第20話

「あなたは誰ですか?」

 扉を開けてすぐ目に映った女性に尋ねた。女性は長い黒髪に黒目、服装は格好良くスーツを着こなした二十代のような若々しい見た目をしている。俺よりは年上だろう。


「私はニーナです。あなたがダンジョン破壊犯の一人、東条屑さんですね。あなた方パーティーには審問所まで来てもらいます。」

 俺は扉を開け、外にいた鎧甲冑の人を大勢連れたきれいなにニーナさんに言われた。


 破壊犯ってことは俺たちテロリストじゃないか……、これじゃあどれだけ徳を積んでも無駄じゃないのか!


 俺は、もはや天国行きは無理だと悟り、目の前が真っ白になった。


「おい!返事をしろ!」

 ニーナさんは顎を突き出し、眉をしかめてして言った。


 怖っ!!何でこの人不機嫌そうなんだ?


「分かりました。すぐにあいつら呼んで来ます」

 俺はその場から立ち去り、急いで屋敷の中に戻った。


「おいお前ら、俺達はダンジョン破壊犯ということになってるらしい。審問所に連れて行かれる前に。逃げるぞ。掴まれ」

 俺は和、詩織、レベッカの三人に手を伸ばした。


 ダズは今いないが、ダンジョンに行ってないから何も問題ないだろう。


 和と詩織は、躊躇無く俺の手に掴まった。

「了解だ、屑」

「屑、逃げるって、でもどこに逃げるの?」

 詩織は首を傾げて、尋ねてきた。


 確かにどこに逃げる?ギルドは無理だろうし……、ひとまず酒場に逃げるか。


「あの……、逃げずにしっかり説明したら分かってもらえるのではないですか……?」

 レベッカは消えそうな声で呟くように提案した。


「それは無理だ。俺達には戸籍がない、だから適当に裁判して適当に死刑になるに違いない。だから逃げるぞ」

 と、俺は躊躇っているレベッカに手を伸ばした。


 そう俺達は転生者だ、戸籍がない。みんなに優しいでお馴染みこの東条屑さんでも、戸籍がないテロリストの話を信じないのに、あの怖い人達が俺達を信じてくれるわけない。

 

「戸籍が……無い?……分かりました。」

 レベッカは戸籍が無いことに戸惑ったが、ゆっくりと俺の手を掴んだ。


 また、クガと同レベルだと思われてるんだろうな……、って今はそれどころじゃない。


「よし、テレポート」

 一先ず即死刑は免れた……、これからどうしたものか……。


「あれ?移動できない、どうして……?」

 目の前の光景が変わらず、俺は困惑した。


 何でだ?魔力は全然残ってるのに移動できない。どういうことだ?早くしないとニーナさんが来る、急がねば……。



 扉の向こうからドカドカと大きな足音が近付いてける。


「やばい!!こっちに来る!死刑は嫌だ、死刑は嫌だ、死刑は嫌だ!!」

 俺は両手で頭を抱え、振り回した。


「ねぇ屑、早くして!私まだ死にたくないんだけど!!」

「やってるよ!!やってるけど、移動できないんだよ!!バカ!!」

「え!?屑どういうことだ?」

「同じこと二度も言わせんな、バカ!」


 レベッカはこの状況を止めようにもタイミングが分からず、発言者を目で追って首を左右に振っている。


「待って!落ち着いて和、ここは一緒に屑を審問官に突き出しましょ?ダンジョンを破壊したのも、計画したのも、全部屑一人なんだから!」


 は!?この野郎、俺がいなければ死んでいたくせに……。


「ふざけんな!その俺がいたから今お前らは生きてるんだろ!」

「うるさいわね!レベッカちゃんが言ってたでしょ?私なら悪魔ぐらい倒せるって、覚えてないの!?」

「もういい詩織、早く屑を取り押さえよう!」

 二人は、俺の手足を取り押さえた。それでも俺は、陸に上がった海老のように体を振り必死に抵抗した。


 こいつら、地獄で必ず復讐してやる!


「早くしろ!!この愚図野郎がぁ‼」

 ニーナさんは、ヒールで扉を蹴破り屋敷の居間に入ってきた。


 うわぁぁぁ!!死ぬ、死ぬ、殺される!!こうなったら……。


「ダンジョンを破壊の実行犯はこの二人です。今俺に、濡れ衣を着せようとしています。助けてください!!」

 最後の力を振り絞り、ニーナさんに必死に訴えかけた。


「うるせえ、ボケ!!御託はいいんだよ!!オラ!!来い!!」

「ゴハッ!」

 ニーナさんは、床に取り押さえられている俺の顔を蹴った。


 え………?何で俺蹴られたの?


「連れて来い!!」

 そう言い残して来た道を戻り、屋敷の外に向かった。すると後からゾロゾロと鎧甲冑の男達が居間の中に入り俺達を担いで屋敷の外に運び出した。


 屋敷の外に出ると、ニーナさんが馬に乗って待っていた。


 馬?馬車で移動するのか?でも荷台がない、それに馬が一匹しかいない、どういうことだ……?


「遅えんだよ、この愚図共が‼次私を待たせたら極刑だ、いいな!?」

 ニーナさんは相変わらず、顎を突き出し眉をしかめている。これがニーナさんの怒っているときのデフォルトなのだろう。


 パワハラだ!これは完全にパワハラだ!この世界だとこれほどのパワハラも許されているのか!?


「ハイッ‼」

 と、鎧甲冑の男たちは息を揃えて敬礼し、返事をした。


「それでは行くぞ、急いでついて来い!!」

 ニーナさんは馬にムチを打ち、走り出した。


 急げって言ったって、馬がいない、どうするんだ?


「あの俺達は?」

「任せろ」

 鎧甲冑の人はそう一言だけ答えた。


 任せろ……?何を?


「キャプチャー」

 何故か鎧甲冑の男は、俺と自身を縄で縛った。縄で縛られた鎧甲冑の男は体勢を崩し、その場に倒れた。


 え?どういうことだ?この人は何をしているんだ?


 俺は理解できない恐怖から過呼吸になった。そして女性がこちらに戻ってきた。


 良かった……、馬車か馬でも取りに行っていたの……か?違う、ニーナさん一人だ。


「おいこの鎧を着たノロマ共とっととしやがれ!愚図!無理なら言え、この馬で引きずって行ってやる!」

「ええー⁉俺達のために馬車を迎えに行ってくれたわけじゃないの⁉」

「うるせえ‼贅沢言う、ボケ!!」


 さっきかこの人は何でこんなに怒ってるんだ?


「この私を引きずり回してください!」

 俺を縄で縛った人が敬礼して言った。


「待て、なら誰か別の人が俺を担いでくれ」


 冗談じゃない。この変態の性癖のせいで馬に引きずり回されるなんて嫌だ!


「良いだろう、縄を私に寄越せ‼」

 変態は俺と自身を縛っていた縄を解き、足だけ縄で縛って女性に渡した。


 まさか、この人はニーナさんに引きずり回されるためにら俺を縛るということにしてキャプチャーで縄を出したのか?ふざけんな!!


「待てー!待ってくれ!そうだ!俺も走る!」

 俺は必死にその場で藻掻いて訴えかけた。


 変態のために死ぬなんて嫌だ!どうにかして逃げないと。


「黙れ‼そうやって逃げる気だろ!このボケ‼」

「ぶひ……すまんな。ぶひ……でも我慢できないんだ。」

 何故か変態は顔を赤くして、ハァハァと息が荒くなっていた。


「嫌だ、嫌だぁぁぁぁぁぁぁ」

 俺が訴えを最後まで聞くことなく、女性は馬を走らせた。


 死ぬ、死ぬ!レンガのざらざらのせいで、顔がすりおろされるように痛い。


「どうだぶひ?最高ぶひ?君死ぬ前に良い思いが出来て良かったぶひな。」

 目がイッてて、こちらを向いているのに目が合わない。


 殺す!今馬に引っ張られてるのはこの変態のせいだ、俺が死んだら恨むリストに入れてやる。


 馬は猛スピードで走っているため、引きずられている俺は頭に石がぶつかると衝撃で頭は跳ね上がる。そこから三十分ほど走ってようやく馬が止まった。


「はぁ……はぁ……助かった、生きてる……」

 俺は体中を触って、生まれて初めて生の実感をあじわった。そして隣の鎧甲冑の男も起き上がった。


「ぶひ、気持ちよかったぶひ」

 余韻に浸っているのか、随分と幸せそうな顔で空を眺めている。


 ドMなお前が鎧着てて俺が鎧着てないなんておかしいだろ!俺が死刑になったらこいつだけは道ずれにしてやる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る