第22話
「あのもう帰っていただいて結構です。」
ニーナさんは、審問所の出口を手で指し、霞むような小さな声で言った。
こんなに意気消沈している女性ですが先ほどまで質問の数より多く俺の顔を殴ってきたイカレ暴力女です。
「おいー俺と和は散々殴られたおかげでー、ダメージが溜って歩くの辛いんだけどー⁉どうするのー⁉君の上司に言っちゃうよ?」
俺はさっきの仕返しをする。
「分かりました。転送魔法にてお屋敷に転送させていただきます。」
あーー‼気持ちいい‼さっきまでのでかい態度からこのしょんぼり態度最高だぁー‼次は何を要求してやろうか。
「ではアポート」
ニーナさんのその言葉に合わせ、俺たち足元には魔法陣が浮かび上がった、次の瞬間には俺たちは眩い光に包まれ光が消えるとそこに俺たち姿はなかった。
俺達は屋敷前に転送された。
もっともっといちゃもんつけてやろうと思ってたのに……、もういい次会ったら殴ろう。
「それじゃあ帰るか」
「ああ」
和の返事で俺達はとぼとぼと屋敷の中に入った。
定番の流れだとあれがそろそろ来るはずだけど……。
「差し押さえに来るのかなぁ」
「差し押さえ⁉冗談じゃないわよ。せっかく手に入れた念願のマイホームなのよ。絶対に手放さないわよ。」
こいつ差し押さえのこと考えてなかったのか、四十億ギラの借金を一般人四人に払える訳ないのだから、少しでも回収しようとして来るだろ。これぐらい分かるだろ、バカ。
「家は大丈夫だ。権利書は俺が持ってるが権利者登録をしてないから形式だけならこの家はダズの所有物のままだ。」
そう俺はこの問題児二人と一緒に冒険をする以上所持品の持ち主はダズにしておいたのだ。
「良かった。でも屑、俺達はどうやって四十億ギラも返済するんだ?まさか冒険者業でちまちま稼ぐのか?」
「さすがに違うな」
そう違う。だがこの作戦は危険だ……。
「まず俺達の借金四十億ギラ。これはダンジョンの歴史的価値と推定財宝額からだろうからダンジョンに戻って財宝を回収する。そうすればだいぶ返済できる」
「それでも残りの借金返せる訳ないでしょ?屑残りはどうするのよ」
何で俺だけで返すみたいになってるんだ?とはいえ詩織の言う通りだ。残りの借金も絶対億越えだ。はぁー自己破産とかできないのかな……。
「そんなことより俺達打ち首となるんじゃないか?だってダンジョン壊すって歴史遺産壊すようなものだろ?なあ俺達また死ぬのかな?今度こそ地獄行き?」
和は頭を抱えてクネクネした。
「言うなよ!考えないようにしてたんだから!うわー、俺も死にたくねえ!」
俺も頭を抱えクネクネした。
「え⁉死ぬの⁉私も打ち首⁉壊す決断したのは屑なのに⁉」
と、自身を指差して驚いた。
「ふざけんじゃねえ!俺が壊さなきゃ今ここに俺達はいないだろ!」
信じられんこいつ俺を殺したことあるくせに俺が助けてやったから今生きてるのに、ちょっと自分に被害が出たらこの態度か!
「あのー皆さんが打ち首になることは無いと思いますよ。ニーナさんが言ってたじゃないですか処遇は賠償金のみと。」
そうだったのか、正直言って四十億ギラの賠償金って聞いてからは話が入ってこなかったから知らなかった。
「それより賠償金をどうやって支払うのですか?」
「ああ、ダンジョンに戻って財宝を持ち帰る。それをカジノで数倍以上にする。」
「ギャンブルなら任せろ!」
和がグッドサインと共に食い気味に言った。
さすがギャンカス食いつきが早いな。だが実際こいつ便りの作戦だ。
「そして詩織、お前はカジノで働いて良い感じのギャンブル見つけて来い」
「分かったわ」
と、詩織はグッドサインをした。
よしこれで賠償金四十億ギラはギャンブルで返せるぞ。
「じゃあ俺達はダンジョンに行ってくるから」
そして俺達は屋敷を後にした。ダンジョンに連れて行っても役立たずな詩織を別で働かせ、有能な人材のみでダンジョンに向かった。
屋敷を出て、十分ほど歩くと俺達の前に一人の男が立ちふさがった。
「ふふふ、これも運命の導きさあ行動を共にしよう。」
クガは壁に寄りかかり、おなじみの顔に手を当てる厨二病ポーズで俺たちを待っていた。
なんでここにクガがいるんだよ、面倒くさい。適当に話しかけて満足させて、どこかに行ってもらおう。
「何で風が吹いてないのに、腕に巻いてる包帯がヒラヒラしてるんだ?」
「これは俺の魔法で靡かせているのだ。無風の時でもかっこよくするために」
一度鼻で笑って答えた。
しょうもない魔法の使い方するんだな、というかこいつを振り切らないと俺達の財宝が減ってしまう。
「それより俺達これから用事だから」
と、片手で謝り、クガの前を通り過ぎた。
ふぅー、何とかなった。これでお宝は全部俺たちのものだ。
「それならこの我が手を貸してやろう。」
壁を足裏で強く蹴り、体勢を起こして言った。
用事だっつてんだろ、どっか行け!
俺たちの前に女性が現れた。ニーナさんだ。
「おい!貴様ら賠償金だが審問所が金を貸していることになっている。金利は年五十%だ!死ぬまで働いて……グ!」
「男女平等パーンチ!」
俺はニーナの話を遮り、左頬を殴った。
「おいお前さっきはよくも理不尽な暴力をしてくれたなぁ!お前自分が女だからって男の俺にやり返されないと思ってたのか、残念だったな、俺は真の多様性理解者だ‼女、男、女児、男児、俺にそんなものは関係ない、全て等しく人間だ!」
「その通りだ屑、俺達は真の多様性理解者理不尽な暴力への仕返しには女も男にも暴力で返す!俺達の考えを認めないならそれは差別だ!」
そうして俺と和はその場に立ち尽くすニーナさんに殴りかかった。
「な、何というクズっぷりだ、これが多様性社会が生み出した化け物か」
と、クガはドン引きしてい言った。レベッカは俺達の発言に頭が追い付かず、目をグルグルと回し混乱している。
「あ……れ?」
俺の顔は徐々に絶望に染まっていった。
今俺は何を殴っているんだ?どれだけ殴ってもニーナさんの体はピクリとも動かない。
そしていよいよ、俺達の拳が無意味であることを察した俺と和は、拳を止めた。
「……終わりか?なら、貴様らは公務執行妨害で逮捕だ!」
と、ニーナさんは首を『ゴキン!』と鳴らして言った。
「いや、まだだ」
俺は再び殴りかかったが、しかしクガが俺の前に飛び出してきた。
「おいやめろ、可哀そうだろ」
クガが言った。その言葉に俺は耳を疑った。
こいつまともなこと言えたんだ。そうだ、こいつを利用しよう。
「ああー⁉うるせえな!お前悪魔の生まれ変わりだったな。その悪魔のせいで今俺達は四十億ギラの借金負ってるんだぞ。」
「おまけに違法レベルの金利年五十%だぞ!」
と、俺と和はクガを袋叩きにした。クガはすぐにその場に蹲った。
「そうか、お前のせいでこいつらが借金を負い結果として、この私が面倒くさい事務作業に追われているのか‼」
と、ニーナさんも地面に蹲るクガを蹴った。ニーナさんは随分と楽しそうに蹴っている。
怒りの対象をクガに変えれてよかった。でもこの人やっぱり審問官向いて無いんじゃないか?
「ふー、すっきりした。ニーナさん連絡ありがとう先ほどは殴ってしまい申し訳ない」
俺達はは一時間ほどクガを蹴り続けていたのだ。
「気にしないでくれではご機嫌用」
と、ニーナさんは爽やかな笑顔で答えた。
「あの、クガさん元気ですか?大丈夫ですか?」
レベッカは急いでクガに駆け寄って声をかけた。
レベッカは優しいなあんなぼろ雑巾の心配するなんて。
「だ……だいぎょうぶだ……あどづごぎ」
クガも相当弱っているな……。でもあと少しってなんだあと少しで死ぬってことか?ならあれを伝えなければ……。
「クガ、あの世で女神と会ったら、魔王いないのに転生させてんじゃねえよ、クソ無能がお前が地獄に落ちろ、と伝えてくれ。」
「それは自らの口で伝えるのだな。俺は老衰か病気でしか死なない。俺のユニークスキル、ノットデッドとこの前のダンジョンで手に入れたパーフェクトヒール、この二つのスキルでフェニックス(不死身)と化した」
と、クガは起き上がって言った。
ものすごいことなのだろうけどこいつの攻撃能力が低いから、きっとさっきみたいにサンドバックになるだけなんだろうな。可哀想に。
「貴様らダンジョンに財宝回収に行くのだろう?さっきの借金の話で合点がいった。分け前は要らないから手伝わせろ。」
クガは、俺たちに手を伸ばして言った。
分け前無しで手伝うって、こいつはお人好しなんだな。さっきまで俺達に蹴られてたのにもしかして痛みで喜ぶ困った人なのか?迷惑だ帰って欲しい。折角トラブルメーカーを置いてきたのになんで増えるんだよ……、憂鬱だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます