第19話

「なんでまたお前らがいるんだよ……。」


 そこにはクガ達がいた。クガは全身赤くなった包帯でグルグル巻きにされ、横たわっていた。


「なんだお前らもこの馬車なのか?」

 俺たちに気づいたイシダは、振り返り言った。


「当たり前だ。これは俺たちの乗る馬車だ。お前らがいるほうがおかしいんだよ」

 俺は休めると思っていたのに面倒くさいのが乗っていて、つい不機嫌そうに言ってしまった。


「仕方ないだろ。ギルドの手違いで馬車の数が一つ足りないんだから」


「そんな大事なことなら行く時言えよ」

 俺はため息交じりに答えた。


「そんなことより迷宮のラビリンス終焉の間(ダンジョン最奥)には辿り着けたのか?」

 横たわっているクガかが目を覚まし俺達に尋ねた。


「たどり着いたわよ。財宝は手に入らなかったけど。」

 詩織はこれ以上質問されないように答えた。


「それでは出発いたします」

 前に座っている御者の声が聞こえた。


「それよりクガさんは怪我って大丈夫なんですか?」

 レベッカは心配そうに聞いた。


 相変わらずレベッカは優しいな。とはいえこいつの怪我ってカッコつけて走って、階段で躓き転がり落ちただけだ。どうでもいい。


「大丈夫だ。あの後俺達は迷宮のラビリンス(ダンジョン)から出たんだけど正体不明のバイオウイルスによる病(風邪)で僧侶が帰ってて仕方ないから俺の溢れんばかりの魔力(出血)を抑えるために、この封魔の布(包帯)で俺を封印(処置)したのだ。」

 クガは、いちいちわかりにくく言い換えて説明した。


「そんなことより、魔王が討伐され……」

「しっ!聞くな、和」

 俺は半歩前に出て、和の顔の前に腕を伸ばして発言を制止した。


「どうせ馬鹿にされるか、面倒くさい言い回しで説明してくるだけだから聞くな。屋敷でレベッカに聞こう。」

 と、クガに聞こえないよう和に耳打ちで伝えた。


「そうだっ!お前らには吾輩の命を救ってもらった恩がある。是非うちの屋敷に来てくれ。謝礼を払いたい。」

 クガは、俺たちに救ってもらったことを思い出したのか突然の提案をしてきた。


「え?何?お金くれるの?あんた良いやつじゃいのよ。」

 ついさっきまで俺たちと同じくクガのことを面倒くさがっていた詩織は、勢いよく手のひらを返した。


「いや、クガ結構だ。冒険者として当然のことをしたまでだ。」

 俺はクガと詩織の話に割って入り提案を却下した。


「屑何でよ?」

「おい屑、くれるって言ってるんだから貰うんだよ。」

 詩織は両手を広げて尋ね、和は肩に手を置き言った。


「おい、耳貸せ。いいかお金くれるって言ったってあいつが大した額くれる訳ない。クガの家なんて行く面倒くささとお金絶対に釣り合わないぞ何なら損するかもしれないぞ。」

 俺はクガに聞こえないよう、二人に小声で伝えた。二人は俺の言葉を聞き、二本の指で顎を掴み、目を閉じて考えた。


「……確かにその通りね、私たちは当然のことをしたまでだから謝礼は結構よ」

「俺も謝礼は結構だ」

 二人は俺の考えを理解してくれたようだ。


「着きましたよ」

 再び前から御者の声がした。どうやら馬車は街に入り、ギルド前に到着したらしい。


「さらばだ、貴様ら次会う時はお互い的同士だ。」

 またしても面倒くさい一言を残し、クガ達は一足先に馬車を下りた。


 最初から最後までよく分からないやつだったな。次あったら本当に敵と見なしてボコボコにしてやる。


 嘆息を吐きつつ、俺達も馬車を下りた。そしてギルドに入り報酬の5万ギラを受け取り、歩いて屋敷に帰った。


 屋敷に着くと、体の奥底から疲れが一気押し寄せてきた。俺、和、詩織の3人はその場に倒れた。


「ああああああああああああああ!」

 疲労が限界に達したのか、詩織が叫んだ。


 どうした?やっぱりお酒で頭がやられてたのか、可哀想に。


「ダンジョンボス倒したのに!あのクソ悪魔のせいで大金がぁ!」

 和も限界に達していたのか、それともダンジョンの財宝を持ち帰れなかったことが相当悔しいのか叫んだ。


「おまけに魔王討伐されてたし、俺たちは何のためにここに来て命の危険ある冒険者やってんだ!?あのクソ女神が!」

 俺も限界に達しており、叫んだ。


 あのクソ女神が、再び死んだらあいつだけには仕返ししてやる!!


「そうだ魔王が討伐されたってどういうことなんだ?レベッカ?」

 和はふと起き上がり、レベッカの顔を見て尋ねた。


「魔王は討伐されたんですよ、一週間前に。」


 一週間前⁉俺たちがこの世界に来る数日前じゃないか。絶対あの女神魔王が討伐されたことあの時知らなくて俺達を転生させただろ、許せねぇ。


「誰が魔王を討伐したんだ?」

 カズは再び眉を細め、レベッカに質問した。


「誰かは分かりませんが職業が勇者の方と言われています。討伐した方が魔王の首を王宮に運び、討伐が発覚しました。」


 勇者?えっ……?めっちゃ強そうじゃん……。復讐は女神だけにしよう、魔王を討伐した英雄に無礼を働いてはいけないからな。


「魔王ってどのくらい強かったんだ?」

 好奇心にかられた俺は、レベッカに尋ねた。


「魔王は、この世界の人間全員が協力して戦っても勝てない程強いと言われてました。」


「じゃあ、勇者はどうやって勝ったんだ?」


「勇者様は魔王の寝込みを襲って勝ったそうです。」


 勇者めっちゃ卑怯!やっぱり勇者にも復讐してやる。


「そんな勇者もいるのか」


 と、何故か和は感心したかのように、頷きながら言った。


 なぜ和はそんなにも感心しているのだろうか?バカの考えは理解できないな。


「何故皆さんは自分たちで魔王を討伐することに固執しているのですか?」

 レベッカが質問してきた。その質問を聞き、俺は目線を落とし、腕を組んで考え込む。


 レベッカの言いたいことは分かる、普通魔王が討伐されたなら、喜ぶべきなのに俺達は悲しんでいる。はっきり言って異常だ。このままバカ二人みたいに異常者扱いされるのは嫌だ、転生したことは別に隠しておくようなことじゃないし言うか。


「俺達は前世の行いが悪かったから地獄に行く予定だったんだが、あの世で女神に出会って地獄に行きたくないなら転生して魔王を討伐しろと言われたんだ。」

 俺は真面目な顔をして答えた。


 あれ?

 俺は、レベッカの顔が少し引きつったように感じた。


「そうなんだ。それに加えて魔王を討伐したら天国に行けるんだ」

 和が補足説明をしてくれた。今ので俺は、レベッカの顔が引きつったことを確信した。 


「それなのに、どっかのアホに魔王が討伐されてしまってて、私たちは今どうしようってなってる訳なの」

 レベッカの目は、人殺しの目のように冷たくなり、ジロリとこちらを見つめる。

 レベッカは俺たちの説明を聞いても、口を開こうとせず、その場に重厚な空気が流れた。


「……分かりました。皆さんはクガさんと同じ種類の人間なんですね」

 レベッカの冷めた声が、屋敷の中に静かに響いた。


 辛い!レベッカのあの冷めた目で見られるのが辛い!!。


「違う!あんなバカとは全然違う。信じて欲しい、俺は嘘をついてない」


 別に、嘘つきだと思われることはどうでもいいが、あのバカと同じだと思われるのは嫌だ。


「違うわ、あんなクソとは全然違うわ。私は中二病でもないし、虚言癖でもないわ!」

「俺も違う、クガみたいなマヌケとは全然違う。」

 和と詩織もレベッカに足元にしがみ付いた。かく言う俺もあの中二病と一緒に見られるのは嫌なので、レベッカの足元にしがみ付いた。


「分かりましたよ、分かりましたから。違います、違いますから!」

 予想外の展開にテンパって、両手を前後に振って答えた。


「分かってくれたならいいのよ」

 詩織の言葉に合わせて俺達は何事もなかったかのように、スッとレベッカから離れ立ち上がった。


「それより前世の行いが悪いから地獄行きになったのでしたら今回は沢山徳を積めば良いのではないですか?」


「あ……」

 レベッカの発言に俺は深く納得し、思わず口から声が漏れた。


 確かに、何でこんな簡単な方法を思いつかなかったんだ?これからは徳を積もう。


 コンコンと屋敷内にノック音が響いた。


 誰だ?俺達に来客何て始めてだな。


「俺が行ってくる」

 俺はどうやって徳を積むか考えながら屋敷の玄関に向かい、扉を開けた。


「どちら様です……か?」

 扉の外には沢山の鎧甲冑を着た人、その先頭に日本の警察官によく似た服をビシッと着こなした女性がいた。


 え……?何だこれ?もしかして、詩織か和のバカが何かしでかしたのか?


「あなたがダンジョン破壊犯の一人、東条屑さんですね。あなた方パーティーには審問所まで来てもらいます。」

 その言葉で、俺は言葉を失い顔が青く興ざめた。


 地獄に行かないために徳を積むどころの話じゃなくなってきた。だって俺たち犯罪者なったのだからこれでは前世より悪人だ。これはきっと来世も地獄行きだな、もうどうでもいいや。

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