第16話

「行くわよ!」

 と、詩織はボス部屋の扉を開いた。


「ちょっと待……」

 俺の静止を無視して俺たち全員をボス部屋の中に連れ込んだ。


 このバカ!しっかり話し合ってからだろぉぉ!


「おお、助っ人が来たぞ」

 ボスと戦っている冒険者達が俺達の登場に喜んだ。


 これじゃあもうこの場から逃げられないじゃないか……、あいつの作戦がクソだったらまたあいつを囮にしてやろう。


「あれがボスか……」

 和は目の前の巨大な魔物を前に口から言葉が漏れた。


「あれはサラマンダースネークです。体長十mの大蛇で毒はわずか一滴でも体のどこかに触れると5分後に死にます」

 レベッカは魔物を指差し解説した。


 一滴触れたら五分で死亡とかクソゲーかよ、クソが! 


「毒は任せなさい。」

 無い胸を張って自慢げに答えた。


 でも詩織は回復魔法を使えなかったはずだ。


「回復魔法使えないんじゃなかったのか?」

 眉を細めて尋ねた。


「毒みたいな状態異常は回復できるわ。状態回復魔法は覚えられたから」

 張った胸に手を当てフン!鼻息を吹き荒らした。


 確かにウルフドッグ戦の時、酔いを治してたな。


「まじか、ナイス」

 和が詩織にグッドサインを送り褒めた。


「それだけじゃないわ、私の活躍する作戦のメインはバフ魔法のほうよ。ここにいる全冒険者にバフ魔法を掛ければどうなると思う?」

 ニヤリと笑い意味深な視線を俺に送ってきた。


「はっ……、ボスを倒せる……。成功したらこれからも僧侶でいいぞ」

「言ったわね、忘れないでよ?プラスオーバーステータス」

 と、杖を掲げその場にいた俺達を除く全冒険者に全能力超上昇のバフを掛けた。


「うっ!ううう‼」

 周りの冒険者はセルフハグのポーズを取り悶え始めた。


 まさかこいつ失敗したのか?


 俺は不安を感じ、一滴の冷や汗が俺の頬を通った。


「どうしたんだ?大丈夫か?」

 和は周りの冒険者に駆け寄った。


「皆さん辛そうです、詩織さんいったい何をしたのですか?」

 レベッカは両手を口元に添え、不安でわなわなと震えた。


「何したって、バフ魔法を掛けただけよ。そろそろ効果が出るわ」


「うおおおおおおおおお‼」

 冒険者はみなぎるパワーと高揚感から天に向かって雄たけびを上げた。見てみると先ほどとは比べ物にならないほど周りの冒険者たちの筋肉が膨れ上がっていた。


「パワー!」

 冒険者達ムキムキマッチョとなり各々マッチョポーズを取った。


「え……」

 俺達は唖然としてその場に立ち尽くした。詩織だけは腕を組みドヤ顔を決めている。


 モブ冒険者達は有り余る力を抑えられず次々にサラマンダースネークに襲い掛かった。


「ほらね、言ったでしょ?これが全力のバフ魔法よ。バフ効果は闘技場でやった時の二倍以上でも効果時間は同じ三分ただ疲れは十倍」


 クソ魔法じゃねえか!闘技場の時だって戦闘後すぐ疲れでろくに動けてなかったのに、その十倍ってクソ魔法じゃねえか!


「ドリャー!」

 モブ冒険者達はサラマンダースネークと白熱のバトルを繰り広げる。


 三分後……


「おい!クソ無能!サラマンダースネーク全然倒れそうにないぞ!」


 俺は憤慨した。さっきの詩織の説明通りの魔法なら周りの冒険者が動けなくなるからだ。俺達だけで倒すなんて絶対無理だ……。


「このまま逃げたらここにいる人達全員たられちまうぞ、どうする屑」

 和が俺に耳打ちした。


 そうなのだここで逃げれば全員やられる。いくら俺達でも夢見が悪いし、こんな大勢を見殺しにはできないぞ……。


「仕方ないわね。レベッカちゃんその剣貸して」

 と、気だるそうに後ろ頭を掻いた。


「別にいいですけど……」

 レベッカは詩織に剣を手渡した。


「でもどうするのですか?」


「まあ見てて、本当はやりたくないけど僧侶でい続けるため、プラスステータス」

 自身に全能力上昇のバフ魔法を掛け、杖を投げ捨てた。


 バフ魔法自体は闘技場の時と同じの?いくら詩織でも本当に勝てるのか?


「おいおい勝てるのか?」


「勝てるわよ、あれくらい」

 詩織は自信満々に答えた。

 それなら初めからお前が戦えよ、バカ!

 それは瞬きよりも早い一瞬の出来事だった。気が付くと詩織は視界から消え、宙にはサラマンダースネークの首が舞っていた。前を見ると首のない体だけとなったサラマンダースネークが目に映った。


「は?」

 またしても詩織以外の俺達三人は唖然とし、口から言葉が漏れた。


「よしこれで倒したからあたしはこれからも僧侶ね」


 詩織は体だけの体だけのサラマンダーの上に立っていた。どうやら詩織が一瞬でサラマンダースネークの首を斬り飛ばしたようだ。


 こいつこんなに強いなら戦士や剣士になっても全然危険じゃないだろ!


「さっそく進むわよ」


「あ……あぁ。マップによるとこの先がダンジョン最奥の財宝部屋だ」


「くっ……疲れで……もう動けない、目の前は財宝部屋だっていうのに……。」

 周りの冒険者たちはバフ魔法の反動で倒れたまま動けないでいた。


「ラッキー!財宝あさり放題だな」


 和の言う通りだ。周りの冒険者が動けないならこの先の財宝は全て俺たちのものだ。


「ラッキー?違うわよ。私がバフ魔法を掛けたからよ」


 確かにその通りだが、都合良く言われてるな。だがそれでも良い、なぜなら俺達には莫大な金銀財宝が目の前にあるのだから。


「おおー、でかした!どれだけ活躍する気なんだよ」

 和が珍しく詩織の肩を叩き褒めた。


「詩織さん流石です。」


「レベッカちゃん感謝なら言葉じゃなくて体で払ってくれる?」

 と、背後からレベッカに抱き着いた。

 

 どれだけ活躍しても変態は変態のままなんだな……。


「それじゃお宝あさりするか!」

 俺はそう言って財宝部屋の扉を開けた。すると突然俺達は財宝部屋の中に吸い込まれた。


「何なんだよいきなり……」


「お前らなんだぁ?冒険者かぁ?」

 と、全身が黒い体毛に覆われ頭に角が生えて背中には羽の生えた細マッチョな二足歩行の生物がいた。まさに悪魔のような見た目だ。


 さっきボス戦したのにまた戦うのかよ……いや逃げよう!。

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