼人間様に勝てる訳無いのに調子に乗るからこうなるんだよ‼

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