第24話

「そういえばさっきのニーナさんすごかったな、五分ぐらい俺と和にボコボコにされてたのに元気でクガを蹴ってたもんな。」


「あー、レベル差ですね」

 レベッカは人差し指を立てて、教えてくれた。


「レベル差?」

 俺は眉間に皴をくっきりと寄せて問い返した。


 レベル差?この世界にレベルっていう概念があったのか……。


「はい。屑さんたちは八~十レベル程度ですが、ニーナさんは王都直属の審問官当然レベルは高く七十二レベルです。」


「な……七十二レベ⁉そんな高レベルなのに初心者冒険者の俺と屑をボコボコに殴ってきたのかよ」

 俺は驚きで一度言葉が詰まった。


 やはりあの人は審問官に向いてないのでは?冒険者になればいいのに……。


 そうしているうちに俺達はダンジョンに着いた。


「マップによるとここの下にお宝がある。」


「早速発掘するか……。」

 和はその場にしゃがみ込み、瓦礫を退け始めた。和は、退けた瓦礫の隙間からギョロリとこちらを睨む目玉が見え、驚いて飛び上がった。


 もしかして……。


「貴様等ヨクモ我ヲ生キ埋メニシヨッタナ!」

 瓦礫の下から聞き覚えのある声が、沸き上がってきた。


「やっぱり生きてたかぁ……。ここから離れようか」

 そして俺達は、Uターンして歩き出した。


 ここに来る前も考えていたし、マップスキルに映っていたが、もしかしてと期待してたけどやっぱり生きてたかぁー……。面倒くさいな、死んどけバカ!


「現状成長していない私達に悪魔を討伐は出来ないと思いますが、屑さんどうするのですか?」

 レベッカは二本指で作ったL字を顎に当て、首を傾げて不安そうに質問してきた。


「討伐する。ここで悪魔を討伐しないことには財宝は手に入らない。つまりはギャンブルで一括返済作戦も失敗になってしまうからな」


「そうなればあのアル中イカレ女に文句を言われてしまう。」

 和は詩織に馬鹿にされるのは絶対に嫌なのだ。


「ではどうやって討伐しますか?」

「こいつでだ」

 俺は手に持っていた袋から大量のダイナマイトをドサッと地面に出した。


「またダイナマイトですか……」

 レベッカはとても不安そうに言った。


「ああ、これしかダメージを与える手段が無さそうだからな」

「詩織さん連れてくれば簡単に討伐出来る気がしますけど」

「あいつは戦わないよ、危険が嫌だから」

「それもそうですね。」

 レベッカは苦笑いで答えた。


 あいつ、いよいよレベッカにも見放されたな。


 俺達は悪魔から離れた場所で足を止め振り返った。


「くらえ!四十億ギラの恨み‼」

 俺は、記念すべき一投目のダイナマイトを悪魔が埋もれていた辺りに投げた。ダイナマイトは地面に落ちると強烈な爆発音をたて、音を追いかけるように爆風に乗った小さな瓦礫が当たって少し痛い。


「グギィァァ!……貴様等正々堂々戦エ!卑怯ダゾ」

 瓦礫の下から悪魔は必死に俺達に訴えかけてきた。


 フハハハハ!散々俺をバカにしてくれた仕返しだ、このバカがよぉ‼ 


「正々堂々戦ったら勝てるからそう言ってるだけだろ」

 と、和もダイナマイトを投げた。またしても強い爆破音の後を追いかけるように爆風に乗った小さな瓦礫が当たって少し痛い。俺と和でわんこそば感覚でダイナマイトを“はい、どんどん”と投げた。ダイナマイトを十五本位投げたあたりで悪魔の声がしなくなった。


「やっと、くたばったか……」

「それにしてもこれではどっちが悪魔か分かりませんね。」

「うっ……」


 悪魔と変わらないと言われると少しは心に来るものがあるな。


「これでようやく財宝が……」

「待て、和」

 俺は財宝を取りに悪魔がいた方に歩こうとした和を止めた。


「なんでだ?」

 和はこっちを振り向き尋ねた。


「相手は悪魔だぞ、死んだふりかもしれない。跡形もなくなるまで爆破しよう」

「ハッ……、確かに」

 それから俺達は再びダイナマイトを投げた。十~十五本のダイナマイト投げ悪魔のいた所は更地と化していた。


 あのクソバカ悪魔め、ざまあみろ!


「これでようやく財宝ゲットだか……」

 俺達は更地となった場所を掘り始めた。


「そういえばレベッカカジノではスキルが使えないってどうしてなんだ?」

 俺はレベッカにずっと疑問に感じていたことを質問した。


「それはですね。スキルによるイカサマ対策としてスキルアウトが置いてあるからですよ。」

「スキルアウト?」

「はい、スキルは魔力を消費して使うものです。スキルを使うには魔力消費するものです。そしてフレアのような体外に出すスキルを使う際には大気中の魔力も使うので、大気中の魔力が無いカジノではスキルが使えないのですよ。」


「でも心を読むテレパシーは体外に出すものではないのに使えないのは何でだ?」

「それは大気の魔力を通じて相手に触れ相手の魔力から心を読むからです。逆に相手に直接触れていれば、大気中の魔力を介さないので使えます。」

「へー」

 そして俺は腕を組み、頭の中でいくつもの可能性を生み出し、その可能性を潰していった。


 そうこうしている内に俺達は財宝を全て発掘し終えた。


「凄い、これだけあればギャンブルしなくても借金完済できますよ。」

「まじで⁉」

 レベッカの発言で、俺の心は衝撃に襲われ、はっと顔を上げた。


 まじか⁉ラッキー、お釣りで夜の街を豪遊しよう。


「解除」

 小さな声で和が呟いた。


 目の前の財宝の山は突如として小さくなり、五分の一程度になった。


「あれ……?」

 俺は愕然としてその場に立ち尽くした。


 どうしてだ?俺の金が……、夜の街で豪遊するための金が……。


「ごめん屑、レベッカ、さっき見てたのは幻だ。」

「和のスキルか?」

「ああ、幻を見せる魔法ヴィジョンだ。少しでも希望を持ちたくてやったんだ、許してくれ」

 和は俺達と目を合わせられず、俯いて答えた。


「仕方ない、四十億ギラの借金だ。自暴自棄になってもおかしくない金額だ。」

「私も大丈夫ですよ。」


 和はここまで追い込まれてたのか、まずいな暴走しなければいいが。


「帰るか」

 俺達は財宝を荷車に乗せダンジョン跡地を背にして、街に帰った。

 街に着いた俺達は買取屋に立ち寄った。


「いらっしゃい四十億の男。」

 気さくそうな三十台前後の男が、俺に声をかけた。


「げっ……!もう四十億の借金の噂広がってるのか……」

 俺は両手で頭を抱えて呟いた。


 借金を背負ったのは昨日だぞ、というかなんで俺だけが借金背負ってるみたいになってんだ。


 俺は『ハァー』と、大きく嘆息を吐いた。

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